第10話初戦闘
ステータスを確認し、スキルを取得した俺と灯里はモンスターとの戦闘を求めて草原を歩き回る。五分ほど経つと、念願のモンスターとエンカウントした。
「……」
「スライムですね」
「スライムだな」
俺達が遭遇したモンスターは、ダンジョンで定番のスライムだった。
ドロドロしたゲル状の凶悪な外見ではなく、丸っこい立体型の可愛い感じの見た目だ。目と口はなく、薄水色で半透明。俺達を知覚したのか、身体をプルプルさせている。その動きがまた可愛かった。
だけど、可愛い見た目に侮ってはいけない。
スライムの攻撃方法は、飛びついてきて身体に取り付く。粘着力が強く、顔を覆われた時点でアウト。剥がすことができずそのまま窒息死してしまう。
YouTubeのライブ映像で、初心者がなめてかかり殺された動画を何度も見た。殺された人の中で、「本当に苦しかった、もうあんなのはゴメンだ」とコメントしている人もいる。そのまま冒険者をやめる人もいる少なくないみたいだ。
スライムと戦う時は、離れて戦うのが無難らしい。素手で戦って倒すことも可能だが、一度取り付かれると倒すのは難しくなる。
そんなスライムに有効なのが、【炎魔術1】なのだ。
「俺がやってみていいか?」
「いいですよ」
灯里に確認を取ってから、俺はスライムに向かって右手を向ける。【炎魔術1】を使用して、発動キーとなる呪文を唱えた。
「ファイア!」
声を出した瞬間、手の先から炎が噴く。炎は真っ直ぐ進み、スライムに着弾した。
「■■■!?」
「おお、本当に出た……」
炎に包まれるスライムは、熱さに身を捩っている。俺は魔法のような攻撃をした自分に驚いていた。凄いな……スキルを使うのってこんな感覚なのか。五メートルぐらい離れているのに、熱気も伝わってくる。そのリアルな感覚に、感動を覚えた。
「……」
「一発じゃ倒しきれなかったか」
「あっじゃあ今度私がやってみていいですか?」
まだ生き残っているスライムを見て、灯里が手を上げる。「いいよ」と言うと、灯里は俺がやったように手を向け呪文を唱えた。
「ファイア!」
灯里の手から火が噴き、外れることなくスライムに着弾する。すると、スライムの身体が薄く光り、ポリゴンとなって散っていった。
「おっ、倒したな」
「綺麗ですね」
ダンジョンの中のモンスターが死んだ場合、このようにポリゴンとなって消滅する。肉体が残ったりはしない。こういう所は、なんだかゲームっぽいよな。臭いや手触りの五感はリアルなのに、ステータスやらポリゴンはゲームっぽい。ダンジョンの中はリアルとゲームが混じっている不思議な世界だった。
「YouTubeで見てましたけど、やっぱりゲームみたいですね」
「そうだなぁ、なんだかちぐはぐな感じするよ」
「わかります」
灯里も俺と同じことを思っていたのか、モンスターに初勝利したのにもかかわらず微妙な表情を浮かべていた。その気持ちは痛いほどわかる。
「出口を探しつつ、いけそうだったらバトルしようか」
「了解です!」
ダンジョンの出口は、それぞれの階層に一つずつ存在する。
俺達が今いる一階層のどこかに、東京タワーに繋がる自動ドアがあるのだ。その出口はずっとそこにある訳ではなく、時間が経つとランダムで移動するらしい。
出口があるように、それぞれの階層には次の階層に進むための階段がある。その階段を上ると、新しい階層に辿りつくのだ。出口と同様、階段の場所もランダムで変わってしまう。
俺と灯里は出口を探して草原を歩きまわり、遭遇したスライムを倒していった。
すると、突然頭の中で『レベルアップしました』という言葉が直接聞こえてくる。へぇ、レベルアップするとこんな風に知らせてくのか。なんか気味悪いな。
それは灯里も同じようで、不思議そうな顔でこう言ってくる。
「士郎さん、私今レベルアップしたみたいです」
「俺もだ。一度ステータスを確認してみるか」
「はい」
俺達はステータスオープンと言って、更新されたステータスを確認する。
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許斐 士郎 コノミ シロウ 26歳 男
レベル:2
職業:剣士
SP:25
HP:120/120 MP:50/60
攻撃力:170
耐久力:110
敏 捷:130
知 力:135
精神力:135
幸 運:110
スキル:【体力増加1】【物理耐性1】【炎魔術1】
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おお……少しずつだけど、全ての能力値が上昇しているな。
数値に出ると、自分が成長しているのが実感できて嬉しくなる。
「なにか新しいスキルとか覚えた?」
「なかったです。数値が上がったくらいですね。あっ見てください士郎さん!」
灯里が指した方向に視線を向けると、この草原に場違いな自動ドアを発見した。
あれが元の世界に帰るための出口か。
俺と灯里は自動ドアに歩み寄る。するとドアが勝手に開き、入口と同じように漆黒の空間が広がっていた。
「今日はこのくらいにして、帰ろうか」
「はい。あの、士郎さん……」
「なんだ?」
「手……繋いでいいですか?」
不安そうな表情で手を差し出してくる灯里。俺は微笑みながら、彼女の手を取った。
「実は俺も恐かったんだ。灯里から言ってくれて助かったよ」
「えへへ、そうだったんですね。私のファインプレーですね」
「そうだな」
はにかむ灯里と一緒に、俺は漆黒の空間の中に入っていったのだった。
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