第42話 仲間
「アイアンホーク1スカイバード2、フォーモンキー1ホーンシープ1! 灯里さんはアイアンホークを優先的に狙ってください!」
「分かりました!」
六層から追加されるアイアンホークは鉄の鎧に覆われた鷹だ。こいつは防御力も高い上に、鉄の羽根を飛ばしてくる。羽根は鋭く、当たれば肉が裂けてしまう。
ホーンシープは二本の角が生えた羊だ。こいつの角もホーンラビット同様凄まじい貫通力がある。五十嵐さんの大盾なら大丈夫だけど、俺のバックラーでは防ぎきれないかもしれない。
「硬い!」
「ホー!」
「あっぶな!」
灯里が通常攻撃やフレイムアローを放つが、アイアンホークはまるで怯まない。そして上空から鉄の羽根を飛ばしてくる。慌てて回避するも、今度は横から石が投げられてくる。バックラーで防御するが、次から次へと投げてくる。
うざったらしい攻撃をしてくるのはフォーモンキーだ。下の手で石を拾い、上の手で石を投げてくる。命中率は低いけど、ウザかった。おいお前、今までそんな面倒臭い攻撃してこなかっただろ!
「パワーアロー!」
「ホギャッ」
弓術士専用のアーツが直撃し、やっとアイアンホークが倒れる。上の心配がなくなった俺は、バックラーを掲げながらしつこく石を投げてくるフォーモンキーに突っ込んだ。肉薄し、斬撃を繰り出す。奴の手足は細いため、オークやワイルドホースと比べて容易く刃が通るため、二撃で殺した。
「きゃ!」
「灯里!?」
上空のスカイバードに意識を囚われていた灯里が、近くに潜んでいたウルフのタックルを喰らって倒れてしまう。助けに向かおうとすると、ホーンシープの相手をしている五十嵐さんが「オークです!」と叫んでくる。
嫌な予感がして目だけで周囲を把握すると、いつの間にか現れていたオークが拳を振るってきた。横に飛んでギリギリ躱したが、これじゃあ灯里を助けにいけない。手間取っている間に、ウルフが顎を大きく開けて灯里に迫っていた。
「はっ!」
「キャン!?」
ウルフの牙が灯里の足に噛みつこうとした瞬間、デスサイズが胴体を一刀両断する。ウルフを倒したのは島田さんだった。灯里は彼に「ありがとう!」とお礼を言った後、急いで弓を拾って残るスカイバードを屠っていく。
「フレイムソード」
俺も炎剣でオークを倒し、五十嵐さんの下に駆け寄ってホーンシープに強襲する。奴は五十嵐さんの挑発スキルにかかっているので、簡単に不意打ちを与えられた。身体を斬られた角羊は怒号を上げて俺に突進してくる。
「受けてはダメです!」
「分かってる!」
ホーンシープの突進を大きく横に飛ぶことで回避し、急ブレーキをかけるその背中に豪炎を撃ち放つ。
「ギガフレイム!」
「メエエエエエエエエ!!」
豪炎に襲われ、毛が燃え盛りホーンシープは悲鳴を上げる。数秒のたうち回ると、ポリゴンとなって消滅した。それと灯里もスカイバードを倒したみたいだ。俺は急いで灯里の下に向かう。
「灯里、大丈夫か!?」
「うん、平気だよ。島田さんにヒールをかけてもらったからなんともないし」
「それなら良かった。ナイス援護ですね、島田さん」
「いや~仲間のピンチを黙って見ていられないですから」
ぽりぽりと照れ臭そうに後頭部をかく島田さん。やっぱりこの人は優しい人だ。ダンジョン病なんかに負けちゃダメな人だと、そう思った。
「お二人はお怪我は大丈夫ですか? エリアヒールかけときます?」
