第55話 密林ステージ
「ウウウウウ」
「痛って!?またお前かよ!」
普通の木だと思って通り過ぎようとした俺――許斐士郎に、トレントが襲い掛かってくる。
不意打ちで攻撃を察知できず、背中を枝でぶたれてしまった。地味に痛くて、腫れていないだろうかと心配してしまう。
「やっ!」
「ありがとう!」
追撃しようとしてくるトレントに、すかさず星野灯里が矢を放ってフォローしてくれた。その隙にトレントに肉薄し、斬撃を繰り出す。不気味な悲鳴を上げて怯むモンスターにトドメを刺すと、トレントの身体はポリゴンとなってパラパラと散りながら消滅した。
「ゲギャギャ!」
「グルル!」
「正面からゴブリンとウルフ!」
「ソニック!」
新たに現れたモンスターの情報を、
「はっ!」
ゴブリンを斬り殺すと同時に、灯里が放った矢がウルフの眉間に突き刺さる。相変わらず彼女の弓の腕はピカイチだ。これだけモンスターと近くにいても、絶対に誤射とかしないからな。今までだって一度も誤射されたことないし。
二体のモンスターを屠り、新たにモンスターが現れないか周囲を確認する。じっくりと観察して安全を確保すると、俺達は戦闘態勢を解いた。
緊張がほぐれたからだろうか、トレントに受けた背中の痛みがぶりかえしてくる。
「痛てて……」
「士郎さん大丈夫?」
「完全な不意打ちだったから結構痛い……」
「ヒールかけようか?」
「すいません島田さん、お願いしていいですか」
心配してくる灯里に平気だよと格好よく言えず、島田さんにお願いしてヒールをかけてもらう。身体が緑色に発光すると、背中の痛みが一瞬で消えていく。本当にヒーラーの存在ってありがたいよなぁ。
「それにしても、またトレントに不意打ちくらっちゃったよ。どうにかなんないかな」
「トレントは【擬態】スキルがありますからね。【気配察知5】を持っていれば気付けるのですが……ない場合はとにかくそれらしい木に近づかないことと常に気を張っているしかないでしょうね」
何度目か分からないトレントの不意打ちに苛ついて愚痴を吐いてしまうと、楓さんが仕方ないといった風に説明してくれる。【気配察知5】なんて序盤に取っている冒険者っているのだろうか。
常に周囲を観察するのも、それはそれで集中力がもたないしなぁ。草原ステージって凄く過ごしやすい環境だったんだなぁと今になってしみじみと感じてしまった。
俺達が今いる場所は、ダンジョン十二階層。
一層から十層までの草原ステージとはまるっきり変わって、
出現してくるモンスターは主に
正直言うと、密林ステージは嫌いだ。
狭いし、戦いづらいし、風景は変わらなくて道に迷っている感覚に陥るし、探索していても全然楽しくない。トレントのようにパッと見、木や花と思っていたけど実は擬態していて突然襲い掛かってくるというパターンもザラにある。
更に不便なのは、火系の攻撃が使えないという点だ。使えるには使えるのだが、木や草が密集している空間で使ってしまうと火が燃え移ってしまう可能性があるのだ。そうなった場合、一瞬で周辺一帯が火事になり自分達が焼け死んでしまう。
俺達のパーティーには水系の魔術を扱える者がいないから火消しが出来ないので、火系の魔術は使わないようにしている。特に俺は火系の魔術やアーツに頼っていたので、それが封じられると戦うのが面倒で仕方なかった。
植物型や昆虫型のモンスターには火系の攻撃が効くのに、何で使えないんだよ……。
幸いなのは、モンスター以外の虫がいないということだろう。蚊もいないし、びっくりするような変な虫もいない。なので防虫対策はしなくてよかった。これが蚊がいたり虫だらけだったら、ちょっと探索をするのを諦めていたかもしれない。
逆に良いことといえば、良いアイテムがドロップしてくれることだ。
トレントは魔力草やポーションが高確率でドロップしたり、他のモンスターも剣や盾や防具などのアイテムがドロップしやすくなっている。旨味があるとしたらそこだろう。
一層から十層のモンスターはドロップしてもほとんどが魔石で、アイテムや武具だったりは稀にしかドロップしないからな。魔石よりも、ポーションや武具の方が高く売れるし。
そしてこれは楓さんに教えて貰ったんだが、薬草やポーションをギルドに収めるとポイントが貯まり、冒険者のランクを上げられるそうだ。
俺と灯里と島田さんのランクは
下世話なことを言うと、密林ステージは戦いにくいし探索も楽しくはないけど、かなりお金を稼げるステージとなっている。草原ステージよりもモンスターの強さも低い。だから安全な密林ステージで金稼ぎをしている冒険者も多くいるみたいだ。
俺的には、密林ステージは早く攻略して二十一層からの孤島ステージにいきたい。東京ダンジョンの中でも、一番快適なのが孤島ステージだからな。
そんな風に思いながら探索していると、密林の風景には全く似つかわしくない自動ドアを発見する。
「どうする?」
「次はいつ見つかるかも分からないので、今日は終わってもいいと思います」
「賛成~」
「僕もちょっと疲れちゃったかな」
意見を募ると、みんなもう探索する気持ちが切れていたようだ。精神的に疲れていたのは俺だけではなかったらしい。
「じゃあ、帰ろっか」
探索を終えるには少し早いけど、俺達は自動ドアを潜って東京に帰還するのだった。
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