第92話 経験の差
十七層の探索も順調に進み、運良く十八層への階段も見つけて階層をさらに更新した俺たち。
一日で二階層も更新したのは久々のことだった。
これも、強力なアタッカーである魔術師のメムメムが仲間に加わったお蔭だろう。
モンスターが多く出現しても、慌てることなく対応できたり。
前衛の俺と楓さんが厳しい時は的確なタイミングで援護してくれるし、灯里の手数が足りない時はそちらに回ってくれる。
臨機応変に立ち回ってくれることで、かなり戦闘に余裕ができていた。
それにメムメムはモンスターの特徴なども知っており、瞬時に弱点っぽいところを教えてくれる。
突発的なことが起きても慌てず常に
戦闘に置いては、とにかく頼りになった。
ただ、意外とサボりがちな所もある。すぐに疲れたと言って一休みやおんぶを要求してきたり、甘い物を食べたいとお菓子をせがんでくるし、子供っぽい所作も見られた。
おいおいお前何歳だよ俺たちより何倍も生きてて子供のように駄々をこねるなよ……と胸中でため息を吐いても仕方ないだろう。
勇者マルクスたちは、メムメムに対してどんな態度を取っていたのか少し気になったよ。
「リザードマン2、シビレムササビ1、ゴブリンが3。カメンライドらしきモンスターも一瞬見えました。気をつけてください、プロバケイション!」
「「了解」」
「プロテクション、ソニック」
モンスター七体とエンカウントし、楓さんが【挑発】スキルを、島田さんが支援スキルを発動する。
今回はかなり多いな。しかも厄介な
【挑発】スキルに釣られたのか、リザードマン二体とゴブリン共が楓さんに勢いよく突っ込んでくる。
俺は一体のリザードマンを狙って駆け出した。
「アカリはムササビを頼むよ。タクゾウはゴブリンをやれるかい。ボクはタクゾウをフォローしながらカメンライドを警戒しておくよ」
「分かった!」
「了解。最近は戦闘に参加してなかったから、ナマってなきゃいいけど……」
背後で、メムメムが灯里と島田さんに指示を出してそれぞれ行動している。
やっぱりメムメムがいると戦術に幅が広がるな。前衛の司令塔は楓さんで、後衛の司令塔はメムメム。ダブル司令塔が上手く機能しているのがよく分かった。
「ジュララ!」
「ぐっ」
リザードマンの尻尾による攻撃を、左腕に装備しているバックラーで防御する。なんとか耐えられたけど、衝撃で腕が痺れてしまう。
リザードマンは鰐が人化したようなモンスターだ。二足歩行だけど恐竜とかではなく、手足は長く姿形は人間に似ていた。
攻撃手段は尻尾による攻撃やパンチ。一番強力なのが強靭な顎による食いつきだろう。
一度食いつかれたら離すことは不可能に近くて、身体が千切れるか死ぬまで離れない。さらに固い鱗に覆われていることから、防御力もかなり高かった。
動きも素早く敏捷性があって、攻撃を当てるのも中々難しい。
流石高階層に出てくるモンスターなだけはあった。
(だけど俺だって、今までよりも強くなってるんだ!)
強くなっているのはモンスターだけではない。レベルも上がり、使えるアーツも増えた俺ならサシで勝てない相手ではないはずだ。
「ジュラアアア!!」
「――はっ!!」
至近距離で噛みつこうとしてきたリザードマンを躱し、カウンターの斬撃を繰り出す。
肩を斬り裂くと赤い血が飛び散ったが、鱗に阻まれたのか傷は浅い。怯むことなく、リザードマンは身体を回転させて尻尾の打撃を放ってきた。
それをバックステップで間一髪回避すると、今度は俺から踏み込む。
低い体勢から剣を振り上げ、胸を斬り裂いた。
「グオオオッ」
流石に効いたのか、リザードマンはのけ反りながら苦痛の声を漏らす。
その好機に、俺はすかさず追い打ちをかけた。
「アスタリスク!」
SPを50消費して新しく覚えた【剣術】スキルのアーツを発動する。
光り輝く剣がリザードマンの胸を斬り裂いた瞬間、✱のマークが刻まれ、一度に六回分の大ダメージを与えた。
血飛沫が舞い、リザードマンは悲鳴を上げながら背中から倒れる。
ポリゴンになって消滅していくのを横目に、他の戦況を確認した。
「チャージアロー!」
「ピギイ!?」
灯里が新しく取得したアーツでシビレムササビにトドメを刺し、
「やっぱり階層が高くなるとゴブリンだって強くなるよね!」
「ゲギャギャ!」
「うわ!?」
「アクア」
「ギャ!?」
「あ、ありがとう!」
「お礼を言うのはまだ早いよタクゾウ」
ゴブリンに苦戦していた島田さんをメムメムがフォローしている。
「灯里、島田さんを頼む!」
「おっけー!」
手が空いた灯里に指示を出しながら、リザードマンを引き付けている楓さんのもとへ向かった。
刹那、首筋にざわりと悪寒が走った俺はその場にしゃがみ込んだ。ひゅんっと、頭の上を赤いなにかが過ぎ去る。
俺はすぐさま振り返って、奇襲を仕掛けてきた敵を睨めつけた。
「そういえばお前もいたな」
「ギギギ」
木の上でカメンライドが不気味な嗤い声を出していた。
どうやら楓さんの見間違えではなかったらしい。リザードマンの前にこいつを先に片付けようとしたが、奴は再び【擬態】を発動して景色に溶け込んでしまった。
(くそ、これじゃあ見つけられない!)
奥歯を噛み締めて悔しがっていると、背後からメムメムが魔術を発動する。
「グラビティ」
「グエエエ……」
木から何かが落ちてきたと思ったら、姿を消したカメンライドが地面に潰されるように倒れ伏していた。
恐らくメムメムの重力魔術だろう。それにしても、よくあいつの場所が分かったな。
「シロー、ボクが抑えてるうちにトドメを刺せ」
「助かる、スラッシュソード!」
俺は【剣術】スキルの飛来する斬撃を放ち、カメンライドの息の根を止めた。
灯里と島田さんも協力してゴブリンを倒して、残るリザードマンはみんなで袋叩きにし、戦闘は終了したのだった。
◇◆◇
歩きながら、俺はメムメムに先ほどの戦いについて意見を聞いた。
「なあメムメム、なんで擬態化したカメンライドの居場所が分かったんだ?」
「簡単なことだよ。姿は消せても、音や気配まで消せるわけじゃない。あのトカゲが姿を現してから、ボクは奴が発する物音を集中して聞き取ったんだ。足音じゃなくても、木の枝や葉っぱが揺れる音で大体分かるよ」
「凄いな……音なんか気にしたことなんてなかった」
「音だけじゃないよ。モンスターの足跡や痕跡を探し出して居所をあぶり出す。まあこれは一朝一夕でできる芸当じゃないからね。経験の差というやつだよ」
「あはは、そんなこと言ってみたいねぇ」
「それはメムメムさんにしかできませんね」
メムメムの冒険者としての高い技量に、島田さんと楓さんが関心したように告げた。
とその時、灯里が近くの木を指して口を開く。
「ねえ、あれ自動ドアじゃない?」
「本当だ、よく見えたな」
「まあね」
「グッジョブだよアカリ、ボクはもう歩き疲れた。一刻も早く帰りたい」
「じゃあ、帰りましょうか」
楓さんの提案に、俺たちは全員で頷く。
自動ドアを潜り、ギルドに帰還したのだった。
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