第80話 魔術の制限

 


 異世界のエルフ、メムメムを保護することにした俺たちは、帰還するためにも自動ドアを探そうとするのだったが……。


「メムメムさん、貴女はモンスターと戦えたりしますか?」


「カエデは面白い冗談を言うね。既に伝えてあるはずだが、ボクは魔王を滅ぼした勇者パーティーの魔術師なんだよ。戦えないはずがないじゃないか。言っておくけど、君たちなんか小指を振っただけで殺せちゃうぜ」


 失敬だなぁといった雰囲気で話すメムメム。


 改めて考えると凄いことだよな。勇者と一緒に魔王を倒したってことは、世界を救ったってことだもんな。


 もしそれが嘘ではなく本当の話だとしたら、俺たちは物凄い人物に出会ってしまったんじゃなかろうか。


 あれ……平気でタメ口で喋ってるけど、ちゃんと敬ったほうがいいのか?


「では、魔術を使ってみせてくれませんか? なんでもいいので」


「そうだね、見せないことには信じてもらえないか。いいだろう、じゃあ簡単に水を出してみようか」


 そう言って、メムメムは俺たちに見せるように手の平を出す。

 だが、十秒以上経っても水は出てこないし、何も起こらない。

 拍子抜けして、彼女の表情を伺うと、困惑しているようだった。


「おかしい……魔術が使えない」


「水を生み出す以外のはどうでしょう?」


「ボクもそう思って色々な魔術を試しているのだが、全部発動しないんだ……これはどういうことだ?」


 う~むと悩まし気に首を傾げてしまう。

 おいおい……大丈夫か? 実は全部嘘でしたってことじゃないだろうな。


 その後もメムメムは手を翳したり両手を大きく開けたりと試してはいるが、見事に何も起こらなかった。


「おかしい……魔術が発動しない。いや……制限ロックをかけられているのか? 僅かだが、他者からの干渉を受けている気がする。このボクを抑えるほどの強力な制限魔術だと? そんなことができる存在があるのか?」


 どうやら違和感を抱いているらしい。

 ブツブツと小言を呟いているメムメムに、楓さんが提案する。


 こういう時って、本当に頼りがいがあるよな。

 俺たちじゃ考えつかないことを思いつくのだから。


 本人はただのオタク文化に強いだけですって答えてるけど。


「メムメムさん、一度『ステータスオープン』と唱えてもらってもいいですか? もしかしたら、目の前に数字が表記されたウインドウが出てくるかもしれません」


「よし、やってみよう。ステータスオープン――ッ!?」


 発動キーの呪文を唱えた瞬間、メムメムが驚愕する。

 俺たちには見えないけど、どうやら楓さんの読み通りにステータスが出現したみたいだ。


「驚いた……本当に出てきたよ。それもボクの名前や、すっかり忘れていた年齢まで明記されているじゃないか。レベルは……15? おいおい、このボクがたかだか15だって? どうみたって低いだろ。そこはマックスとかじゃないのか。誰が調べたのか知らないが、ボクは断固として抗議するぞ」


 自分のレベルを確認してぷんすかしているメムメムに、今度は灯里が質問する。


「職業とか、スキルとかってどうなってる?」


「そうだね、ボクも分からないことだらけだから説明しながら色々と聞こうじゃないか」


 ということで、俺たちはメムメムにステータスについての講座をすることになった。


 彼女のステータスを教えて貰いながら、順番にどういう意味であるか説明する。


 その情報を纏めると、大体こんな感じだった。


 ・レベルは15。

 ・職業は魔術師。

 ・使用可能なSPは500。

 ・ステータスは15レベルに準ずるけど、魔術師だからかMPがかなり高い。

 ・スキルは何もないけど、取得可能なスキルは山ほどある。

 ・【消滅魔術】というユニークスキルがある。

 ・『魔術を極めし者』という称号がある。


 といったところだろう。


 ぶっちゃけ半端ないステータスだ。

 なんだよ【消滅魔術】って……名前からして絶対強いだろ。

 それに『魔術を極めし者』という称号も、世界を救った魔術師なだけはあるなと感心した。


「ははは……こんなんチートじゃないか……」

「ですよねぇ……」


 ドン引きする島田さんに同意する。

 ステータスに関してはチートといってもいいだろう。最初からユニークスキルと称号を所持しているのだから。


「なるほど……そういうシステムなのか」


「楓さん、よくわかったね!」


「ええ……自分の魔術が使えないと聞いてピンときました。もしかしたらメムメムさんが使える自前の魔術は、ダンジョンの中では禁止されているのかもしれません。ですが、ダンジョンのルールにある魔術なら使える可能性があります。ということで、なにかスキルを取得していただけませんか?」


