第74話 風間清一郎

 


 日本最強の冒険者といったら、ほとんどの人が神木刹那と答えるだろう。


 では一番強いパーティーはどれ? と聞かれたら、ほとんどの人が“アルバトロス”と答えるはずだ。


 アルバトロスは男性三人、女性二人で構成されていて、結成当時からメンバーは変わっていない。


 東京ダンジョンが一般人に開放された当時からアルバトロスは他の冒険者たちよりも強く、常に一歩先を進んでいた。


 探索進行速度では刹那に及ばなかったけど、常に上位をキープし続けている。

 最近では、刹那を抑えて五十層を攻略し念願のトップにも至ったほどの実力者パーティーだ。


 アルバトロスの人気は凄まじく、YouTubeの視聴率ランキングもそうだけど、メディアにも多く出演していて知名度でいえばD・Aを抑えている。


 多くのスポンサーがアルバトロスを支援し、テレビ番組やCMにも沢山出ていた。


 そんなパーティーをまとめ上げているのが、リーダーの風間清一郎である。


 歳は二十八歳。身長百八十三。身体は細マッチョで、顔は美男子。性格は落ち着いた好青年といった感じだ。

 CMやモデル雑誌にも出ていて、女子中高校生や奥様たちの王子様である。


 余談だけど、風間さんは女性には大人気だけど男性にはあまり人気がないというか、一部では嫌われていたりする。


 まぁ単に嫉妬や妬みなんだけどね。

 好青年でイケメンでトップ冒険者で人望も厚く金持ちと、天はなんぶつを与えてやがるんだというぐらい完璧な男性なので、世の男どもは気に喰わないのだ。


 なので世の中の男性は、風間さんよりもボッチでコミュ障の神木刹那のほうが親近感があって人気がある。


 話がそれてしまったが、とにかくアルバトロスのリーダー風間清一郎は凄い人だということだ。



◆◇◆



「俺は風間かざま清一郎せいいちろう。アルバトロスのリーダーをやっている」


 そんな凄い人が、今俺の目の前にいる。

 そのことが信じられなく、思考が停止してしまっていた。


 本物なのだろうか……本物なんだろうな。

 なんてったってオーラがある。輝いているというか、力が溢れているというか、これぞスターだなって思えた。

 刹那を始めて見た時も圧倒されたけど、彼の方がオーラがあるように見える。


 ぼーっと見惚れている俺に、風間さんが声をかけてくる。


「許斐士郎君だね」


「はっ……はい。そうですが……」


「君に話があるんだ。この後、時間を取ってもらってもいいかな?」


 風間さんがそう告げると、周りにいた人たちが騒がしくなる。


「おい、風間が声をかけたぜ」


「誰だよあいつ」


「はっ? お前よく見ろよ。最近話題のシローじゃねえか」


「ああ、あいつがシローなのか」


 周りの人たちが、俺と風間さんを見ながらざわついていると、風間さんはこう提案してきた。


「ここでは話づらいね。場所を変えようか。ついてきてくれないか」


「あっえっと……」


 俺は、やり取りを見守っていた灯里と楓さんと島田さんに目を向ける。

 すると風間さんは、「ああ」と言って、


「パーティーのメンバーも来てもらって構わないよ」


「わかりました」


 返事をして、俺は三人に風間さんについて行くことを話す。三人は困惑しながらも賛成してくれた。


 話が纏まり、風間さんについていき、ギルド内を歩いていく。エレベーターに乗り込むと、五階に降りた。


 一般人がギルドを出入りできるのは三階までのはずだ。

 なのに俺たちは五階に連れてこられている。どこに向かうのか聞いてみると、彼は前を向いたまま答える。


「アルバトロスはギルドと特別契約しているからね。だからサービスもいいんだよ。今向かってるのは、アルバトロスが使っている部屋だよ」


(そんな特典があるのか……)


 ギルドと契約していると良い待遇を受けられるのかと感心する。


 そういえば、ダンジョン十九階層で会った御門亜里沙さんもギルドと契約してるって言ってたけど、彼女もなにか恩恵をもらっているのだろうか。


 そんなことを考えている間に、目的地に到着した。

 風間さんが足を止め、扉に手をかける。


「ここだよ、さあ入ってくれ」


 扉を開け、入室する風間さんに続いて俺たちも入る。

 室内は広く、D・Aの事務所であるタワーマンションぐらい豪華だった。


(すごいな……ギルドの中にこんな部屋があるのか……)


 俺と灯里と島田さんは驚きに目を見開いているが、楓さんだけは平然としていた。まあ彼女の場合は住んでるところがこの部屋に負けてないもんな。


「みんないないみたいだな。悪いけど、そちらの会議室で座って待っててもらえないか。今お茶を用意するから」


「は、はい」


 彼の指示通り、会議室に入って並んで座る。

 俺たちだけの空間になったことで緊張が解け、灯里がため息を吐きながら口を開いた。


「なんか成り行きでついてきちゃってけど、よかったのかな?」


「だよね。場違い感が凄いよ……」


「今さら言っても仕方ないでしょう。ただ、アルバトロスのホームがギルドにあることには驚きましたが」


 小声で色々話していると、ガチャリと扉が開いて風間さんが入ってくる。

 だが彼の手には何もなく、かわりに後から入ってきた女性がお盆を持っていた。


(この人って……金本麗奈かねもとれいなさんだったよな?)


 金本麗奈さん。

 金本財閥のご令嬢で、黒髪ロングのおっとり美女。かなりの巨乳で、多くの男性から多大な人気を誇っていた。因みにネット民からは“れいなママ”と呼ばれている。


 アルバトロスでは回復術師ヒーラーを担っている。


「はいどうぞ~。熱いから気を付けてくださいね~」


 金本さんは俺たちの前にお茶を置いてってくれる。

 その時、ふわりと甘くていい匂いが漂ってきて、ついうっとりしていると灯里に足をつねられてしまう。


 灯里さんごめんなさい。しゃきっとしますからつねらないでください。


 風間さんは俺の目の前の席に座り、斜め後ろに金本さんが待機する。

 彼は俺を見ながら、朗らかに口を開いた。


「まずは来てくれてありがとう。さっき自己紹介したけど、改めて。俺は風間清一郎、こっちはメンバーの金本麗奈だ。よろしく頼むよ」

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