「いえ、私は大丈夫です」
「俺も大丈夫です、ちょっと石が当たったくらいですから。それよりもアイアンホークって結構厄介だな。硬いし上から攻撃してくるしで、他のモンスターと戦ってる時にやられると凄い邪魔になるよ」
「そうですね、遠距離が出来る魔術師や弓術士などがいないと倒すのは厳しいかもしれません。幸い私達には灯里さんがいますから問題ありませんが」
「うん、上は私に任せておいて! 次はもっと早く倒すから!」
「僕も皆さんをサポートさせていただきます」
うわぁ。なんか凄いパーティーな感じがするな。お互い支え合ってモンスターを攻略する。YouTubeで見ていて、羨ましいなーと思っていた事を自分達でやれているなんて感動してしまう。これぞ冒険者って感じだよな。
「そろそろ帰ることを念頭に置いて、自動ドアを探しながら探索しましょう」
五十嵐さんの提案に、俺達は素直に返事をする。
それから六層を探索し、アイアンホークやホーンシープとの戦いにも慣れた頃、俺達はモンスターの集団と戦っていた。いや、集団ではないか。倒しても倒しても、どんどん湧き出てくるのだ。
連戦に次ぐ連戦に、次第に体力と思考力が奪われていく。
「はぁ……はぁ……」
「ヒール!」
「ありがとうございます!」
怪我を負ってもすぐに島田さんが回復してくれる。だけどヒールでは、怪我と体力は回復しても精神的疲労は回復できない。くそ、いったいいつになったら終わるんだよ!
「ウオオオオオ」
「でか!?」
「ダブルジラフです、気をつけてください!」
新たに現れたモンスターのダブルジラフは、長い首と顔が二つあるキリンだ。奴は俺に近づくと、二本の首を横にブン!と振るってくる。初めて見た攻撃に反応できず打撃を喰らってしまい、衝撃によって吹っ飛ばされた。
「ごほっ、くっ……」
「士郎さん!」
「ヒール!」
どこかにひびが入っている骨を、島田さんに治してもらう。すぐに立ち上がって落ちている剣を拾うも、どう攻めたらいいのか分からない。首の間合いに入ればまた吹っ飛ばされるし、近づけたとしても長い脚による蹴り飛ばしがやってくる。あんな脚力で身体を打たれたら、今度はひびどころじゃすまないだろう。
迷っている間にまたモンスターが現れて、五十嵐さんや灯里に襲いかかっている。いくら五十嵐さんでも、あんなに多くのモンスターに攻撃されたら持つか分からない。
どうする……このままじゃ全滅だ。
「ヒひヒ」
最悪な結末が脳裏を過ったその時、不気味な嗤い声が鼓膜を揺らす。嫌な予感がして振り向くと、デスサイスを手にした島田さんがゴブリンを血祭に上げていた。
(島田さん……またっ!?)
ヤバい……灯里を助けるために多くのモンスターを殺したことでスイッチが入ってしまったみたいだ。
暴走を始める彼は、近くにいるモンスターに手当たり次第襲いかかっている。モンスターを倒しながら、徐々に俺に近づいてきた。
そして、横から俺を襲おうとしているウルフを屠ると、その凶刃が降りかかってきた。咄嗟に剣で受け止めると、鍔迫り合いの状態になる。もしかしたら今の彼には俺の事もモンスターに見えているのかもしれない。
「ハハハハ!」
「目を覚ましてください! 島田さん!」
「ヒヒッ!」
「ダンジョン病なんかに負けるな! 自分を取り戻せ!」
目の前で必死に語りかけても、俺の言葉は届かない。こうなったら仕方ない……すみません島田さん!
