第37話 イベント
「お帰りなさいませ、大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます」
ダンジョンから東京タワーの出口に戻ってきた俺達は、スタッフに連れられて大広場に戻る。魔石を換金し、装具やアイテムをギルドに預けてエントランスに戻った。
以前行った八番窓口に向かい、番号札を貰う。順番が来たので、俺と灯里は窓口に着席する。因みに五十嵐さんは少し用があると言ってどこかに行ってしまった。どのヒーラーを選択するかは、俺達に委ねるとのこと。
「本日はどのような冒険者をお探しですか?」
「女性でヒーラーの方を探しているんですけど」
「分かりました、少々お待ちください」
カタカタポチポチとスタッフはパソコンを動かして検索してくれる。しかし一人もいなかったのか、「申し訳ございません」と言って、
「只今フリーの女性ヒーラーはいないようです。ヒーラーは他の職業よりも母数も少ないですし、女性となると人気ですから」
「そうですか……では男性のヒーラーはどうでしょうか」
「男性のヒーラーも今は募集していないようです。ほとんどの冒険者が前日にマッチングしているので、恐らくGWに合わせていたと思われます」
「そうですか……ありがとうございました」
スタッフの話を聞いて、そりゃそうだよなぁと心の中でごちる。
俺達と同じようにGWをダンジョン三昧にするのなら、前日までにはパーティーを組むのは当然の事だ。俺達は一歩遅かったのだ。
俺と灯里は八番窓口を後にして、待合室のソファーに座り二人で落ち込む。
「ミスったなぁ……もう少し早くヒーラーが必要だと分かってれば募集してたんだけど……」
「どうしましょう」
「う~ん」
二人で考えを巡らす。ヒーラーがいないとなると、次点ではタンクを募集するべきか。五十嵐さんが戻ったら相談して、もう一度八番窓口で探してもらおう。
そんな話を灯里としていたら、突然男性に声をかけられた。
「あの~、少しいいでしょうか?」
「はい、なんでしょう――(ってデカッ!?)」
声をかけられたので視線を向けると、男性は背が高く首をかなり上げることになる。
その身長に驚いてしまう。多分190ぐらいあるんじゃないだろうか。
突然声をかけてきた男性はひょろ長く、顔は細目かつ目尻が下がっていて優しそうな印象がある。
俺と灯里が高身長に圧倒されて黙っていると、男性は後頭部を触りながら
「失礼ですが、先ほどヒーラーを探しているとの話を聞いてしまったのですが、もう見つかってしまいましたか?」
「いえ……まだですけど」
そう告げると、彼は「良かったぁ」と胸に手を当て安心したように息を吐く。
その様子に困惑していると、彼はニッコリと微笑みながらこう言ってきた。
「よろしかったら、僕とパーティーを組んでいただけませんか?僕はヒーラーで、さきほどフリーになったばかりなんですよ」
降って湧いた都合のいい話に、俺と灯里はつい顔を見合わせてしまった。
◇◆◇
突如仲間志望してきた高身長の男性。いきなり過ぎて困惑してしまい、五十嵐さんと合流してから待合室で話し合う事になった。まず四人で軽く自己紹介をする。
男性の名前は
職業は
別に聞いてないけど、自分から三十五歳で妻がいると言ってきた。確かに左手の薬指に指輪がはめられている。ていうか三十五歳って……とてもそうは見えないぞ。普通に二十代ぐらいかと思った。
俺達を誘った理由は、さっきも言った通りフリーになったばかりで、パーティーを募集するために八番窓口に訪れた時にたまたま俺達がヒーラーを探している話が聞こえたからだそうだ。
声をかけてきたのは、すぐにパーティーに入りたかったから。ギルドに頼むとどうしても一日、二日のスパンがかかってしまい、折角のGWが潰れるのが勿体ないと思い、思い切って誘ってきたらしい。
俺と灯里は島田さんとパーティーになっても問題ないと判断したけど、五十嵐さんが一つだけ質問する。
