第73話 高額報酬

 


「灯里さんはメイジを、士郎さんはローカストをお願いします!」


「了解!」


 楓さんから新たに指示をもらい受けた俺と灯里は、それぞれが行動に移す。


 ゴブリンメイジが放ってきた岩弾ロックブレットを楓さんが魔術障壁マシルドで防いでいる間に灯里がパワーアローを放ち、俺は近くにいる大きなバッタに肉薄した。


「はっ!」


「ジョオオ!?」


 剣を振って前脚の一本を斬り飛ばすと、ダメージを受けたローカストは屈伸して足に力を溜める。

 ビョン! と大きく跳ねると、上から押し潰そうとしてきた。


 バックステップで距離を取り、ローカストのプレスを回避する。

 隙ができた瞬間踏み込み、奴の胸元に剣を突き刺す。ローカストは金切り声を上げて絶命し、ポリゴンとなって消滅した。


(よし、集中できてる)


 俺は今、ただ単純に戦うのではなく頭をフル回転させて戦っていた。


 モンスターの一挙手一投足に反応し、自分がどう動けばいいのか、相手がどうしてくるのかを先読みし、戦うようにしている。


 簡単に言えば、ミノタウロスや隻眼のオーガと戦った時のような集中力を維持しているのだ。


 何故かと言われれば、日本最強の冒険者である神木刹那にそう助言されたからだ。


 彼は言った。俺と刹那は、同じ力を持っている。その力を伸ばせば、俺はもっと強くなれると。


 具体的になんの力かは未だに分かっていないけど、感覚なら身体が覚えている。

 ようは、強敵のモンスターや刹那と戦った時のように超集中すればいいのだ。


 ただこれは、如何せん難しい。

 その状態にいつでもなれるわけでもないし、やろうと思ってやれるわけでもない。意識していると、たまにできるぐらいだ。


 それも、ずっと集中しているせいか凄く頭が疲れてくる。


 まあ、それでもあの人のように強くなれるのなら、やり続けるけどさ。


「どうやら追加もないみたいですね」


「おつかれ様~、エリアヒールかけるね」


 戦闘が終わり集まると、島田さんが全体回復をかけてくれた。


 身体が淡い緑色に輝き、溜まった疲労が消えていく。やっぱり回復は助かるなぁ。

 回復魔術に癒されていると、灯里が口を開いた。


「やっぱり晴れてると戦闘が楽だねぇ」


「そうですね。お蔭で探索も捗っていますし」


 灯里と楓さんの言う通り、今日は雨が降っておらず探索がしやすかった。


 まだ梅雨は明けていないけど、珍しいくらいに晴れ晴れとしている。それに加え探索も順調で、階段も早く見つけられていたから、階層も更新できている。


 俺たちは今、十五階層を探索していた。

 レベル的にはギリギリだけど、楓さんと島田さんは頼もしいし、灯里は凄く強くなっているしで、あまり苦戦せず四人のままでも十分やれている。


 やっぱり、パーティーの存在って大きいなって改めて感じた。


 宝箱の罠転移で十九階層に飛ばされた時は、一人で心細かった。自分の力だけでは何もできなかった。


 だけどそのお蔭で、このパーティーのありがたみが凄く分かる。

 互いに支え合うことで、一人では成し遂げられないことだってできるんだ。


「もうこんな時間ですか。暗くなる前に帰還しましょう」


「そうだね、帰ろう」


 夢中になって探索していたら、もう午後の五時を回っていた。

 俺たちはなるべくモンスターとの戦闘を避けながら、自動ドアを見つけギルドに帰還したのだった。



 ◇◆◇



「今日は儲けましたね」


「バンバンドロップしたからね。査定が楽しみだよ」


 ギルドに帰ってきた俺と島田さんは、換金所にてドロップした魔石やアイテムや装具を換金していた。


 灯里と楓さんは俺たちに任せて更衣室に着替えに行っている。


 今日は探索も順調だったが、収穫のほうも凄かった。

 魔石に薬草に鉄の剣や盾もドロップしている。因みに、ドロップ品はほとんど島田さんが拾ってくれていた。


 俺たちは戦闘に集中していて――島田さんが集中していないわけではない――拾う暇がないからだ。なので回復要員の島田さんが、隙を見て拾ってくれている。


 正直に言うとめちゃくちゃ助かってる。


 ドロップしたとしてもその場所を覚えていなかったりするし、知らない間に蹴とばしてしまう。そうなると折角ドロップしたのに見失ってもったいない。


 ということで、島田さんにはドロップアイテムを拾ってもらっていた。


 俺たちは彼を信頼しているし、ねこばばしたりしないと分かってる。

 だから安心して任せられていた。


 二人で今日の戦果がどんなもんかと楽しみにしていると、査定を終えたのか女性スタッフがやってくる。


「本日は二十八万円になります。どういたしますか?」


「「二十八万!?」」


 俺と島田さんは驚きの声を上げる。

 凄いな……そんなに儲かったのか……。


 一人だけで七万円の収入があるのか……それもたった一日だけで……。


 いや~、やっぱり冒険者って夢があるなぁ。そりゃ専業になりたくもなるよ。


「じゃあ二十一万円はこのカードで」


「残りの七万は、こっちに振り込んでいただけますか」


「はい、承知致しました」


 俺と灯里と楓さんの分は、共同の口座に。島田さんは自分の口座にそれぞれ振り込んでもらう。


 換金が終わった俺たちは、更衣室で着替え、エントランスに戻った。そこで灯里と楓さんと合流する予定だったのだが、二人の姿が見えない。


(あれいないな……トイレか?)


 二人でトイレにでも行ってるのかと思っていたら、エントランスの端っこの方でなんだか人だかりができていた。

 気になって島田さんと一緒に向かうと、灯里と楓さんに声をかけられる。


「あっ士郎さん」


「なんだ、こんなところに居たのか。なんでこうなってるのか知ってる?」


「それは……」


「あーいたいた!」


 楓さんが説明しようとした瞬間だった。

 人だかりの向こうから声が上がる。


(ん……? この声、どっかで聞いたことがあるな)


 既視感を抱いていると、人だかりがモーゼの如く左右に開かれる。

 その道を、サングラスをかけた一人の男性が颯爽と歩いてきた。


「君が来るのを待っていたよ」


「待ってたって、あなた誰ですか?」


「し、士郎さんこの人は!」


 俺が問いかけると、男性はサングラスは外してこう言った。


「俺は風間かざま清一郎せいいちろう。アルバトロスのリーダーをやっている」

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