プロローグ3
「づかれた~GWなのに全然遊べなかったよ~」
「ずっとダンジョン関係のイベントばかりでしたからね。でもようやく終わったことですし、少しは一息入れられるんじゃないですか?あっそうだ、この際ですから皆で旅行に行きませんこと?」
「いいね~!どこいこっか、マネージャーに頼んでハワイにでも行っちゃう?」
ここは数々のアイドルグループを輩出している大手のアイドル事務所。
その中でも二年前に発足された『歌って踊って戦って』というコンセプトで結成したアイドルグループのD《ダンジョン》・A《アイドル》は、今では飛ぶ鳥を落とす勢いで人気が爆発している。
何万人という応募者の中からオーディションを勝ち上がり、見事メンバーに選ばれたのは三人の少女。
三人とも当時18歳でオーディションに参加し、数々の試験をクリアしてメンバーに選ばれた才女たちだ。彼女達の可愛さは一級品だが、優れているのはそこだけではない。なんと三人とも、初期からユニークスキルを有していたのだ。
US《ユニークスキル》は一つあるだけで相当強く、他の冒険者よりも大きなアドバンテージを持っている。USを持っている彼女達は、たった三人だけのパーティーで二十九階層まで踏破していた。
今では日本一のアイドルグループといっても過言ではない。だがここまでグループを大きくした二年間は、並大抵のことではなかった。
まず試験の時点で厳し過ぎた。
年齢制限は一八歳以上。
第一試験は書類審査。ここで顔面偏差値が低い者はふるい落とされてしまう。
第二試験は歌唱力と運動能力審査。歌って躍るのもそうだが、ダンジョンで戦うため運動能力が低い者も除外されてしまう。
最終試験は実際にダンジョンに入り、ステータスの確認。そしてモンスターとの戦闘。スライムを倒せるか、犬に近い生き物のウルフを殺すことができるか。死んでも立ち直ることができるか。メンバーに選ばれてモンスターを殺せませんといったらお話にならない。そしてモンスターに自分から殺されにいくという非人道的な試験。
厳しい試験を乗り越え、見事D・Aに選ばれたのがミオンとシオンとカノンだった。
D・Aは結成当時から認知度が高い。何故ならば、ダンジョンライブで彼女達の最終試験を多くの視聴者が見ていたからだ。元々事務所が大々的にダンジョンで試験をすることを発表していたため、多くの視聴者がライブで見て、その時からファンになっていた者も多い。
結成ライブでは新人アイドルではあり得ない、ライブ会場が満席で大盛り上がりし、大成功を飾った。
D・Aになってからの一年間は、地獄の日々だった。
休みなんて一日もない。レッスンとライブにダンジョンを探索する日々。そんな過酷な生活を乗り越えられたのも、彼女達の意思が誰よりも強固だったからだ。恐らくだが、三人以外の者がメンバーに選ばれたとしても耐えきれず辞めてしまっていただろう。
それほど厳しい環境だった。
一年を超えると、アイドル活動や冒険者活動にも慣れてきて、少しだけ余裕を持つことができた。アイドルとしての人気や知名度は申し分ないし、冒険者としてもたった三人で十層のオーガを倒している。
テレビ番組にも多く出演したり、CMにも出始めダンジョンに興味がない人達にも存在が知れ渡っていく。三人は美少女のため、世界にも人気で多くのファンがいた。
ダンジョンアイドルになってからの二年。
日本で彼女達を知らない者はほとんどいないだろう。名実ともに、日本一のアイドルグループになったのだ。
そんなD・Aの三人は、激動のGWイベントを終了したばかり。この九日間は本当にハードで、ほとんど寝ずに活動していたため流石に疲れが溜まっていた。
今はD・Aの事務所でぐったりしている。日本一になったからか、事務所の部屋は広くまるで高級ホテルのような豪華な内装だ。
ミオンはベッドに寝転がっており、シオンは豪奢な椅子にゆったり座り、カノンはソファーでうつ伏せになりながらスマホを弄っている。
ミオンとシオンの会話に入ってこないカノンに、ミオンがベッドから降りて近づきながら尋ねた。
「ねーねーカノーン、さっきから何見てるのー?」
「ダンジョンライブだにゃ~」
視線をスマホに向けたまま、間延びした声で返事をする。因みにカノンはキャラ付けのために語尾に「にゃ」をつけている。まあ彼女の性格自体が猫のようなのんびり屋だが。
「誰のライブ見てんの? アルバトロス? 刹那? それともクライン様?」
「違うにゃ~、シローちゃんの過去動画を見てるにゃ~」
「シローちゃん……?聞いたことないなー」
