第20話フリーの冒険者

 



「明日、ギルドにいって仲間を勧誘しようと思うんだ」


「仲間、ですか」


「うん。正直今の俺と灯里だけじゃ、三層でやっていくのは厳しいことが分かった。だけど二層で立ち止まっていても強くなるには時間がかかるし、ちまちま戦ってもレベルが上がらない。でも、一人仲間に加えれば三層もいけると思うんだ」


 そう提案すると、灯里は顔を俯かせる。

 俺が死んでから三日が経ったが、灯里はまだ元気を取り戻していない。表面上は明るく振る舞っているが、なんとなく無理をしているのが伝わってくる。ダンジョンで死ぬと48時間入れなくなるというペナルティはとっくに過ぎている。だけど灯里は、自分からダンジョンに行こうとは言いださなかった。


 俺が死んだのは自分のせいだと引け目を感じているのだろう。

 早く両親を助けたいと思っているけれど、また俺が死んでしまうのではないかと危惧しているのだ。

 だから俺はもう一人仲間を入れようと思った。三人ならば、三層でもやっていけると思ったからだ。


「私、出来れば士郎さんと二人で強くなりたいです。士郎さんは私と同じ協力者だから信頼できますけど、全然知らない人を仲間に入れるのは……」


「灯里の気持ちも分からなくはないよ。でも、遅かれ早かれ仲間は増やすと思うんだ。行方不明者が発見されたのはほとんどが三十階層以上の上層だ。そこまでたどり着くのに、二人じゃいずれ限界がくる。トップにいる冒険者だって、ほとんどがパーティーを組んでるし」


 今言ったように、東京ダンジョンタワーの上層にいる冒険者はほとんどがチームやらパーティーを組んでいる。ゲームみたいだけど、漫画やアニメの主人公じゃないんだ。いくらレベルが高くてスキルが強かろうと、一人で戦える人なんていない。まぁ、極稀にソロで攻略している人間離れしている冒険者もいるっちゃいるけど。


「ただ、仲間に加える人は灯里が決めていいよ。条件とかも灯里が決めていいし、信頼できそうにないなら断ってもいい。俺達がダンジョン被害者とかの事情も話さなくていい。強くなるための一時的な措置だから。だから、灯里が信頼できそうだと判断したら、その人を仲間に入れよう」


「……わかりました。私も仲間は必要だと思ってはいたんですけど、出来るなら士郎さんと冒険したかったです」


「そう言ってくれて、俺は嬉しいよ」


 納得しきれてはいないけど、灯里も了承してくれた。

 早速明日、ギルドで仲間を募集しに行こう。



 ◇◆◇



「東京ダンジョンタワーにようこそ。本日はどういった御用でしょうか」


「えっと、仲間を募集したいんですけど、そういう場所ってどこでしょうか」


「それでしたら八番窓口でお探しできますよ。側にあるパソコンで検索もできますので、ご活用ください」


「わかりました、ありがとうございます」


 次の日の夜。

 仕事を早めに終わらせ、俺と灯里は電車に揺られてギルドに訪れていた。

 エントランスのスタッフに問いかけたら教えてくれたので、二人で八番窓口にいく。そこには多くの窓口とパソコンがあり、冒険者と思わしき人が相談したり調べものをしている。


 その光景を見た時、なんだか就活していた大学時を思い出してしまう。

 というか、まるっきり同じ光景だ。パソコンで検索して、就活専任の人に相談する。それを毎日繰り返すのだ。まさかギルドの中でこんな光景を見るとは思わなかったな。


 冒険者を登録した時のように番号札を取り、椅子で待っていると呼ばれる。

 二人で向かうと、着席してからスタッフの人と話し始める。


「あの、冒険者を勧誘しようと思っているんですけど、ここで出来るんでしょうか?」


「できますよ。私共に条件を言ってもらい、条件に見合うフリーの冒険者を探してお客様にご紹介させていただく形になります。そのかわり、募集のやり取りは全てこちらでやらせていただきます。もしお客様が個人でのやり取りをしたいのであれば、あちらに置いてあるパソコンで検索し、連絡を取った方が早いかもしれないです」