それは、“何故フリーになってしまったのか”である。そう言われてみれば、疑問を抱いてしまう部分もあった。八番窓口のスタッフが言っていたように、今ヒーラーは人気殺到で一人も募集していない。そんな人気役である島田さんが、どうしてGW初日でフリーになってしまったのか。恐らく今日冒険したパーティーと問題があったと思うんだけど、その問題が気になってしまう。
五十嵐さんの質問に対し、彼は困ったように頬をかきながら答えた。
「え~と、それがですね~、なんか僕が戦う所が気に入らないらしく、解雇されてしまいました」
「ヒーラーなのに戦うんですか?」
「それは勿論戦いますよ。タンクやアタッカーを無視するモンスターもいますし、自衛しないと死んでしまいますから」
それもそうかと納得する。
ヒーラーは回復だけしていると先入観を持っていたが、言われてみればヒーラーに攻撃するモンスターだっているよな。その時は守ってくれる仲間もいなし、逃げ切ることが出来なかったら戦うしかないだろう。
「俺はいいと思いますよ。灯里はどうだ?」
「私も大丈夫ですよ」
「五十嵐さんは?」
「そうですね……戦う所も見てみないと何とも言えないですし、とりあえず試しに一緒に潜ってみてもいいと思います」
「分かった。じゃあ島田さん、俺達のパーティーに入ってもらってもいいですか?」
「わぁ~!ありがとうございます!本当に助かります!」
嬉しそうに俺の両手をガシっと握ってくる島田さん。
少し話しただけだけど、俺的にはいい印象がある。
その後は軽く話して、明日の九時に待ち合わせをして解散することになった。
「いい人そうでしたね!」
「そうだな。なんか物腰が柔らかい人だったよ。明日の冒険がちょっと楽しみだ」
「……」
「あっ見て、なんかやってるよ!」
ギルドを出て歩いていると、灯里が遠くを指さした。
追いかけるように見ると、ステージでアイドルっぽい三人の女の子が歌って踊っている。その周りには多くのファンがいて、サイリウムを振り回して盛り上がっている。
誰なんだろう……有名なのかなと見ていると、彼女達の事を知っている五十嵐さんが説明してくれた。
「ダンジョンアイドルのカノンとミオンとシオンですね。三人共冒険者で、“歌って踊って戦える”がコンセプトのアイドルグループです。ダンジョンが一般人に公開された当初から結束され、今では世界中で人気を博しています」
「あー!私知ってます!よくYouTubeで見てます!うわー生のミオンちゃんだー!」
あー、そういえば俺も聞いた事はあったな。人気過ぎてCMまで出たらしい。俺はどちらかというと女性冒険者よりも男性冒険者のパーティーを視聴しているから、あまり彼女達の事は知らなかった。
「詳しいですね、五十嵐さん」
「実はというと私、彼女達のファンですから。という事で、私も逝ってきます。今日はお疲れ様でした」
そう告げる彼女はハチマキを額に縛ってハッピを羽織いサイリウムを持って駆け出してしまった。アンタ……ガチのアイドルオタクだったんかい。準備もいいし、さては最初からこれが目当てだったな。
「ねえ士郎さん、折角だから私達も回りませんか?」
「そうだね、そうしようか」
「はい!」
ギルドの周りはどこもダンジョンに関したイベントをやっていて、俺と灯里は屋台にあるりんご飴やわたあめ、たこ焼きなどを買って食べながら見物していく。
それが何だかデートっぽくて、俺はつい顔を赤くしてしまった。
「楽しいですね、士郎さん!」
「そうだな」
灯里の笑顔を見ると、俺も嬉しくなってしまう。
両親を目の前でダンジョンに囚われた時から、きっと彼女は心の底から楽しんだことはないだろう。今も本当に心の底から笑えているのか俺には分からないけれど、少しでも灯里が楽しんでくれたらと願う。
「よーし、今だけは俺のおごりだ。じゃんじゃん食べていいぞ!」
「本当ですか!?じゃあ一杯食べちゃいますね!!」
喜びながらアレもいいコレもいいと指を折っていく。
そういえば灯里って、見た目にそぐわず腹ペコキャラだった。かっこよく決めてしまったけど、俺は心の中で財布の中身を心配するのだった。
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