名前を言われてもピンとこないミオンだったが、シオンは耳したことがあるのか「それって……」と言い、続けて尋ねる。
「許斐士郎さんのことですか?」
「そうだにゃ~、そのシローちゃんにゃ~。シオンは知ってたのかにゃ?」
「ええ、まあ。ダンジョンのことはテレビでもネットでも逐一チェックしてますから。何週間か前にYouTubeのおすすめ新着に乗っていましたし、最近では見たことがない十層ステージで喋るオーガと戦って話題になっていましたわ。今でもネットの考察廚さん達が盛り上がってますわよ」
シオンはお嬢様のように喋っているが、それもキャラ付けである。実際の彼女は東北地方の出身で、「んだべー」や「だっぺ」を愛用する田舎っ娘だ。名字が龍宮寺とお嬢様っぽいという理由から、お嬢様キャラを貫き通している。喋り方を変えるのは相当苦労したらしい。
ミオンだけはキャラを作っておらず素のままだった。
「えー私全然知らなかったなー。そんな事あったんだー」
「ミオンは刹那やクラインばっかりですからね」
「だって二人ともイケメンな上に超強いんだもん。それで? カノンはそのシローってのがお気に入りなの?」
「そうだにゃ~。カノンの今推しはシローちゃんなのにゃ。今のところ全部の動画を見てるにゃ。シローちゃんはワクワクさせてくれるから面白いにゃ」
「へぇ~ちょっと見せてよ」
そう言って、ミオンはカノンのスマホを取り上げて動画を見る。すると、何を見たのか「えっ!?」と声を上げて驚いた。
「ねえねえ、この娘めっちゃ可愛いくない!?こんな娘いたんだ!」
ミオンは動画を停止して、カノンとシオンに見せながら話す。シオンは動画に映っている人物を見ながら、「あ~」と頷いて、
「星野灯里さんですわね。わたくしから見ても可愛いと思いますわ。もう一人の五十嵐楓さんも素敵ですけど」
「灯里ちゃんはダンジョン界隈で大人気にゃ。可愛いし強いしおっぱいデカいからファンもいっぱいいるにゃ。それにシローちゃんが好きな気持ちも伝わってきてすっごくキュンキュンさせてくれるにゃ」
「へー、冒険者にこんな可愛い娘がいたんだ。いいなー話してみたいなー」
画面を見ながらミオンが喋っていると、突然部屋の扉がドン!と強く開いてスーツ姿の女性が入ってくる。
「みんないる?」
「あっ、アンナだ!」
「どうしたんですのそんなに慌てて」
女性の名前は
アンナは三人の顔を見ながら、険しい表情で口を開く。
「お疲れ様。少し話がしたいのだけど、いいかしら?」
「いいよー」
「D・Aは今や日本一のアイドルグループになったわ。ライブも盛況だし冒険者としても頑張っている。でも、ここ最近停滞していることも自分達で分かってるわよね」
「「…………」」
アンナの言葉に、三人は何も言い返すことができない。何故なら自分達が一番よく分かっているからだ。
D・Aはこれまで、三人だけでダンジョンを攻略してきた。USを持っているのもそうだが、会社がレアアイテムや強い防具を買ってくれたりバックアップしてくれているから、二十九階層までやってこれた。
だが、かなり前からD・Aはその階層で止まってしまっている。どうしても三十階層の階層主が倒せないでいた。何度挑戦してもダメだった。
苦し紛れにイベントをしたりしているのだが、このままではダンジョンライブを楽しみにしているファンに飽きられてしまい人気も落ちてしまう。
現にそういったコメントもちらほら出てきている。
だがどうしようもなかった。三人では、限界があるのだ。
だから、アンナは改善策を皆に伝える。
「そこで、新しくメンバーを増やすことにしたわ」
「え、またオーディションをやるってこと?」
ミオンの問いにマネージャーは首を横に振って否定すると、
「スカウトよ!」
「「スカウト!?」」
「ええ。オーディションをしている暇なんてない。だから今ダンジョンを探索している可愛くて若い冒険者をスカウトするの」
「なるほど……そういう手がありましたのね。で?スカウトの当てはあるんですの?」
シオンの問いに敏腕マネージャーは「勿論」と答える。
「候補者リストはピックアップしているわ。貴女たちが今見ている、星野灯里もその一人よ」
アンナがミオンの持っているスマホを指しながら告げると、三人は顔を見合わせて、仰天する。
「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!??」」
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