「よし、じゃあこれとこれとこれにしよう」


 メムメムはポチポチとステータスウインドウを操作し、スキルを取得していく。

 そして、手を翳して呪文を唱えた。


「アクア」


 その瞬間、手の平からサッカーボールほどの水球が放たれ、近くの木に着弾する。穿たれ穴が空いた木はドドドと倒れた。


 魔術が発動できたメムメムは、手の平を見つめて感動するように、


「これがダンジョンの魔術か……なんだか初めて魔術を使った時のことを思いだして無性に懐かしくなったよ」


「これで確証は得られましたね。メムメムさんは自分の魔術は使えないですが、ダンジョン産の魔術なら使えるようです。ただ、“外に出た時も使えるかどうかは分かりませんが”」


 なるほど……メムメムを現実世界に連れて帰った時、果たして異世界の魔術は使えるのかどうかってことだよな。


 もし使えるとしたら……それって本格的にやばくないか?


 やばいよなぁ……。


「よし、とりあえず自衛手段は確保できた。感謝するよ。早速その自動ドアとやらを探しに行こうじゃないか」


「でも、無理しちゃダメだよ。俺たちは死んでも元の世界に帰れるけど、メムメムがどうなるか分からないんだから」


「そうだよ! 今は何もしなくたっていいからね!」


 ダンジョンのルールはさっき説明してある。


 この中で死んでも、現実世界に五体満足で帰れることも。だけど、メムメムもそのルールが適用されるかは分からない。


 だから俺と灯里が念を押して忠告すると、メムメムは「お言葉に甘えて任せよう」と言ったのだった。



 ◇◆◇



 その後、運が良かったのかモンスターと出くわすことなく自動ドアを発見した。

 しかし、運が悪かったのか自動ドアの前に三体のモンスターがウロウロしている。


「ゴブリンナイトに、ビッグアントですね」


「見たことある魔物だ」


「知ってるのかい?」


 島田さんが問いかけると、メムメムは「まあね」と言って、


「冒険者ではないから一々魔物の名前は覚えなくて名前までは知らないけど、見たことはあるよ。流石にゴブリンぐらいは知ってるけどさ」


 ってことは、メムメムがいた世界でも同じモンスターがいるってことだよな。

 やっぱり、このダンジョンと異世界は関係しているのだろうか。


 メムメムは島田さんの隣で待機して貰い、俺たちは三体のモンスターと戦闘を始める。


 そこまで強いモンスターでもないし、数も少なかったから問題なく倒せた。


 俺たちの戦闘を見学していたメムメムが、感心したようにパチパチと手を叩きながら話す。


「中々良いパーティーじゃないか。バランスも良いし、連携もしっかりできている。個々の実力も申し分ない」


「あ、ありがとう」


 魔王を倒したっていう魔術師から褒められると、なんか嬉しくなるな。


 モンスターを掃討した俺たちは、自動ドアの前まで近づく。すると、ウイーンと自動ドアが一人でに開いた。


「これが異世界へのゲートか。中々画期的だね、ボクたちの世界じゃ見ないものだ」


「メムメムさん。最終確認ですが、私たちと一緒に帰還しますか? 異世界人の貴女がどうなってしまうのか、私たちにも分かりません。もしかしたら死んでしまうことだってあります」


「大丈夫だよカエデ。ボクは今さら死を恐れたりしない。それよりもそちらの世界への興味が尽きないんだ。早く行こう」


 わくわくした表情で言うメムメムに、俺たちは顔を見合わせて軽くため息をつく。


 こりゃ心配するだけ損だな。


「じゃあ、帰ろうか」


「ふふふ、楽しみだ」


 帰還したらどうなっているか分からない。

 多分、謎の十層の時と同じように色々聞かれるだろう。


 その時は、全力でメムメムを守ろうと思いながら、俺たちは自動ドアの中に入ったのだった。

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