「あの、そもそもフリーの冒険者ってなんですか?」


「特定のパーティーを持たない冒険者のことです。知り合いがいなかったり時間が合わなかったりしますと、一人での冒険になってしまわれます。だけど一人では冒険したくない人が沢山いますので、その日だけ一時的にパーティーを組んだりしたい人をフリーと呼んでいるのです。冒険者証に個人IDがありますので、それでダンジョン省のHPから検索や募集をすることが出来るようになっています」


 へぇ、そんな便利な機能があったんだ。全然知らなかった。

 それにダンジョンのHPってことは、自宅のネットから出来るってことだよな。


「ただ、ご自身で募集をかける場合はいざこざ等が発生した場合ギルドは関与できず、全てお客様当人たちで解決することになっております。マッチングの早さでは利点がありますが、そういった問題もあります。逆にギルドが紹介する場合はマッチングが遅くなってしまいますが、こちらが信頼している冒険者を紹介致しますので、いざこざがあった場合は仲介したり補填を出すことが出来ます」


「なるほど……」


 自分で探したりする場合は、自分が決めることが出来るしマッチングも早い。だけど諍いが起きた時は一切関与しない。

 ギルドで紹介してもらう場合は、自分で決めることができずマッチングも遅いが、信頼もあるし補填も出る。


 どっちにも良い所があれば悪い所もあるってことか。まあ俺達は初めてだし、自分達で探すよりギルドに頼んだほうがいいか。

 そのことを灯里に伝えると、彼女もギルドの方がいいと判断した。


「じゃあ、ギルドでから紹介してもらう形でいいですか?灯里、条件は考えてきたか?」


「はい。二十歳以上の女性で、盾役タンクの人がいいです」


「分かりました。検索致しますので少々お待ちください」


 二十歳以上の女性でタンクができる冒険者か……。

 女性なのはまあ分かる。変な男がきたら灯里的には嫌だもんな。

 タンクってのも分かる。俺は剣士で灯里は弓術士、二人共攻撃役アタッカーだから防御が出来ない。特に灯里は遠距離で盾とかも持ってないから、接近されると厳しくなる。だから囮をできる盾役は必要だ。


 だけど、タンクをやる女性っているのだろうか?

 ただでさえ盾役はゲームでも地味な立ち回りをする不人気役だ。基本防御しかしないし、能力でモンスターを引き付けたりする。痛みや苦痛がリアルな現世で盾役をやる人なんて中々いないだろう。ましてや女性なんて条件、正直言っていないと思うんだけど……。


 と懸念を抱いていたら、スタッフがパソコンから目を離してこちらを向く。


「現在ですと、お一人だけいます」


(いるんかい!?)


「相手の募集条件が『自分を含めた三人以上のパーティー』であることと『必ずパーティーに女性が一人いる』こととなっておりますが、お客様は条件に合っているので募集をかけることは可能です」


 そっか、相手側も条件を出せるんだよな。

 考えてみれば、女性が知らない男と二人でダンジョンにいくのは恐いだろうし、男だけのパーティーだって恐いよな。


「どうする?募集してみるか?」


「そうですね。余り人もいないようですし、一度この人とやってみましょう」


「分かった。じゃあお願いしてもいいですか?あっそれと、ダンジョンに行く日は今週の土曜日の朝からという情報を伝えてほしいです」


「承知致しました。では、こちらの冒険者様にメッセージを送ります。冒険者様から返答がありましたら、お客様が冒険者登録した際の電話番号にメッセージをお送りします。因みにですが、募集した冒険者様のお名前は現段階ではお教えすることは出来ません。お客様のお名前も冒険者様には伏せてあります。なので名前と顔を知るのはマッチングして、当日になってからとなります」


「分かりました、お願いします」


 無事冒険者の募集を終えた俺と灯里は、ギルドを後にする。


「いい人だったらいいな」


「……そうですね」


 声に元気がない。

 やっぱり灯里は、他の人を仲間にするのは嫌なんだよな。せめて募集をかけた人が、良い人ならいいんだけど。

 でも、タンクをやる女性って一体どんな人なんだろうか?

 なんとなく、ゴリラっぽい女性が浮かんでしまった。


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