第33話戦利品
「はぁ……はぁ……か、勝った」
無我夢中だった。あいつを倒すことしか頭になくて、それ意外の思考は消えていた。
まさか勝てるとは思わかったけど、倒せてよかった。誰も死ななくてよかった。
そう思って安堵の息を吐くと、不意に全身の力が抜けて倒れそうになる。そんな俺を、横から灯里が抱き締めてくれた。
「士郎さん!凄いです!士郎さん!」
「ごめん灯里、ちょっと痛いからあまり強く抱き付かないで……」
「ご、ごめんなさい!嬉しくてつい!怪我は大丈夫ですか!?」
腕とあばらの骨が折れている事を伝えると、灯里は泣きそうになってしまう。
大丈夫だよとやせ我慢をしていると、五十嵐さんが声をかけてきた。
「結界石を発動しましたので、少し休憩しましょう。お二人共お疲れ様です。それと士郎さん、これを飲んでください」
「ありがとう……ってこれなに?」
「ハイポーションです。骨折程度ならすぐに治ります」
「ハイポーションって、一本で十万するアイテムじゃないか!そんなの貰えないよ!」
ダンジョンにはポーションという回復アイテムがある。
モンスターからドロップすることもあれば、ダンジョン産のアイテムで調合して作ることもできる。その効果は絶大で、傷などもたちまち治してしまうのだ。まあ現実では効果がなくて、ダンジョンでしか使えないんだけど。
それでも凄く貴重で、ポーションだけでも一本一万円以上する。ハイポーションなんて、一本で十万する高級品だ。そんなの使えないと遠慮するが、五十嵐さんは頑なに渡そうとしてくる。
「受け取ってください。それを飲まなければまともに動けず、帰ることもできませんから」
うっ、確かに彼女の言うとおりだった。体力を使い果たしてもう一歩も動けそうにないし、骨折の痛みも半端ない。このままでは歩く事もままならず、自動ドアを探すこともできなかった。
申し訳ないけど、彼女の厚意に甘えよう。最悪、お金を払えばいいし。
「ありがとう、頂くよ」
五十嵐さんからハイポーションが入っている小瓶を受け取り、蓋を開けてから口につける。
味はなく、ほのかに爽やかな風味が漂う。ゴクゴクと飲み干すと、突然俺の全身が淡い緑色に光り輝く。光が収まると疲れが吹っ飛び、骨折の痛みも全然ない。それどころか完治していた。
ポーションってこんなに凄いんだ……。
「どこも痛くない……ありがとう五十嵐さん、助かったよ」
「良かったぁ……士郎さんが良くなって。楓さん、ありがとう」
「いえ、“
「ありがとうございます!」
五十嵐さんからポーションを貰い、灯里も飲み干す。ついでに五十嵐さん自身も飲んでいた。
二人の身体が緑色に淡く輝く。俺の身体もあんな感じだったのかな。
「これ凄いよ!あんなに重かった身体が軽いもん!」
「それは良かったです」
「それにしても、俺達よく倒したよな。絶対死ぬかと思ったよ」
「そうだよ!士郎さん突然強い魔法使うから驚いちゃった!いつの間に覚えてたの?」
「ゴブリンキングに吹っ飛ばされた時、何か出来ないかとステータスを確認したんだ。そしたらレベルが上がってて、急いで【炎魔術3】を取得したんだよ」
あの時俺は一縷の望みにかけ、ステータスを確認した。
そしたらレベルが10になっていて、新しく【炎魔術3】が取得できるようになっていた。【炎魔術3】になると強力な魔法の『ギガフレイム』を覚えるから、これが逆転の一手になると思ったんだ。
「まさかギガフレイムがゴブリンキングを倒せるほど強いとは思ってなかったけど」
「それですが、普通のゴブリンキングだと私達が死んでいました。口を挟んで申し訳ないですけど、ギガフレイムであのダメージを与えられるほどゴブリンキングは柔ではありません」
えっマジ?じゃああのゴブリンキングは弱かったって事なのか?
