第35話 油断大敵
GW初日の土曜日。
俺と灯里は早速ギルドに訪れていた。大型連休だからか、いつもより沢山の人がいる。
それにギルド周辺では、スポーツ球技場のように屋台やグッズ販売が展開されていて、祭りのような雰囲気が醸し出されていた。ネットで見たのだが、実際イベントとかもやるみたいだ。夜には花火も上がるらしい。
熱気のあるギルドを眺めて楽しみつつ、エントランスに入る。
待ち合わせ時間よりも早く来ていた五十嵐さんと合流し、正面通路を出て広場に出た。装備受け取り場所のスタッフに冒険者カードを提示し、預けてある防具を受け取り、更衣室に向かう。
新調したウルフ装備に身を包み、灯里と五十嵐さんと合流。俺も灯里もキャンプの服装からダンジョン装備になった事で、周りと同じように一端の冒険者に見えた。
少しだけ誇らしく感じながら、ダンジョンに入るため列に並ぶ。順番が来るとスタッフについていき、通路を歩いて自動ドアにたどり着く。
近づくと、自動ドアがウイーンと一人でに開き、その中は漆黒の空間が広がっていた。
「よい冒険を」
スタッフと、自動ドアの周りを警護している自衛隊に見守られ。
俺と灯里と五十嵐さんの三人は、一緒に自動ドアの中に入っていったのだった。
◇◆◇
一瞬だけ意識が混濁し、目を開くと美しい草原が広がっていた。
東京タワーの中にこんな世界があるなんて今でも信じられず、それでいて雄大な光景に心が惹かれてしまう。灯里は少し気持ち悪そうにしていた。まだ“ダンジョン酔い”に慣れていないらしい。それと比べてベテラン冒険者の五十嵐さんはケロッとしている。
俺達が訪れたのは四層で、今日の目標は五層到達だ。
早速取得したばかりの【収納】スキルを使い、食べ物や飲み物、タオルや着替えなどが入っているリュックサックを異空間の中に仕舞い、鋼鉄の剣とバックラーを取り出す。
やっぱり【収納】スキルは便利だな、取得してよかった。
取得するのに100SP必要で割高だが、一度取得してしまえば使用する際にMPを使うことはない。剣や盾をわざわざ持ち帰らず仕舞っておけるし、荷物になるリュックサックも入れておける。しかも異空間の中は時間が止まっていて、冷たい飲み物や温かいご飯がそのまま状態で保存できるのだ。
本当に便利過ぎる。【収納】スキルがあるのとないのとでは、探索の快適度が段違いだった。
「じゃあ、五層への階段を探しながらモンスターと軽く慣らそうか」
「はい!」
という事で探索を始めると、すぐにモンスターと遭遇する。
「プロバケイション!ゴブリン2、ホーンラビットとロックボア、スカイバードが1。士郎さんはゴブリン、灯里さんはスカイバードを!」
「「はい!」」
与えられた指示に従って行動を開始する。灯里は白い弓矢を上空に向け、俺は五十嵐に殺到するゴブリンへ駆け出す。
疾い。単純にレベルが上がったのもそうだけど、ウルフ装備による敏捷アップの能力で素早く動けるのだ。足が軽く、あっという間にゴブリンに肉薄し、剣を振るう。避けられることなくダメージを与え、追撃によって斃す。
異常種のゴブリンキングと戦ったお蔭か、ゴブリンが雑魚に思える。
それに俺自身の戦闘技術も向上している気がした。まあそれは自惚れで、全部スキルのお蔭なんだろうけど。だけど確実に、以前よりはパワーアップしている。
もう一体のゴブリンを屠って状況を確認すると、既に灯里もスカイバードを倒して狙いをロックボアに定めている。灯里の弓の腕もかなり上達していて、威力も上がっている。
なにより矢の命中率が半端ない。あんなに不規則に動き回ってるのに、よく当てられるよな。と、彼女の技量に感心しつつホーンラビットに攻撃を仕掛ける。
角兎は未だに五十嵐さんに攻撃しているので、隙だらけだった。なので背後から襲い掛かろうとすると、ギリギリ躱されてしまう。
「あれっ」
「キュウ!」
「うおっ!?」
反撃してきたホーンラビットの角を、左腕に装着しているバックラーで慌てて受け止める。ガツンと重たい衝撃がきて、二歩ほど後退した。
危なかった……危うく殺されるのが二回目になることだった。いけないいけない、ちゃんと集中しなければ。
慢心していた自分に喝を与えながら、左手をホーンラビットに向けて呪文を唱える。
「ファイア!」
「キュ!?」
左手から放たれた火炎を浴びた角兎は、もがき苦しみながら地面をのたうち回る。そんなモンスターに今度こそトドメを刺して、戦闘は終了となった。
「お疲れー」
「お疲れ様です。許斐さん、今油断しましたね」
「う、うん……」
近寄ってきた灯里と、五十嵐さんが恐い顔で俺の怠慢プレーに注意してくる。
図星を突かれ、言葉が出てこない。
「レベルも上がって装備も新調し、自分が強くなったことを自覚するのはいいと思います。それがダンジョンの楽しみの一つですからね。でもそういう時こそ、油断してつまらないミスで死んでしまう冒険者もいるのです。なので気をつけてください。許斐さんだけではなく、灯里さんもそうですよ」
「分かった、気をつけるよ」
「はーい」
やっぱり五十嵐さんは上司みたいだ。どっちが年上なのか分からない。
でもこうやって叱ってくれるのは、凄く助かるな。俺だけだったら、もう一度同じことをして次こそ死んでいたかもしれない。
折角GWに入って毎日ダンジョンに行けるんだ。死んでしまって48時間入れなくなってしまうのは勿体ない。気を引き締めよう。
「では行きましょうか」
表情を柔らかくてして言う五十嵐さんに、俺と灯里は笑顔で頷いた。
その後すぐに五層への階段を見つけて、俺達は五層へと足を踏み入れたのだった。
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