第97話 二体のキング
二十階層のボス部屋は、十階層同様特殊ステージとなっている。
空間自体は広いのだが、周りには木々が固まっていて壁のようになっていた。通常ステージよりは草木が密集しておらず、割りと戦い易い場となっている。
肝心の階層主は、キングトレント。
トレントの
ネットの前調べでは、沢山の枝を伸ばして攻撃してくるのが主なパターンだ。
キングトレント自体はその場から動かないのだが、枝による物理攻撃が激しくて近寄れず、徐々に体力を失われて追い詰められそのまま敗北といったパターンが多い。
「どうやら、普通の二十階層のようですね」
「よかったよぉ、また十階層のように変なステージじゃなくてさ」
周りの背景を見回した楓さんがそう告げると、島田さんが安堵したように息を吐いた。
前回のボス部屋が通常とは異なったイレギュラーステージだったから今回もそうなる可能性があると視野に入れていたが、どうやら普通の二十階層だったようだ。
だけど今回も、普通のようで普通でない。
何故なら、本来階層主一体と戦うはずなのに、灯里を攫ったシルバーキングもこの階層にいるからだ。
俺たちは、同時に二体の
「ゲゲゲゲゲゲゲゲ」
「ウホッウホホホホ」
ステージの中心で耳障りな鳴き声を発するキングトレント。その背後には、意識を失っている灯里がシルバーキングに抱えられている。
良かった……まだ殺されてはいないようだ。
シルバーキングがどうして灯里を害さないかは全く分からないけど、何かをされる前に早く助け出さないと。
「灯里さんがキングトレントの後ろにいるのが厄介ですね。まずは突破して灯里さんを助けましょう。シルバーキングの行動にも注意を払ってください。プロバケイション、ファイティングスピリット!」
「ソニック、プロテクション」
楓さんが【挑発】と【戦意高揚】の魔術を、島田さんが【加速】と【防護】のバフをかけてくれる。
駆け出した楓さんに俺も続こうとするが、その前にメムメムが注意してきた。
「シロー、灯里を助けたい気持ちは分かる。けど、こういう時こそクールになれ。頭に血を上らせた状態じゃ周りが見えなくってしまうからね」
「分かった……ありがとうメムメム」
確かに俺は、早く灯里を助けなくちゃと焦っていた。
焦燥感を抱いたまま戦っていたら、すぐにミスを犯して死んでしまっていたかもしれない。
普通に戦ったって勝てるかギリギリな相手なんだ。いつも以上に集中し、神経を研ぎ澄まさなければならない。
「一人で突っ走るなよ。カエデの影に隠れて攻撃に慣れるんだ」
「了解!」
「タクゾウは今回前に出なくていい。すぐに回復できるよう準備しておいてくれ」
「おっけー」
今度こそ俺は駆け出す。
すると、邪木王の枝が数本伸びてきた。鞭のようにしなりながら迫ってくる。かなり速いぞ。
「士郎さん、私の後ろに隠れてください!」
「お願い!」
言われた通り、俺は楓さんの背後に隠れる。
飛来してきた枝を、彼女は大盾で受け止め、弾き飛ばした。
ガキイイイインと、金属音が鳴り響く。
続く枝攻撃を、楓さんは次々と弾き飛ばしていった。ただ受け止めているのではなく、受け流しているように見える。
(凄い……なんて技術なんだ)
楓さんの防御術に驚いていると、彼女は枝攻撃をなんなく弾きながら、
「キングトレントの攻撃は、一度嫌というほど受けましたので慣れているんですよ。それに、やつの攻撃はそれほど威力もなく単純なので私と相性が良いんです」
そういえば楓さんは一度、初期のパーティーでキングトレントに挑戦していたんだっけ。
その時は惜しいところまでいったのだが、楓さんがダンジョン病を暴走させてしまい連携が乱れて仲間を次々と死なせてしまい、一人だけ残って奮闘していたんだよな。
「これは私にとってリベンジでもあります。もう、あの時のように暴走して仲間を死なせることは絶対にしません。早く倒して、灯里さんを助けましょう」
「うん、頼りにしてるよ」
楓さんと一緒に少しずつ距離を詰める。
だがその代わりに、攻撃の激しさが増していった。
「エア!」
背後からメムメムが放った風の刃が木の枝を一変に切り飛ばす。
その好機に、全員が反応した。
「「今だ(です)!!」」
「おおおお!!」
攻撃の嵐が止んだ瞬間、俺は楓さんの影から出てキングトレントに駆けだす。
慌てて新しい枝を放ってきたが、一本だけだったので回避し、そのまま速度を落とさず肉薄した。
そして――、
「アスタリスク!」
「ゲヤアアアアアアアアアア!!?」
キングトレントの顔面に✱を刻んだ。
俺の最大威力のアーツはかなり効いたらしく、邪木王は耳障りな悲鳴を上げた。
(このまま押し切ってやる!)
折角接近できた好機を逃すまいと、俺はもう一度アーツを繰り出そうとした。
だがその瞬間、嫌な予感が背筋を駆け巡る。
不意に視線を横にやるとそこには何故か、拳を振り上げているシルバーキングがいた。
「――なっ!?」
「ウホッ!」
「ぐあ!?」
思いっきり殴り飛ばされてしまい、何度も地面を跳ねながらようやく止まった。
「あっがっ……」
めちゃくちゃ痛い。
間一髪左腕に装着しているバックラーで受け止めはしたが、威力が強すぎて耐えきれなかった。
ていうかこれ、骨が折れてないか? 左腕の感覚が全然無いんだけど。
「ハイヒール!」
島田さんが上級回復魔術を使用してくれたお蔭で、痛みが引いて左腕の感覚が元に戻る。
俺は目線で感謝を伝えると、キングトレントの枝にぶら下がって苛つかせる笑みを浮かべながら俺を見下ろしているシルバーキングを睨みつける。
「あの野郎……」
苛立ってしまうのはいけないことだと分かっているが、怒りがふつふつと沸いてくるのが自分でも分かった。
今まで見物していたのに良い所で邪魔をしやがって……本当になんなんだあの規格外なモンスターは。
……どうしたらいい。
キングトレントにやっと近づけたと思ったらあいつが邪魔をしてくるし。近づかなければ何もせず静観しているし。
非常に戦い辛い。モンスターが連携なんか取ってるんじゃないよ。
(いや……連携を取っているのはあのゴリラだけか)
今の所キングトレントは設定通りの戦い方しかしていない。問題があるのは異常種のシルバーキング。あのゴリラの考えていることが、何一つ理解できなかった。
どう戦えばいいのか悩んでいると、いつの間にか近づいていたメムメムが作戦を伝えてくる。
「どうやらあの猿はシローにご執心のようだ。ボク等がキングトレントをなんとかするから、君一人で猿と戦えるか」
「俺が……一人で奴と?」
「この状況を打開するにはシローが猿を倒すしか手立てはない。厳しい戦いになるだろうが、君の力ならやれるとボクは思うよ」
「……分かった、任せてくれ」
正直言えばキングモンスターは俺一人で敵う相手ではない。
だけどメムメムの言う通り、邪魔をしてくるシルバーキングをどうにかしない限り俺たちに勝ち目はないだろう
やってやるさ。灯里を助けるためなら、一人でだって戦ってやる。
「良い目になってきたじゃないか。それでこそ××××だ」
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