そう問いかけると、五十嵐さんは「恐らく」と前置きしながら、
「異常種だったので、強さが四層のベースになっていたのかもしれません。十層以上に出現する通常のゴブリンキングですと、私一人では先ほどのように受け切れないですから」
そうだったのか……と少し残念に思いながらも、弱かったから生き残ったのだと幸運に思う。もし通常のゴブリンキングだったら、今頃皆殺しにされていたしな。
「何でもいいじゃん!勝ったんだから!」
「灯里さんの言う通りです。異常種ではありましたが、れっきとしたゴブリンキングでしたから。レベルも上がってると思いますよ。それにアイテムもドロップしています」
「本当だ……」
足下を見ると、大きな魔石と指輪が落ちていた。それらを拾い、五十嵐さんに渡す。どうやら彼女は【鑑定】スキルを持っており、アイテムとかモンスターを鑑定出来るそうだ。一目見てゴブリンキングだと分かったのも、鑑定を使ったからである。
鑑定してもらうと、魔石はキングモンスターからドロップする『王魔石』で、一つで数百万するとか。その金額を聞いてぶったまげたけど、どうやら指輪の方が価値があるみたいだ。
指輪の名前は『ゴブリンキングの指輪』とそのまんまで、ゴブリンと戦闘する際に能力値が上がるのと、威嚇が効きづらくなる効果かがある。それだけ聞くとかなり優秀なアイテムだ。五十嵐さんの予想では、三百万円ぐらいで売れるかもしれないとのこと。
それを聞いて、ダンジョンってやっぱり一攫千金の夢があるなーと思ってました。
「なんで二つもドロップしたんだろう。アイテムって、ラストアタックの奴の幸運値が関係するんだよね?」
「そうですね。階層主以外は、完全に運です。しかし今回はイレギュラーだったので、たまたまドロップしたのかもしれません」
「凄くラッキーじゃん!」
とりあえずアイテムの処理は後でにしておいて、今度はステータスを確認することになった。
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許斐 士郎 コノミ シロウ 26歳 男 レベル:12
職業:剣士 (魔法剣士 変更可)
SP:120
HP:280/290 MP30:/170
攻撃力:285
耐久力:240
敏 捷:235
知 力:220
精神力:260
幸 運:220
スキル:【体力増加1】【物理耐性2】【炎魔術3】【剣術3】【回避1】【気配探知1】
称号【キングススレイヤー】
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使用可能なSP 120
取得可能スキル 消費SP
【筋力増加1】 10
【体力増加2】 20
【気配探知2】 20
【回避2】 20
【収納】 100
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なんか色々凄いことになってるな。
一先ず、能力値が全体的にグンと上がってる。今までよりも上昇幅が大きいような気がした。五十嵐さん曰く、キングモンスターを倒してレベルが上がるとそういう事が起こる“らしい”。
お次は職業だが、剣士の隣に(魔法剣士 変更可)と書かれている。これは俺も知っていて、レベル10になると適性がある職業をランクアップできるようになるのだ。剣だけ使っていれば、『騎士』や『武士』になったりできる。俺が魔法剣士なのは、多分魔法をバンバン使っていたからだろう。魔法剣士の特徴は、剣に魔法を付与できることだ。中々かっこいいよな。
その次は【キングススレイヤー】という称号だ。タッチすると、このような文章が出てくる。
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キングススレイヤー
・キングモンスターと戦闘する時、能力値が上がる。
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ゴブリンキングの指輪と同じような効果か、結構使えるな。
確か称号は特定のモンスターを倒した時、稀に獲得できる。五十嵐さんも幾つかの称号を獲得していると言っていた。
あって困るものでもないし、貰ってラッキーだった。
最後は【収納】スキル。
待ちに待ったスキルだけど、今は取得しないでおこう。
ステータスの確認を終えた俺達は、自動ドアを探すことにした。
イレギュラーな事態が起きることもなく発見し、無事にダンジョンを後にしたのだった。
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