第21話仮パーティー結成
次の日には、ギルドからメッセージが届いていた。
それによると、ギルドが紹介してくれたタンクの女性は引き受けてくれたようだ。当日の九時に、ギルドで顔合わせとなる。一先ず了承してもらえて一安心だ。
スタッフが言っていたように、家のパソコンでダンジョン省のHPからフリーの冒険者を検索してみたのだが、全然いなかったのだ。
女性冒険者だけを見れば結構いるのだが、相手側の条件が厳しすぎて、俺達では無理だった。
レベル30以上とか、女性限定とか、もしくは一日探索するのに何万円支払わなければならない。最後に関しては、まるで傭兵みたいな条件だ。
という事から、ギルドに紹介してもらってマッチング出来たことはラッキーだったといえよう。
土曜日の朝。
パンパンに物が入っているリュックを背負った俺達は、約束の九時前にギルドに到着すると、八番窓口に向かった。今日は相談ではないので、番号札を取らずそのままスタッフに声をかける。
「あの、九時から待ち合わせの約束していた許斐です」
「許斐様ですね、少々お待ちください……フリーの冒険者様は既に到着しているので、あちらの対面室に向かってください」
「分かりました」
灯里を連れ、スタッフに案内された対面室に入る。失礼しますと告げて入ると、椅子に座っていた人が立ち上がり、身体をこちらに向けて口を開いた。
「おはようございます。五十嵐といいます、本日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそお願いします、許斐といいます。こちらの女性は星――」
ちょっと待て、今なんて名乗った?五十嵐って言わなかったか?
俺は女性を見やる。長い髪を一つに纏めたポニーテールに、凛とした顔つき、銀縁眼鏡も相まってクールで知的に見える。背は高く、ギルドの雰囲気にそぐわないスーツをぴしっと着込んでいた。
そんな女性――五十嵐さんは、俺を見て驚愕している。そして俺もまた、彼女を見て驚愕している。
間違いない、彼女は俺と同じ会社で働いている五十嵐楓さんだった。
「士郎さん……どうしたんですか?」
「士郎……さん?」
動揺している俺達を不思議に思い、灯里が尋ねてくる。その瞬間五十嵐さんが眉尻をぴくっと上げて何かを言った気がしたが、声が小さくて聞こえなかった。どうしたもんかと困惑しながら、灯里に説明する。
「いや、それがさ……五十嵐さんは会社の同僚なんだよ」
「会社の同僚~?」
そう伝えると、灯里の顔が険しくなる。声が怒っているように聞こえるのは、俺の気のせいだろうか。
「とりあえず座って話しましょう」
「は、はい」
五十嵐さんに促されて、俺達は椅子に腰かける。俺と灯里が横並びに並んで、対面に五十嵐さんが座る。スーツ姿の五十嵐さんがいるせいで、なんだかここが会議室のように思えてきた。
そんな風に感じていると、灯里が問いかけてくる。
「この人と士郎さんは知り合いって事ですか?」
「知り合いっていうほど関わってないよ。同じ会社で働いてて、たまに廊下ですれ違うぐらいかな」
「おかしいですね。先日お昼を一緒にしたではないですか」
「お昼を一緒に?」
「そ、それは俺が一人で食堂で食べてたら君が来たのであって、一緒に食べたというのは語弊があるというか……」
あれ?なんで俺は必死に言い訳みたいな事を言っているんだ?これじゃ浮気した男みたいじゃないか。断じてそんな事ではないのに。
「プライベートの話は無しにしましょう。貴女も紹介してもらってもよろしいですか?」
「星野灯里です。よろしくお願いします、五十嵐さん」
(い、居心地が悪い……)
何故だか分からないけど、灯里と五十嵐さんの間でバチバチと火花が散っている気がする。まあ、ただの気のせいかもしれないけど。
五十嵐さんが冒険者だったことは驚いたけど、今は置いといてダンジョンの話をするか。同じことを考えていたのか、俺よりも先に五十嵐さんが口を開く。
「今日は一日ダンジョンに入るという事でよろしいですか?」
「はい。因みに俺達まだレベルは3で、今日は二層から始めたいんですけど、それでもいいですか?」
「問題ありません。お二人のレベルはギルドから知らされているので、低層での探索だと思っていました」
へぇ……そうだったんだ。名前は知らせていないけど、そういう情報は知らせてあるのか。そういえば、募集する際にレベルとか職業とか最高到達階層をスタッフに聞かれてたっけ。あれって、受ける側に情報を伝えるための質問だったのか。
なるほどーと感心していると、横にいる灯里が質問する。
「五十嵐さんのレベルを聞いてもいいですか?」
「私のレベルは27です。職業は重戦士、最高到達階層は二十層です」
「「27!?」」
俺と灯里の叫びがハモる。
27って高すぎだろ……中堅ぐらいの冒険者じゃないか。フリーの冒険者な上に、仕事をしていてそのレベルは凄すぎる。
「どうして27レベルの人が、レベル3の私達に付き合おうと思ったんですか?」
怪訝気味に問いかける灯里。彼女の疑問も尤もだ。レベル27もあれば、一人で十分な筈だ。なのに、何で俺達の条件をのんでくれたのだろうか。
五十嵐さんは眼鏡を中指で押し上げた後、仕方ないといった風に答える。
「そこまで言う必要はないのですが、まあいいでしょう。現在私は趣味でダンジョンに行っているのですが、職業はタンクなのでアタッカーと組まなければ戦いがつまらなくなってしまいます。ですから、ギルドから紹介されればなるべく探索することにしています。募集条件は出しているので、求めていないパーティーが来る事はないですし。それが高レベルパーティーであろうと低レベルパーティーであろうと、私が出した条件であれば余程の事がなければ一緒に行っています」
「死ぬかもしれないのに、趣味なんですか?」
「はい、趣味です」
即答した五十嵐さんは、こちらは話し終えたと言わんばかりに背もたれに身体を預ける。
俺は灯里に相談する。
「どうする、俺は別にいいと思うんだけど」
「そう……ですね。レベルも実力も十分ですし、キャンセルしてギルドの信用も失いたくないですし。とりあえず今日は一緒に行きます」
「分かった。五十嵐さん、俺達と一緒に探索してもらってもいいですか」
そう問うと、彼女は口角を上げてこう言った。
「勿論です」
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