第51話 インタビュー
「「……」」
ガタンゴトンと電車が揺れる。その振動で俺と灯里の肩がくっついては離れる。
俺達の間に言葉はない。どちらからも話さず、黙って揺られていた。
昨日あんな事があってから、灯里と少しギクシャクしてしまっている。
別に話さないわけではないんだ。あの後も言葉を交わしたし、夜が明けて朝がきて、ご飯を食べている時も普段通りに会話した。だけどどこか普段通りではないと感じてもいる。
多分、ちゃんと顔を見て話せていないからだろう。なんかこっ恥ずかしくて、灯里の顔が見れないでいた。
意識してしまうと、心臓の音が五月蠅いほど緊張してしまう。
(こんなんじゃダメだ……切り替えよう)
今日は階層主と戦うかもしれない。
こんな浮ついた気持ちでは力は発揮できず、下手扱いて死んでしまうだろう。
俺は心の中で深呼吸を繰り返すと、神経を研ぎ澄ますのだった。
◇◆◇
GW六日目の土曜日。
休日も残すところ二日となり、さらに土曜日だからか東京タワーの周辺は多くの人でごった返していた。今日明日と、ギルドは先週の土日のようにイベントを開催するらしい。まともに歩けないぐらい人が多いのはその為だろう。
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
心配して声をかけると、灯里は小さい声音で返事をした。まだ少しぎこちないけど、まぁモンスターと戦っていればいつも通りになるだろう。
そんな風に楽観視している時だった。
突然マイクを持った女性に声をかけられてしまう。
「さぁさぁGWも残り僅かとなってしまいましたが、ここ東京タワーにありますギルドはお客で賑わっております!ギルドでは明日にかけてイベントが盛り沢山で、それを目当てに多くの人がやってきています。外国の人もかなりいらっしゃいますね。少し話を聞いてみましょう。あっ! そこのお二人、ちょっとお話よろしいですか!?」
「えっ、あっはい」
「お二人はカップルで来られたのですか?何のイベントが楽しみですか」
「えっ……いや、その」
女性は多分アナウンサーかなにかだろう。側には大きなカメラを背負ったカメラマンらしき人物もいる。
マイクを向けられてコメントを求められてしまい、激しく動揺してしまう。っていうか、俺と灯里はカップルじゃないだけど。
まずそれを訂正しようとしたら、灯里が先に応えてしまう。
「私達は冒険者で、パーティーなんです。今日はダンジョンを探索しに来ました」
「なんと!? お二人は冒険者様でしたか。もしかして名だたる冒険者様だったり?」
「そんな、私達はつい最近冒険者になったばかりの新人ですから」
「そうでしたか! では本日の探索頑張ってくださいね! ありがとうございました!」
ガッツポーズをして労ってくれた女性アナウンサーは、俺達から背を向けると通行人に質問を繰り返していた。お仕事頑張ってんなぁと感心してしまう。
あれ? もしかしてこれテレビか何かに使われてしまうのだろうか。うわ……今になって恥ずかくなってきたぞ。
「士郎さん行こ」
「あ、うん」
灯里に腕を引かれ、歩みを始める。
(俺、灯里といてもカップルに見えるのか)
他人の目からそう思われている事に少しだけ嬉しくなると同時に、俺なんかとカップルに間違われてしまった灯里に申し訳なく思ってしまった。
ギルドの中に入ると、エントランスの中も多くの冒険者で賑わっていた。過去一の動員数かもしれない。これは楓さんと島田さんを見つけるのも苦労するぞと思っていたら、案外早く楓さんを見つけられた。
「おはよう」
「おはよ、楓さん」
「おはようございます……お二人共、何かありました?」
「え!? 何が!?」
「いえ……いつもと雰囲気が違うといいますか……」
「き、気のせいだよ! なぁ灯里?」
「う、うん!」
俺と灯里が慌てて言うと、楓さんとは「そうですか……」と怪訝そうな顔を浮かべる。
やっぱり彼女は鋭いな。誤魔化すように島田さんを探そうと告げ、三人でエントランスを見回す。すると灯里が見つけたのか、「こっちこっち」と手を上げて島田さんを呼んだ。
「いやー、今日は人が多いですね。やっぱり土曜日だからかな?」
「なので早く行きましょう。このままでは一時間待ちもあり得ます」
楓さんに促され、俺達は大広間に向かう。彼女の想像通り、ダンジョンへの通路は行列で埋まっていた。
急げ急げと俺達はすぐに装備を受け取り、着替えて列に並ぶ。自動ドアの前にたどり着いたのは並んでから二十分も経ってからだった。
「行こう」
四人で自動ドアに入り、俺達はダンジョンに入ったのだった。
◇◆◇
やってきたのは九層。
午前中はモンスターと戦って肩慣らしつつ十層への階段を見つけることにしている。
「オーク2、ボアグリズリー1、レッドコング1、灯里さんはオークを、許斐さんはレッドコングをお願いします! 島田さんも灯里さんの援護を!」
「「了解!」」
「ソニック、プロテクション」
楓さんが指示を出しながら挑発スキルを発動し、島田さんが全体にバフスキルをかける。
灯里はオークを狙って矢を放ち、俺はレッドコングに向かって駆け出した。
「ウホウホ!」
「はあああ!」
レッドコングのラリアットを頭を屈めて回避し、下から斬り上げる。鮮血が飛び散るが、浅かった。攻撃を受けた事で怒ったレッドコングの毛が赤く染まり、雄叫びを上げながら拳を振るってくる。
それを左腕に纏っているバックラーで斜めから受け流すと、流れに逆らわず身体を回転させながら首筋を斬りつけた。
おお……回転を加えると威力も上がるんだな。その分視界が動くから命中させるのは難しいだろうけど。
悲鳴を上げるレッドコングの背中に剣を突き刺すと、ポリゴンとなって消滅する。
今のはかなり上手くいったと自分でも思う。
ダンジョンに訪れてから何度か戦闘を繰り返しているが、自分の思う通りに身体が動く。それに、モンスターの動きや攻撃がなんとなく分かってしまうのだ。
ステータスは昨日と大して変わっていない。ミノタウロスとの死闘を乗り越えたことによって俺自身が急激に強くなったか、それとも新しく取得されていた【思考加速】スキルのお蔭か。なんにせよ、強くなる事は万々歳だ。
振り返ると、灯里と島田さんが二体のオークを倒していた。
楓さんが引き付けているボアグリズリーに俺と灯里が参戦し、危なげなく倒す。
灯里との連携も最初はどうなる事かと冷や冷やしていてけど、いざ戦いが始まってしまえばなんて事はなく、普段通りに戦えた。
少し意識しながら戦ったが、やっぱり灯里の援護のタイミングは絶妙だった。欲しい時に矢が飛んでくる。元から弓矢の技術は凄かったけど、弓術士としての戦い方も板についてきた気がする。
俺が言うのもなんだけど。
午前中では十層への階段を見つけられず、俺達は昼休憩を取った。
その後も中々見つけられないでいたが、ようやく階段を見つける。
「HPとMPを全快にしておきましょう」
「了解です」
楓さんの提案で、収納からポーションとマジックポーションを取り出してみんなで飲む。
マジックポーションはMPを回復させるためのポーションで、普通のポーションより高い。なのでボス戦の時に使われる事が多かった。
「よし、行こう!」
気合を入れた俺達は、ついに十層への足を踏み入れたのだった。
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