第56話 宴会
ダンジョン三昧だったGWが終わって早くも二週間が経った。
その間に起きたことを説明するならば、風景がガラリと変わった密林ステージに慣れながら十一階層を探索して、十二階層にたどり着いたこと。
本来の十層ではない場所と人語を喋る隻眼のオーガと戦ったことがネットで盛り上がったりTwitterのトレンドになったりと、世間に少しだけ注目されてしまったこと。
テレビ局とかからインタビューをされたけど、その受け応えは全部楓さんがしてくれて、動画にアップされていることが全てで、それ以上は答えようがないという完璧な対応をしてくれたこと。
灯里の母親を救い出したけど、二週間経った今でも未だに目を覚まさないこと。時間があれば、灯里は母親の見舞いに行っているらしい。俺も二回ほど一緒に行っているが、母親は眠ったままだった。
母親が意識を取り戻さないことで灯里を心配したけど、彼女の様子は意外と平気だった。母親を取り戻せたことで、心の底から安心したようだ。
元々明るい子だったけど、母親を取り戻してからはもっと笑うようになった。多分だけど、彼女を苦しめていた枷が一つ外されて心にゆとりが出来たからだろう。
そういえば、灯里の祖父母も愛媛からわざわざ様子を見に来てくれたんだ。
それもそうだろう。二人にとって灯里の母親は娘なのだから。死んだと思っていた娘が生きて帰ってきたと知ったら、すっ飛んでくるのは当たり前の話だ。
俺も祖父母と会い、しっかりと挨拶をした。
お爺さんは昭和の頑固爺みたいな感じで、お婆さんは可愛らしいおばあちゃんって感じだった。二人を俺の家に招待し、四人で仲良くご飯を食べた。なんだか本当の家族に囲まれたみたいで、とても幸せな時間だったな。
途中、灯里とおばあちゃんが買い物に出て俺とお爺さんが二人きりになった時、突然土下座されてしまう。
「灯里をよくしてくれて、本当に感謝しております」
頭を床につけながら、真摯にお礼を告げられる。
正直げんこつの一発や二発は覚悟していたので、土下座されながらお礼されるとは思わず俺は激しく狼狽してしまった。急いで頭を上げさせて、それから沢山話した。すると灯里とお婆さんも帰ってきて、また四人で談笑する。お爺さんに酒を酌み交わされたので、俺も少しだけ頂いた。
その時何か口走ってしまっていた気がするけど、次の日には全部忘れてしまっていた。
二人は近くにホテルを取っているらしいので、いい時間になるとお別れをする。二人を泊まらしてあげたいけど、俺の家には四人分のベッドもないしホテルを取っているならそちらで寝泊まりしたほうがいいだろう。
二人は次の日にまた母親を見てからそのまま帰るというので、再度しっかりと挨拶をする。
「今度は灯里とこっちに遊びにきなんよ」
「はい、是非いかせていただきます」
「灯里ぃ、がんばるぞね」
「うん、頑張るよ。二人とも気をつけてね」
という感じで、灯里の祖父母との邂逅を無事に終える。
灯里も久々に祖父母と話が出来て凄く楽しそうだった。
この二週間で起きたことは大体そんなところだろう。
ダンジョン十二階層からギルドに帰ってきた俺達は、着替えやアイテム換金などの後始末を諸々済ませて、エントランスに戻ってきた。
「みんなでご飯食べに行こうよ!」
「いいですね。いきましょう」
「実は僕もお腹減っちゃってたんだよね」
灯里が食事に誘うと、楓さんも島田さんも賛成してくれる。勿論俺もOKだ。
折角ギルドにいるのだからと、俺達は冒険者専用の飲食店である『戦士の憩い』に訪れた。ここは前に一度灯里と楓さんの三人で来たっきりで、久々だった。相変わらず店内は賑やかである。
俺達が店内に入ると、お客の冒険者たちが揃ってこちらに視線を向けてくる。
すぐに目線は離れていくと思ったのだが、いつまでも注目されていた。
(なんだ、なんなんだこの間は!?)
