第14話ギルドで買い物

 



「ただいま」


「おかえりなさい」


 仕事が終わり残業せずにすぐに帰宅すると、エプロン姿の灯里が出迎えてくれた。

 帰った時にこうやって家に誰かがいるのって、安心するしすごく嬉しいよな。今日一日頑張ったって気がしてくる。


「今日は早かったですね」


「まあね。今日はギルドに行こうと思ってさ」


「ギルドですか?ってことは、ダンジョンに潜るんですか?」


「いや、今日は買い物だね。明日は朝からダンジョンに行きたいから、その前に装備や道具を買っておきたいんだ」


 今日は週末の金曜日。

 明日明後日の土日をダンジョンに費やすために、今日の内に色々と準備をしておきたい。ステータスを確認して職業が分かったから、必要な装備や道具も用意できるし。その他にも細々としたやつを買っておきたかった。

 こういう買い物は意外と時間を使ってしまうから、今日のうちに揃えたい。


「いいですね!いきましょう!」


 という事で俺達は、灯里が作ってくれた夕食を美味しく頂いた後、私服に着替えてギルドに向かったのだった。



 ◇◆◇



「なんかこの前より人が多いですね」


「そうだね」


 ギルドに到着すると、灯里が言った通り沢山の人で賑わっていた。

 ぎゅうぎゅうという訳ではないが、この前来た時よりも断然多い。多分、俺達と同じことを考えているのかもしれない。

 いや、もしかしたら今から日曜日までずっとダンジョンを探索する人達かもしれなかった。


 ダンジョンとギルドは、年中無休の24時間営業だ。なので、ダンジョンに入ってそのまま寝泊りする冒険者も少なくない。よくYouTubeで視聴する冒険者は、週末の夜から日曜日の午後辺りまで探索したりしている。

 流石に今すぐやろうとは思わないが、いつかは俺もダンジョンで夜を過ごしたいと思っていた。


「じゃあ、まずは武器や防具の装備店に行こうか」


「はい!」


 人混みを進み、初日に散策した時に見つけた装備屋店に訪れる。

 店内に入ると、多種多様な装具が飾られていた。俺と灯里は一緒に武器を物色していく。


「士郎さんはやっぱり剣ですよね」


「そうだね、それと盾も欲しいかな」


 本当は剣一本で戦いたいけど、初心者の俺では無理だと思う。いくら剣士の職業で多少は上手く扱えても、それだけで戦えるか分からない。それに、盾があれば恐怖心も多少は薄れるだろう。

 剣士の初心者装備をネットでググったら、盾は持っていった方がいいという意見が八割ぐらいあったしな。

 だから、出来るだけ軽い剣と盾の一式が欲しい。


「これなんかいいんじゃないですか?」


「おっ、本当だ。こんなに長いのに重くない。手にもしっくりくるし、振りやすそうだ!」


「でも、凄くお高いんですよね……」


「十万か……」


 たっかいなぁ……。

 剣一本で十万かよ。だけど、一番安いやつでも剣五万以上はするんだよなぁ。これが魔法剣とかだったら、軽く百万は超えるし。

 何でこんなに高いのかというと、これらは全てダンジョン産の物だからだ。全てダンジョンで手に入った物しか売られていない。


 では何故ダンジョン産なのかというと、現代の通常武器がモンスターにダメージを与えられないからだった。日本で作られた銃や刀、それらをダンジョンに持っていっても、モンスターには一切ダメージを与えられない。

 この情報を知るまで、政府はかなり苦労したらしい。マシンガンやロケットランチャーをぶっ放しても、最弱モンスターのスライム一匹すら倒せなかったのだから。YouTubeを視聴していた異世界オタク達の「これ、自分の身体で攻撃したほうがいいんじゃね?」という情報で、やっと倒すことが出来たのだ。


 モンスターにダメージを与えるのは基本的に三パターンある。


 一つ目は自分の身体で攻撃すること。パンチやキックでもいい。兎に角自分の身体のどこかで攻撃すると、モンスターにダメージを与えられる。


 二つ目はダンジョンで手に入れた武器や防具で攻撃すること。剣や槍で斬ったり、ハンマーなどで叩いてもいい。後は盾とかで殴ってもダメージになる。


 三つ目はスキルで攻撃すること。【炎魔術1】のファイアなどで攻撃すると、モンスターにダメージを与えられる。


 これらの攻撃が基本となっている。後はダンジョンの地形を利用したりしてダメージを与える方法もあるのだが、とりあえず置いておこう。

 話を戻すのだが、ダンジョン産の武器は高い。何故かというと、数が少ないからだ。これらの武器はモンスターを倒した時にドロップしたりしているのだが、絶対にドロップするとは限らない。誰かが作っている訳ではないから量産が出来ない。だから一番安い剣でも五万以上もするのだ。


「うーん、こっちはなんか重いし、持った感覚もよくないな」


 一番安い剣を持ってみるが、十万の剣とは全然違った。重くて振りづらいし、見た目もボロくさい。

 でも、十万かぁ……。


「私は十万こっちの方がいいと思います。命を預ける武器ですし、この先を考えるなら高くてもしょうがないと思いますよ」


「そうだよな」


 灯里に助言されて、俺もそう思った。

 五千円の電動髭剃り機よりも二万円の電動髭剃り機の方が良かったように、ここでケチって安い方を買って後悔するよりも高い方を買った方がいい。それで後悔しても、その時はその時だ。冒険者の書き込みでも、一番安い剣は使いづらいって書いてあったしな。


「じゃあ、これにするよ」


「いいですね!」


 剣は決定したし、後は盾か。

 俺は左腕に装着できる鉄性のバックラーを買うことにする。因みに七万円だった。

 俺の道具を決めた後は、灯里の番だ。


「灯里はやっぱり弓か?」


「はい。後矢を入れる筒ですね。矢は現地で調達できるっぽいので」


 灯里が言ったように、矢はダンジョンで手に入れられる。

 なんでも弓術士は、ダンジョンに落ちている枝などを矢に変換できるらしいのだ。まあそうだよな、剣や盾と違って矢は消耗品だし、使い切ったら一々買いに戻ると思ったら手間でしかない上、お金も相当かかるだろう。そこはダンジョンの温情なのかもしれない。


「私、これにします!」


「おお、何でこれにしたんだ?」


「習ってた時と形や重さが似てるんですよ。多分これなら違和感なく打てると思うんです」


「そっか。値段は……十二万か。高いな……」


「しょうがないですよ。それに、この子なら全然いいと思います」


「分かった。じゃあ買うか」


 買う物を決めた俺達は、レジに並ぶ。自分の番が来ると、店員さんに剣と盾を出した。


「『鋼鉄の剣』と『バックラー』の二点ですね。合わせて十七万円になります。それと冒険者証のご提示をお願い致します」


 そう言われたので、俺は銀行で下ろしてきた諭吉十七枚と冒険者証を渡す。


「ありがとうございました。こちらの装備はギルドでお預かりいたします。ダンジョンに入る際に、装備受け取り場所にて受け取ることが出来ます」


「分かりました、よろしくお願いします」


 装備を買った俺達は、違う店で細々としたものを買っていく。

 探索用の服や靴、リュックや食料、それと使えそうなキャンプ道具など。灯里がお菓子は持っていっていいか聞いてきたので、ほどほどにならいいよとと言っておいた。


 準備も出来た事だし、明日のダンジョンが楽しみになってきた。

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