「おお!」
「っ!?」
鍔迫り合いから距離を取り、ガキンガキンと刃を交わせた後、俺は彼の懐に入り、思いっきり顔面を殴り飛ばした。
地面を転がる島田さんは、頭を振って自我を取り戻すと、震える両手を見つめて顔を真っ青に染める。
「ぼ……僕はまた……」
「島田さん、立って!」
「許斐さん……ごめん、僕は君を襲って――」
突っ込んでくるダブルジラフにギガフレイムを放って牽制し、剣を構えながら背後にいる島田さんに告げた。
「構いません! 島田さんが暴走したら俺が止めます! 何度だって止めてみせます! だから自分に負けないでください!」
「……許斐さん」
「一緒にダンジョンを潜りましょう! 好きなんですよね、ダンジョンが!!」
「フレイムアロー!」
「プロバケイション!」
背後から火矢が飛んできてダブルジラフの首に刺さり、俺の前に出た五十嵐さんが挑発スキルを発動させる。灯里と五十嵐さんが駆けつけてくれたってことは、他のモンスターは倒したってことか。
って事は、残るはこのダブルジラフだけ。
「オオオオオオ!」
「キッツ!! 良いですよその攻撃、今日一です!!」
ダブルジラフが振り回してきた頭突きを、五十嵐さんが大盾で受け止める。その声は艶があり、顔は見えないけど多分喜んでいるのが分かった。灯里も横から
「一緒に戦いましょう。俺達には島田さんの力が必要だ」
俺は後ろを振り向き、身体を震わせている島田さんに告げた。
「ソニック、プロテクション、エリアヒール」
その瞬間、俺達にバフスキルがかけられる。ゆっくり立ち上がった島田さんは、強気な笑顔を浮かべて口を開いた。
「支援は任せてください。僕が絶対に誰も死なせません!」
「お願いします!」
頼もしい言葉を聞けた俺は、指示をしながら地面を蹴り上げる。
「五十嵐さん、もう一度頭突きが来ても防げますか!」
「余裕です!」
「灯里、あいつの顔を狙えるか!」
「いけるよ!」
「次に奴が攻撃をしかけた時にいくぞ!」
「ウオオオオオ!」
ダブルジラフがまた首を振って頭突きをしてくる。五十嵐さんが受け止めた瞬間、俺は奴の首に乗り上がった。フレイムソードで首に突き刺すが、貫通しきれない。しかも抜けなくなってしまった。俺は首に右手をつけ、呪文を唱えた。
「ギガフレイム!」
「ッグオオオ!?」
ゼロ距離で豪炎を喰らい、一つの首が吹っ飛ぶ。だけど俺は振り飛ばされてしまい、背中から地面に叩きつけられた。
痛い! これ絶対骨折れてるだろ!
息ができなくなって呼吸困難に陥っていると、激怒したダブルジラフの顔が降ってきた。
あ……やばい。
「士郎さん!」
「許斐さん!」
シャラン――と、ダブルジラフの頭が俺に到達する前にその首が断ち切られた。無数のポリゴンが俺の身体を包みながら消滅していく。
助けてくれた島田さんに、俺はお礼を言う。
「ありがとう……ございます。ギリギリ助かりました」
「いえ、間にあってよかったです。ハイヒール」
「おお……全然苦しくない」
島田さんが上位の回復スキルをかけてくれた事で、背中の痛みも消え呼吸も楽になる。凄いな……こんな怪我まで一瞬で治せてしまえるのか……。
回復スキルの能力に驚いていると、突然灯里に抱き付かれた。
「士郎さん、大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だよ」
「もう、なんであんな無茶したんですか!?」
怒った顔で叱ってくる灯里に「ごめんごめん」と謝りながら、俺は島田さんを見上げて、
「何かあっても島田さんが回復してくれるからって思ったから、多分あんなこともできたんだと思う」
「そういえば、今は大丈夫ですか」
五十嵐さんが島田さんに問いかける。ダブルジラフを斬った事で、症状が出ているかもしれないからな。
俺達が心配していると、彼は後頭部をかきながら、
「ちょっと興奮してますけど、多分これはダンジョン病とは関係ないと思います。許斐さんを助けようと思って無我夢中で、楽しいとか思う暇もなかったから……かな?」
彼の言葉を聞いて、俺達は顔を綻ばせる。
すると、経験豊富な五十嵐さんが最後にこう告げた。
「それが、
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