第22話タンク
顔合わせし、互いに問題ないと判断した俺達と五十嵐さんは、ダンジョンに向かうことにした。
広場にいき、受け取り場所で装備を受け取り更衣室で着替えた後、女性陣と合流する。冒険者姿の五十嵐さんを見て、俺と灯里は驚愕した。五十嵐さんは細い身体を、蒼い重鎧で包んでいる。堅牢という言葉が浮かんでくるぐらい、彼女の装備はガッチガチのタンクだったのだ。
「その装備って、重くないんですか?」
「ええ、全然重くないですよ。それに、こう見えて結構動きやすいんです。ダンジョン産の装備やアイテムは
「へー」
感心するように、灯里が五十嵐さんの鎧をジロジロ見ている。
俺も早く、自分の防具が欲しいな。まぁ……それを手に入れるには高階層のモンスターを倒してドロップするか、大金を出すしかないんだけど。
俺達は列に並び、順番が来るとスタッフについていき、自動ドアの前に立つ。
二人には予め二層からと伝えてあるので、俺は頭の中で(……二層)と唱えながら漆黒の空間に入ったのだった。
◇◆◇
「久しぶりな気がするな」
「ですね」
死んだ日以来のダンジョンに訪れ、俺と灯里は感慨深く呟く。
身体を触ってみたり、ホーンラビットにぶち空けられた胸を触る。うん……大丈夫だ、ちゃんとある。
ダンジョンで死んでも、48時間以降経ってもう一度ダンジョンに入ると、身体は元の状態に戻っている。頭を潰されようが、四肢欠損しようが、何事もなかったかのように元通りの状態になるのだ。
非常に助かるが、一体どんな仕様でそうなっているのだろうか?ネットの考察廚達が色々な考えを言ってるみたいだけど、今のところ確証たるものは出ていない。平行世界とかバーチャルとか異世界とか沢山の憶測があるけど、 “RPGって思ってればよくね?”で落ち着いていた。
「三層の階段を探しながら、モンスターと戦おう。久しぶりだから勘も鈍っているだろうし、五十嵐さんの実力とか知りたいし」
「おっけーです!」
「私も構いません」
方針を固めた俺達は、二層の探索を開始する。
早速モンスターと遭遇。スライム一匹とウルフ二匹だ。俺と灯里がすぐさま剣や弓を構える中、五十嵐さんは素早く前に出た。
そして彼女の手元が光ると、蒼く大きな盾が出現する。
な、なんだあれ!? 何もない所から突然大盾が出てきたぞ!?
「ウルフは引き付けるので、スライムをお願いします。
何かスキルを使ったのだろう。五十嵐さんの全身がうっすらと蒼く発光している。と同時に、二匹のウルフが彼女に襲い掛かる。噛みつこうと飛びかかっているが、大盾に阻まれて弾かれていた。凄い、なんて防御力なんだ!
って、感心してる場合じゃないぞ。スライムを倒して加勢しに行かないと。
「ファイア!」
俺が放った火炎と、さらに灯里が射った弓矢がスライムに突き刺さる。その二発で消滅したスライムを横目に、ウルフに囲まれている五十嵐さんのもとに駆け寄った。火炎で牽制と目くらましをして、怯んだところを剣で突き刺す。頭を貫いたからか、ウルフは一撃で斃れた。
もう一匹のウルフは、灯里が放った二本の弓矢を受け消滅する。
周囲を確認し、新たなモンスターがいないことを確認すると、ふぅーと息を吐いた。
「お疲れ様です。もっと初心者を想定していましたが、動きはかなり良いですね。許斐さんも星野さんも、冒険者になってすぐとは思えない戦いぶりでした」
「五十嵐さんこそ、やっぱり凄いですね。ウルフ二匹に突撃されて一歩も引かないどころか逆にふっ飛ばしてましたし。それにタンクがいるだけで、凄く戦いやすかったです。灯里もそう思うだろ?」
「まあ……思いましたけど」
認めたくはないけど、本当のことだから仕方ないとイジけた風に口にする灯里。こういう所はまだ子供みたいで、可愛いよなーとおっさん目線で思ってしまう。
でも実際、五十嵐さんは頼もしい。というか、
俺と灯里の二人だと、モンスターと遭遇したらすぐに戦闘に入るから余裕がなく状況判断もままならない。だけどタンクがいれば、モンスターを引き付けてくれるので一呼吸できるというか“間”を生み出すことができる。それになんといっても安心感が半端ではなかった。
タンクがいるだけで、こんなにも楽に戦えるなんて思わなかったよ。
「そういえば、盾はどこから出したんですか?」
「いつもは【収納】スキルで仕舞ってあります。大きくて邪魔ですし、流石にこれを持って長時間歩くのは体力的にも厳しいですから」
「いいなー私も早く【収納】スキル欲しいです」
「あと、戦闘開始直後になにかしてましたけど、あれはなんだったんですか?」
「あれは【挑発】スキルで得られる魔法で、プロバケイションといいます。使用すると、敵モンスターが使用者に注目し、基本的には使用者に攻撃を仕掛けてきます。数が多かったり強い個体の場合無視される場合もありますが、低階層では平気ですので気にしなくてもいいです」
「へぇー、そんな便利なスキルがあるんですね」
「
「分かりました。守ってもらえるだけで助かります」
そう告げると、五十嵐さんは「それから」と続けて、
「“会社でも言いましたが”、私に敬語は使わなくていいです。許斐さんの方が年上かつ先輩なので、遠慮はいりません」
「わ、わかり……わかった。気をつけ……るよ」
「むぅぅぅ」
五十嵐さんに言われた通りにすると、灯里が険しい顔を浮かべる。
まだ五十嵐さんのことを気に入らないみたいだ。出来れば仲良くしてほしいんだけどなぁと心の中でぼやきなかがら、俺達は探索を続けたのだった。
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