第77話 スキルの進化

 


 アルバトロスのリーダー、風間さんから勧誘を受けた次の日の日曜日。


 俺たちは午前中からダンジョンに入り、上層への階段を発見して十六階層を探索していた。


「ギガントマンティス1、ポイズンバタフライ2、アナコンデス1。灯里さんはポイズンバタフライをお願いします」


「任せて!」


「士郎さんはアナコンデスをお願いします――いけますか?」


「大丈夫、いけるよ!」


「ソニック、プロテクション!」


 楓さんに問われた俺は、安心させるために力強く返事をした。

 波打つように身体をくねらせながら接近してくるアナコンデスと正面から対峙する。


「シャアアア」

(恐くないぞ)


 宝箱による罠転移の際は、こいつからひたすらに逃げることしかできなかった。

 だけど、今とあの時は違う。

 前は俺一人しかいなかったけど、今は頼もしい仲間がいる。背中を預けられる頼もしい仲間がいる。

 ちっとも恐くなんてなかった。


「来い」

「シャアア!」


 斜め上から、大きな口を開けて突っ込んでくるアナコンデス。

 ステップして横に回避した後、胴体に剣を突き刺した。


 悲鳴を上げる大蛇は、大きな尻尾を振り払ってくる。事前に察知していた俺は、頭を屈めて紙一重で躱した。


 アナコンデスの攻撃方法は体当たりに噛みつきに尻尾での振り払い。

 そのパターンを頭に入れておけば、後は状況を読んで対処することができる。

 地面を蹴って肉薄し、長剣を振り上げる。


「パワースラッシュ!」


「ジャア!?」


 豪剣アーツが決まり、アナコンデスの胴体を三分の一ほど斬り裂いた。


 しかし奴の生命力は高く、それだけでは屠れない。自分に傷を負わせたアナコンデスは怒り声を上げて噛みついてこようとする。


 それに対し、タイミングを見計らって回避しながら顔面に剣撃を与えていった。

 アナコンデスの顔は傷だらけで、血で真っ赤に染まっている。それでもまだ斃れる気配はなかった。


「ジャア!」


 地面スレスレのまま滑るように突っ込んでくる大蛇に対し、俺は大きくジャンプして避けると、頭に跨って剣を突き刺す。


「はあああああ!」

「ジャ……アアアア……」


 その一撃が致命傷になったのか、アナコンデスは崩れるように倒れ、ポリゴンとなって消滅した。


『レベルが上がりました』


 ふう……なんとかあの時の借りは返せたか。

 一人で勝てるか心配だったけど、やればできるもんだな。これもやっぱり、仲間の存在のお蔭だけど。


 それにどうやら、久々にレベルも上がったみたいだ。

 ステータスの確認は、モンスターを倒しきった後でしよう。


(他の皆は……)


「パワーアロー!」


「ハハハハハ! イイ、いいですよ! あなたの斬撃、七十点はあげましょう! でももっといけるでしょ! ほらほら、頑張って下さいよぉ!!」


「ヒール!」


 皆の戦況を確認すると、灯里は二体目のポイズンバタフライと戦闘中で、楓さんはギガントマンティスの猛攻を愉しそうに受けていて、島田さんはそれをハラハラしながら見守っている。


 灯里の方は大丈夫そうだな。


 それにしても、楓さんがダンジョン病を発症するのは久々か。まあここ最近は、重量級モンスターと戦っていなかったもんな。久しぶりの手応えあるモンスターの攻撃を受けてタガが外れてしまったんだろう。


 ポイズンバタフライを灯里に任せて、俺は楓さんの助太刀に向かった。

 楓さんに夢中になっているギガントマンティスの背後から不意打ちをくらわす。


「はああああ!」


「ギギァァァ」


 不意打ちは成功し、ギガントマンティスは悲鳴を上げる。

 だがすぐに、振り向きざまに鎌による斬撃を振るってくる。

 避けられないと判断した俺は剣で防御するも、思いの他力が強くて吹っ飛ばされてしまう。


「ぐっ!」


「ギギ!」


「プロバケイション!」


 俺に追撃しようとした巨大蟷螂に、楓さんがすぐに【挑発】スキルを発動して注意を引き寄せる。


 ギガントマンティスは身体の向きを変え楓さんに斬撃を繰り出し、彼女は大盾で受け止めている。


(楓さん、よくあんなに受けられるな……)


