第41話 リハビリ
GW三日目の月曜日。
俺と灯里は準備をして、朝から東京タワーに訪れる。平日よりは人が多いけど、土日よりは人の数も落ち着いている。ライブビューイングや屋台などはまだあるが、特別なイベントは次の土曜日までないらしい。恐らく次の土日がピークとなるだろう。
人混みをかき分けギルドに入り、五十嵐さんと島田さんと落ち合う。ギルド内にあるショップで少し買い物をした後、大広間にいき準備をしてから、自動ドアを潜り抜け、俺は三日間連続でダンジョンの地に足を踏み入れた。
「今日の目標は六層に到達することにしよう。午前中は五層で肩慣らししつつ自動ドアを見つけて、午後からは六層を探索する。それでいいか?」
「はい!」
「問題ありません」
「はい……大丈夫です」
元気に返事をする灯里に通常運転の五十嵐さん。だけど島田さんはなんだか元気がなかった。やっぱり昨日のことを引きずっているのだろうか。まあ、すぐにダンジョン病を克服するのは無理だろう。だけど、少しずつでいいから頑張ってほしい。
一日の方針を話し終えた俺達は、五層の探索を開始する。
「ゴブリン3、ワイルドホース2! プロバケイション!」
「ソニック、プロテクション」
いきなり五体のモンスターと遭遇する。すぐさま五十嵐さんが挑発を、島田さんが加速と防護のスキルを発動。灯里が矢による先制攻撃を仕掛け、俺はゴブリンに向かって駆け出した。
二体のワイルドホースは五十嵐さんへ、矢の攻撃を受けたゴブリンは灯里に向かい、残り二体のゴブリンは俺に突っ込んでくる。
「「ゲヒャヒャ!!」」
「はあ!!」
ゴブリンのパンチをバックラーで受け止め、剣を振るいもう一体のゴブリンの右手を斬り飛ばす。鮮血と悲鳴が舞い、苦しむゴブリンは怒号を上げながらタックルしてくるが、横にステップしつつ足を引っ掛けて転ばせた。
負傷しているゴブリンはゴロゴロと地面を転がり、もう一体のゴブリンがジャンプしながら跳びかかってきたので、タイミングを合わせて胸の中心に刺突を繰り出す。急所に入り、ゴブリンは一撃でポリゴンとなった。
のたうち回っているゴブリンにトドメを刺し、五十嵐さんの方を確認する。一体のワイルドホースは灯里に屠られおり、残りは一体。
「島田さん!」
「……はい」
後ろにいる島田さんを呼ぶと、彼は緊張した顔で【収納】スキルの異空間から武器のデスサイスを取り出し、颯爽と地を駆ける。疾い……とても後方支援のヒーラーとは思えない速度でワイルドホースに接近すると、ブウン!とデスサイスを大きく振った。死鎌の切れ味は抜群で、一撃でワイルドホースの首を半分まで分断した。クルクルと回し、トドメを刺す。
「ふぅ……ふぅ……」
「大丈夫ですか、島田さん」
「はい……大丈夫です」
様子を伺うと、島田さんは荒い息を繰り返しながら答える。今の所、ダンジョン病による暴走は起こらなそうだ。
「すみません……僕のために、わざわざモンスターを残してしまって」
「そんな、気にしなくていいですよ。協力しますからゆっくりいきましょう」
今の戦いで、俺達は島田さんの為に一体だけモンスターを残しておいた。それは彼にモンスターを倒してもらうためであり、ダンジョン病のリハビリのためだ。
俺の予想だと、島田さんはモンスターを斬るのを我慢して自分を抑圧している時に、一度に多くのモンスターを斬ることで一気に爆発し暴走してしまうんだと思う。だから少しでもいいからストレスを発散させつつ、暴走を自分で抑える努力をしてもらう。
それが上手くいくとは限らないけど、このまま放置して取り返しのつかない状態になるよりはマシだろう。
「そうですよ、何かあったら私達が止めますから!」
「頑張りましょう」
「皆さん……ありがとうございます!」
灯里と五十嵐さんに声をかけてもらい、島田さんの顔色も良くなる。
それからは今のような戦闘を繰り返し、小休憩を取ったりしてまた探索を始める。それを繰り返していると、俺達は六層への階段を見つけた。
「よし、それじゃあ六層に――」
――ぐううううう。
みんなの視線が灯里に向けられる。音を出した張本人は、お腹を隠すようにして顔を真っ赤に染めていた。灯里のお腹は正直者だなぁ。
「うぅ、そんな目で見ないでください!」
「いい時間だし、昼休憩を取ってから六層に行こうか」
涙目になっている灯里に提案し、俺達はレジャーシートを広げ昼食を取る。
四人でダンジョンの事を話したり、経験豊富な五十嵐さんや島田さんの話を聞きながら、灯里が作ってくれたおにぎりを頬張った。
島田さんはまだ十層の階層主を倒していないらしい。俺たちとクリアできたらいいなと、にこやかに言っていた。
(階層主か……)
十階層の階層主はオーガだ。俺もYouTubeで何度も見ている。奴に殺された冒険者は沢山いて、正直今の俺では勝てる気がしない。でもいずれは、戦って勝たなくてはならない相手。
いや、いずれじゃない。俺の目標では、週末の土日でいきたい。
もう少し余裕を持ってもいいんだけど、島田さんという強いヒーラーがいればいける気がする。灯里の両親と俺の妹の夕菜を救い出すためにも、できるだけ早く攻略したいしな。
「そういえばさっきレベルが上がったみたいだから確認してもいいですか?」
「あっ、私も上がってたんだ」
「いいですよ」
「ステータスオープン」
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許斐 士郎 コノミ シロウ 26歳 男
レベル:14
職業:魔法剣士
SP:50
HP:300/310 MP:200/240
攻撃力:300
耐久力:255
敏 捷:250
知 力:240
精神力:290
幸 運:235
スキル:【体力増加1】【物理耐性2】【炎魔術3】【剣術3】【回避1】【気配探知1】【収納】【魔法剣1】
称号【キングススレイヤー】
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使用可能なSP 50
取得可能スキル 消費SP
【筋力増加1】 10
【体力増加2】 20
【気配探知2】 20
【回避2】 20
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う~ん……収納も取得したことだし、SPを溜めておかなくてもいいか。
俺はSP50を使用して、新たにに【筋力増加1】【気配探知2】【回避2】を取得した。これでSPが0になってしまったけど、六層以降も戦うとなるなら必要だ。
よし、スキルも取ったことだし行きますか。
片付けをして荷物を収納にぶち込んだ後、俺達は階段を上り六層へ向かったのだった。
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