喧噪が嘘みたいに静寂になる奇妙な雰囲気になると、カウンター席にいた大柄な男性が俺達に声をかけてきた。
「お前等、今噂の喋るオーガと戦った初心者パーティーだよな?」
「え……まあ、はい……そうですけど」
そう答えると、周りにいた冒険者も一斉に口を開く。
「だよな!俺もそう思ったんだよ!」
「どっかで見たことあると思ってたんだよなぁ!」
「うわぁ……生の灯里ちゃんだ。俺握手して貰おうかな……」
「おいお前等、そんなとこに突っ立ってないでこっち来いよ!」
どうやら俺達のことを知っているらしい。
恐らく謎の十層ステージと隻眼のオーガと戦ったことで、顔が広がったんだと思う。それにしても、こんな多くの冒険者に知ってもらえているなんて凄いな。やっぱりYouTubeの動画効果は凄いなと感心してしまう。
陽気な冒険者に誘われ、俺達のためにわざわざ空けてくれた真ん中のテーブル席に四人で座る。すると、沢山の冒険者が一斉に話しかけてきた。
「なあなあ、あの時のこと教えてくれよ!」
「どうやって入ったんだ!?隠しルートみたいな方法があるのか!?」
「オーガはどんなだった?何を喋ったんだ?」
「えっと……」
質問攻めにあい、戸惑ってしまう。
と、そんな時。ぐぅぅぅぅぅぅと可愛らしいお腹の音が鳴り響いた。みんなが一斉に音の方へ注目すると、犯人は頭をポリポリかきながら照れ臭そうに謝る。
「えへへ、お腹空いちゃった」
「「か……かわいい」」
照れている灯里を見たおっさん連中が、呆然としながら呟く。
心の中でそうだろうそうだろうウチの灯里は可愛いだろうと親目線で頷いていると、一番最初に声をかけてくれた男性が「よっしゃあ」と言って、
「今日は俺達の奢りだ!何でも頼んでいいしじゃんじゃん食ってくれ!なあ皆!?」
「おうともよ!」
「いやそこはやっさんの奢りだろ(笑)」
「食え食え!いっぱい食え!」
「い、いいんですか?」
突然奢られることになって戸惑いながら問いかけると、やっさんと呼ばれた男性は親指を立てながらこう答える。
「粋がいいのも冒険者の良い所だ。ただその代わりといっちゃあなんだが、十層や隻眼のことを聞かせて貰うぜ」
「はい!」
それから沢山の料理と酒が運ばれてきて、俺達は疑似モンスター料理を味わいながら冒険者達と交流を深めた。俺達は十層や隻眼のオーガのことを覚えている限り全部話して、冒険者からもダンジョンに役立つ情報を教えてもらう。
みんながみんな騒いでいて、店内はまるでイベントの打ち上げのような雰囲気が漂っていた。
灯里はモグモグ食べているのを黙って見つめられて居心地悪そうにしているし、楓さんは冒険者と酒勝負して何人も打ち負かしてるし、島田さんは酔っ払いながら延々と奥さんの惚気話をしていて困らせてるし。
俺は俺で、多くの冒険者と話をしていた。
「そういえばやっさんって、以前会ったことありましたっけ」
「おっ、やっと思い出したかこの野郎!お前さんと灯里ちゃんがペーペーの時に声をかけたおっさんだよ!」
「痛い痛い……ってやっぱりあの時の方だったんですね」
太い腕にアームロックされてギブギブと腕を叩く。
今になって思い出したけど、やっさんは俺と灯里が初めてダンジョンに入るため列に並んでいた時、声をかけてくれた男性だった。あの時は凄く緊張していたのだが、彼のお蔭で緊張がほぐれたっけ。
まさかこんな場所で再会するとは思わなかった。
「あの時はありがとうございました。やっさんのお蔭で冒険者としてやっていけてます」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。顔すら覚えてなかった癖によ!」
「あはは……」
「まさかあのペーペーの二人が有名になるほどの冒険者になるとは思ってもみなかったぜ」
やっさんとは色々話をした。
どうやら彼は冒険者の中でも古参で、多くの冒険者に慕われているらしい。それはなんとなくだけど分かる。気さくで頼りがいがあるし、自然と尊敬してしまうのだ。
しかも彼は数少ない
「まあ、困ったことがあったらいつでも声をかけてくれ」
「はい、今日はありがとうございました。ごちそうさまです」
宴もたけなわだったが、そろそろいい時間になってきたので俺達はお
「お腹一杯です……もう何も食べれません」
「灯里さんは食べ過ぎです」
「楓さんは飲みすぎだけどね。それにしても、みんな良い人達だったなぁ」
「そうだねぇ。こういうのがあると、冒険者になってよかったとしみじみと実感するよ」
ギルドを出て夜道を歩きながら話す。
いつか俺達も、今日彼等がしてくれたように新人の冒険者に奢れるようになれたらいいなと、そんな風に話していたのだった。
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