第78話 謎の銀髪少女
「うわぁ……」
「……」
「またですか」
「ツいてるのかツいてないのか……前回のお詫びって感じかな?」
十六層を探索している時のことだった。
俺たちの前に、また宝箱が現れる。
俺は辟易とため息をついて、灯里は神妙な表情を浮かべ、楓さんはうんざりそうにボヤき、島田さんは困ったようにから笑いをしている。
本来ならば喜ばしいことなんだが、前回開けてみて罠転移に引っかかった苦い思い出があるので、誰もが微妙な反応をしていた。
さて……これどうしようか。
今度こそ良いものがドロップすると信じて開けるか、罠転移を警戒して開けないか。
とりあえず皆にどうするか聞いてみよう。
「どうする?」
「罠転移の可能性があるかもしれませんが、そもそも罠転移の確率はかなり低いです。普通ならアイテムがドロップするでしょう。流石に二回連続はないと思うので、開けてみてもいい気がしますが……」
「それってギャンブル理論だよね? でもまぁ、僕も開けてもいいと思う派だけど……」
そう言って、二人はチラリと灯里の方を見やる。
灯里は、俺が罠転移でエラい目に遭ったのが自分のせいだと思っているらしい。俺がいなくなった時も、大分取り乱したそうだ。
だから、彼女に気を使っているのだろう。
灯里は宝箱をじーっと見つめながら、静かに口を開く。
「開けてもいいよ。私なら大丈夫だから」
「そっか、じゃあ今回は俺が開けてみるよ」
「何が起きても慌てないように、心構えをしておきましょう」
楓さんの注意に、全員が「うん」と頷く。
俺はしゃがみこんで、ごくりと唾を飲み込んだ後、恐る恐る宝箱の蓋を開けた。
宝箱を開けた刹那、目映い光があふれ出す。
――またこの展開かよ!?
「士郎さん!!」
灯里が叫び、俺に抱き付いてくる。
腕で目を覆って光を防ぎ、成り行きを見守っていると……。
「あれ、何もない?」
「上です!」
罠転移もなく、宝箱の中身も空で拍子抜けていると、突然楓さんが大声を出した。
つられて見上げると、真上にポリゴンが輝きながら収束していく。
(これは……)
ポリゴンの収束する現象はアイテムがドロップする時もそうだが、俺たちはもう一つ知っている。それは、ダンジョン被害者が現れる時だ。
思った通り、ポリゴンは収束していき人の形を成していく。
その人は――銀髪の少女だった。
ふわっと、意識のない少女が落下してくるので、俺は咄嗟に少女を抱きとめる。
ステータスの恩恵か、それとも少女が軽いからか、尻もちをつかず受け止めることができた。
(綺麗だな……)
少女は綺麗だった。
絹のようなサラサラで長い銀の髪に、処女雪の如く真っ白な肌色。人形のような端正な顔つき。身体は小さく細く、子供のような体型だ。
その身体を包み込んでいるのは、魔導士のようなローブ。
だけど俺は、そのどの部分よりも目を奪われてしまう箇所がある。
それは、彼女の耳が長く、横に真っすぐ伸びていることだった。
「うわぁ……すっごく可愛い」
「外国の方ですかね……」
「子供かな?」
三人が、銀髪の少女を覗き込む。
すると、少女の瞼がパチリと開いて、俺と目が合った。
「やぁマルクス、助けてくれるのは君だと思っていたよ」
「へ? えっと……俺はマルクスじゃなくて、許斐士郎だけど……」
「随分会わない間に冗談が上手くなったじゃないか。さてはオルドロ辺りに仕込まれたな?」
「いや本当にマルクスじゃないよ」
「え?」
「え?」
「「……」」
「本当だ、君はマルクスじゃない。顔は似ているが少し違う……だが魂の形が……」
俺がマルクス何某ではないと分かってもらえたのだけど、今度はぶつぶつと呟いてしまっている。
わけが分からず混乱して三人にどうしようかと視線を投げるも、三人とも俺と同じように驚いていて助けてくれなかった。
この少女、ダンジョン被害者なのだろうか?
なんかダンジョン被害者の反応と違う気がするんだけど。
「えっと、立てる?」
「ああすまない。もう少しお姫様気分を味わいたいところだが、状況を把握するにもこの体勢では話しづらいな。下ろしてくれて構わない」
「ああ、うん」
俺は少女を地面にそっと下ろす。やっぱり、身長は低いな。百五十くらいだろうか。
少女は俺たちを見回すと、改めて口を開いた。
「まずは挨拶からといこうじゃないか。ボクの名前はメムメム。凶悪なる魔王を滅ぼした勇者マルクスの仲間であり、大魔導師アルバスの一番弟子であり、ただのエルフでもある。よろしく頼むよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます