第91話 魔術師の昔話
「ジャアア……」
「ふぅ、意外と早く倒せたな」
ポリゴンとなって消滅するアナコンデスを見つめながら、俺は短い息を吐く。
今回の戦闘は前回よりもスムーズに倒すことができた。その要因は、新しく覚えたアーツの“スラッシュウエーブ”と“アスタリスク”のお蔭だろう。
特にアスタリスクの威力は凄まじく、一撃でアナコンデスに致命傷を与えることができた。
発動時のアクションやエフェクトもかっこよかったし、やっぱり【剣術5】を取っておいて正解だったな。
灯里と楓さんの様子を窺うと、丁度残りの二匹を倒したところだった。
灯里も【弓術5】スキルを取り、新たに“アローレイン”と“チャージアロー”というアーツを覚えた。
アローレインは上空に矢を放ち、対象となるモンスターの真上に矢の雨を降らすアーツだ。
一発一発のダメージは通常攻撃より劣るが、攻撃範囲も広くなってるし数さえ当たれば通常攻撃よりもダメージを与えられる。
チャージアローは、矢を引き絞った時間によって威力を増加させるアーツだ。
チャージしている間はその場から移動することが出来なくなってしまうが、その分一発分の威力は凄まじい。
剣術スキルもそうだが、スキルレベルを5にするだけで凄く戦いやすくなる。
冒険者の実力としても、自分の職業適性のスキルレベルを5にしたら初心者を卒業するような風習みたいなのがあるしな。
「三人ともやるじゃないか。安心して見られたよ」
「メムメムこそもう大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。次からはボクも参加するから、大船に乗ったつもりでいてくれたまえ」
メムメムの
単純に一人、
特にメムメムはダンジョンのスキルを早くも使い慣れてしまうし、異世界の魔王(転生前の合馬大臣)を倒しただけあって戦闘センスも抜群だった。
それに加え『魔術を極めし者』という称号の恩恵により魔術の威力や効果が1.5倍増加されている。
それだけでもチート臭いのに、ユニークスキルの【消滅魔術】まで扱えるんだろ?
消滅って……聞くからにヤバそうな魔術だよな。
一体どれほどの威力があるのだろうか。本人はまだ使う時ではないと言っているけど。
そんな感じで探索をしていると、上層への上り階段を発見した。
「へぇ~、これが上に行くための階段か。このダンジョンは本当に不思議な作りをしているね。普通ダンジョンは巨大迷路か徐々に斜め下に降りていくものなんだけど、ここの場合は階段を上がっただけで次の階層に行けるんだろ? 仕組みは転移系に近いものなんだろうけど、バカげてるとしか言えないよ」
「まぁまぁ、便利なんだからいいじゃん」
納得できない顔でぶつくさ文句を言っているメムメムを灯里が宥める。
二人のやり取りを横目に、俺はみんなに提案した。
「折角見つけたんだし、階層を更新しようか。それから昼休憩にしよう」
「賛成です」
「そうだねぇ。ここでご飯食べてたら階段消えちゃうかもしれないし」
「私もすっごくお腹減ってきちゃいました」
「よし、じゃあ行こうか。メムメム、もういいか?」
「ふん、このダンジョンを作ったやつがちょっとだけ気に食わなかっただけだ。もう気にしてないよ」
そう言いながらまだ怒り気味なメムメムを連れて、俺たちは階段を上ったのだった。
◇◆◇
階段を上がると、自動ドアを潜る時ほどではないがほんの一瞬だけ視界が白く染まる。
目を開けたら、全く別の風景になっていた。密林ステージなのは変わりないからそこまで代わり映えはしないけど。
無事に十七層を更新したところで、楓さんが結界石を使用し、俺たちは昼休憩を取る。
レジャーシートを敷いて、収納から登山用の大きなリュックを取り出してお弁当を広げる。
今日も灯里が弁当を作ってくれて、中身はおにぎりと唐揚げやほうれん草のソテーだったりのおかずだ。うん、やっぱり灯里のご飯は美味しそうだなぁ。
「はい、これメムメムの分ね」
「おー! ありがとうアカリ、君は良い奥さんになるよ」
「いや~そんなぁ~」
おにぎりを頬張るメムメムに褒められると、灯里は頬を緩ませて照れるように頭をかいた。
微笑ましい二人のやり取りを、楓さんは落ち込んだ風にコンビニおにぎりを開封しながら眺めている。
なんだか居たたまれなくて、彼女に声をかけた。
「あれ、楓さん今日はコンビニで買ってきたんだ」
「ええ……私は灯里さんのように朝早く起きて弁当を作るなんて作業はできませんから……」
「でもほら、今のコンビニのご飯って凄く美味しいしコスパもいいよね!」
明らかにネガティブモードになっている楓さんを元気付けようと励ます島田さん。
そういう彼は、奥さんの手作り弁当を手にしている。励ますどころか追い打ちをかけているのは気のせいだろうか。
「楓さんの分もおかず作ってきたから食べてよ!」
「ありがとうございます……いただきます!」
「いやー、こうしてダンジョンの中で仲間とご飯を食べれるなんて何年ぶりだろうね」
おにぎりを頬張っているメムメムが、突然懐かしむように話しだす。
そういえばメムメムって、魔王を倒した勇者の仲間だったんだよな。
ここ数日家の中でタブレット端末で漫画を読み漁ってぐーたらしている姿しか見ていなかったから、彼女が凄い魔術師だということをすっかり忘れていた。
折角なので、メムメムの昔話を聞いてみよう。
「メムメムの仲間って、どんな人たちだったんだ? やっぱりみんな凄い人だったのか?」
「そんなことないよ。みんな変な奴等だったさ」
「どんな感じなの?」
灯里がそう聞くと、メムメムは腕を組んで昔を思い出すように、
「勇者で人間のマルクスは兎に角お人好しで、困っているのを見かけると誰彼構わず助けに行ってしまうし、戦士でドワーフのオルドロは金にがめつくてやたら強い奴と戦いたがるし、聖女で人間のソフィアは聖職者の癖に男遊びが大好きだしね。ね? 変な奴等ばっかりだろ?」
「う、うん……そうだね」
「イメージとちょっと違う」
「皆さんは今、どうなさってるんですか?」
楓さんが問いかけると、メムメムは水筒の温かいお茶を啜ったあと、静かに答える。
「みんな遠い昔に天寿を全うしたよ。全員、ボクが見送ってやったんだぜ」
「「……」」
中々重たい話が出てきて、俺たちは静まり返ってしまう。
そっか……エルフのメムメムは他の種族より寿命が長いから、どうしても親しい人たちに先立たれてしまうのか。
あれ、でも待てよ。
メムメムは宝箱から出てきた時、最初にこんなことを言わなかったか?
「なあメムメム、最初に俺と会った時さ、俺のことを勇者マルクスだと勘違いしてなかったか?」
「そうだね……あれはボクも寝ぼけてたんだよ。死んだはずのマルクスに似てたから、つい言ってしまったのさ。よーく見たらあんまり似てないのにね」
「でも、勘違いするぐらいは似てるんだよね?」
島田さんがそう聞くと、メムメムは「まあね」と言い続けて、
「まとう雰囲気がそれっぽいってだけさ。さあ昔話はこれくらいにしておこう。ここはダンジョンの中だ、そろそろ戦いに意識を切り替えないと危ない目に遭うよ。君たちは熟練の冒険者じゃないんだからさ」
「そうだな。そろそろ結界石の効果も切れるし」
俺たちは昼食の片付けをして、少しゆっくりした後、十七層の探索を開始するのだった。
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