 立ち上がりながら、ギガントマンティスの猛攻を全て受けている楓さんに感心してしまう。


 俺なんか一撃まともに受けただけで吹っ飛ばされたのに、彼女は平気な顔で防御している。

 盾役タンクの性能も勿論関係しているのだが、それにしても凄いだろ。


「って、感心してる場合じゃなかった!」


 地面を蹴って、もう一度背後から不意打ちを狙う。

 しかしモンスターはそれを読んでいたのか、剣を振るう前にカウンターを仕掛けてきた。

 だけどそのカウンターは失敗に終わることを、俺は“分かっていた”。


「パワーアロー!」


「ギヤ!?」


 鎌を振るう寸前、横方向から灯里が放った豪矢がギガントマンティスの側頭部を撃ち抜いた。


 殺すのには至らなかったが、動きを停止させられた。絶妙なタイミングでのアシストに感謝しながら豪剣を繰り出し、ギガントマンティスの首を斬り落とす。


 死体はポリゴンとなって消滅すると思われたが、収束するとアイテムがドロップする。

 周りにモンスターがいないことを確認した俺は、ドロップアイテムを拾った。


(これは……サーベルかな?)


 ドロップしたのは、刀身が僅かに湾曲しているサーベルだった。

 切れ味も良さそうだな。


「サーベルですか。使ってみてはどうですか?」


 楓さんに提案されたが、俺はうーんと首を捻って、


「多分合わないかな。まあ折角だからいざという時のために取っておくよ。それでもいいかな?」


「いいんじゃないかな」


「いいと思いまーす」


 尋ねると、島田さんと灯里も了承してくれた。

 ついでに、ステータス確認の方も聞いておこう。


「それとレベルも上がったみたいだから、ステータスを確認してもいいかな」


「あっ私もした」


「僕も」


「私もです」


 なんだ、みんな揃ってレベルが上がったのか。

 ということで俺たちは、それぞれステータスを確認することにした。

 お馴染みの呪文を唱える。


「ステータスオープン」


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 許斐 士郎 コノミ シロウ 26歳 男 

 レベル:20

 職業:魔法剣士 

 SP:50

 HP:240/400 MP:240/300

 攻撃力:360

 耐久力:305

 敏 捷:310

 知 力:300

 精神力:345

 幸 運:295


 スキル:【体力増加2】【物理耐性2】【筋力増加1】【炎魔術3】【剣術4】【回避2】【気配探知2】【収納】【魔法剣1】【思考覚醒】


 ユニークスキル:【勇ある者】


 称号【キングススレイヤー】

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 使用可能なSP 50


 取得可能スキル 消費SP

【物理耐性3】 30

【炎魔術4】  40

【剣術5】   50

【魔法剣2】  20

【回避3】   30


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 ついに俺もレベル20になった。

 10の時もそうだったけど、キリがいいとなんか達成感みたいなのってあるよな。

 ステータスはまぁ少しずつアップしてるって感じか。


(ん? なんだこれ?)


 ステータスを確認していると、一つだけ気になった。

【思考加速】スキルがなくなり、新たに【思考覚醒】というスキルが増えているのだ。


 どういうこっちゃと困惑し、一先ずタップして詳細を確認する。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

【思考覚醒】・戦闘時、集中力が大幅に上昇することがある

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 能力的には【思考加速】の上位版って感じか。ってことは、進化したってことなのか?


 スキルって進化したりするものなのだろうか。後でネットで確認してみよう。


 使えるSPも50か。新しくスキルを取得するか悩むけど、俺は50全て使って【剣術5】を取得した。

 理由としては、【剣術5】を取得すると新たに二つのアーツを使えるようになるからだ。


 一つ目は、スラッシュウエーブ。飛ぶ斬撃を放つアーツだ。剣士の中でも数少ない遠距離攻撃だ。


 二つ目は、アスタリスク。このアーツを発動すると一度に六回の斬撃を放てることができる。

 使用MPは40とまあまあ多いが、その分攻撃力は凄まじいものだ。

 あと攻撃モーションが結構カッコイイ。


 よし、こんなもんかな。


「みんなどう?」


「終わったよー」


「問題ないです」


「僕もオッケーだよ」


 みんなもステータスの調整を終えたらしい。

 ということで俺たちは、そのまま十六層の探索を続けるのであった。

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