第9話ステータス

 


 ついにダンジョンに訪れた俺と灯里。

 コンクリートの建物や機械がある現代日本から、雄大に広がる草原へと風景が様変わりして、つい夢なんじゃないかと疑ってしまう。

 しかし、頬を叩いても痛いし、さぁぁと吹く風は心地よく、触る土はひんやり冷たい。

 ここは夢でもなく、バーチャルゲームでもなく、本物の現実だった。


「士郎さん……」


「なんだ?」


「なんだか凄すぎて、なんて言えばいいか分からないです」


 美しい世界に目を惹きつけられながら、灯里が告げる。

 その気持ちは凄く理解できる。実際俺も、自分が今、どんな感情を抱いているのか分からない。興奮か、恐怖か、感動か。様々な感情が次から次へと湧き出てきては、心の奥底で、なにかが叫びたがっている気がした。


 ざわつく感情が落ち着くまで、俺達はそのまま美しい世界を眺めていたのだった。



 ◇◆◇



「よし、じゃあ早速“アレ”やりますか」


「はい!やりましょう!」


 落ち着いた俺達は、気を取り直してあることをしようとする。

 それは、初めてダンジョンに訪れた者が必ずやることだった。俺と灯里は息を合わせて、同時に口を開いた。


「「ステータスオープン」」


 言葉を紡ぐと、突然目の前にウィンドウが現れた。


「で、でましたよ士郎さん!」


「そ、そうだな!」


 本当にステータスが出て、二人で興奮する。

 ゲームや異世界でお馴染みのステータスウィンドウ。それが、このダンジョンの中でも存在するのだ。「ステータスオープン」というキーワードを言うと、自分の目の前に現れる不思議なウィンドウ。ネットで得た情報で知ってはいたけど、実際に現れると驚いてしまうな。


「とりあえず、確認しようか」


「はい!」


 いまだに興奮して飛び跳ねる灯里を落ち着かせながら、目の前に浮いているウィンドウを確認する。俺のステータスは、こう書かれていた。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 許斐 士郎 コノミ シロウ 26歳 男 

 レベル:1

 職業:剣士

 SP:50

 HP:100/100 MP:50/50

 攻撃力:150

 耐久力:100

 敏 捷:120

 知 力:130

 精神力:130

 幸 運:100


 スキル:

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 名前と年齢、性別とレベル。

 職業があり、その下にはSP《スキルポイント》とHPとMP、さらに下にはそれぞれのパラメータがある。一番下にはスキル欄があるのだが、一つも取っていないので今は何も書かれていない。稀にユニークスキルを最初から取得している人もいるようだけど、一万人に一人いるかいないかの確率らしい。


 まずレベルについてだが、ダンジョンの世界ではレベルの概念がある。最初は全員1からだ。

 モンスターを倒すと経験値を得られて、レベルが上がればSPが増え、能力値が上がる。レベルが上がれば上がるだけ、本人は強くなっていく。まるっきりゲームと同じ仕様。


 職業は、現段階で俺が最も適性のある職業が選ばれるらしい。剣道とか剣術とか関わったことがない俺が剣士っていうのも不思議だけど、ネットの情報だと大半の初心者は剣士だそうだ。50%の人は剣士から始まるらしい。まあ、初期職業っぽいもんな、剣士って。


 SPは、スキルを取得するためのポイントだ。50とあるが、全ての初心者は50スタートである。これだけは、みんな同じみたいだ。


 HPとMP、それと攻撃力~幸運までの能力値は、その人物の現段階の能力に比例する。

 格闘技とかをしていれば攻撃力が高いし、足が速ければ速度が高いし、頭が良ければ知力が高い。だけど、それほど極端に高くなるわけでもなく、ほんの少し他のより高いぐらいらしい。


 俺のステータスは全体的に、ネットで見た初期ステータスと大体変わらなかった。


 自分のステータスを確認し終えた俺は、側にいる灯里に問いかける。


「灯里はどうだった?」


「ステータスはほとんどネットと変わりませんでした。ただ、職業が弓術士でした」


「へえ、凄いな。なにか弓道的なのやってたのか?」


「はい。武術を色々習ったんですけど、一番筋が良いのは弓道でした」


 そういえば、灯里はダンジョンのために二年間自分を鍛えたって言ってたよな。彼女がどれほど努力をしたのか分からないけど、その結果がステータスに表れて、他人事ながら嬉しく思う。


「じゃあ、早速スキル取っちゃおうか」


「はい!」


 初心者がダンジョンに来て最初にやることは、まず自分のステータスを確認すること。

 何故かといえば、自分の職業を確認しなければならないからだ。

 これはダンジョンに来る前に、何故装備を買わなかったかという理由に繋がるんだけど、自分の職業でない武器や防具を買っても、全く効果が発揮されないからだ。


 俺が剣を買ったとして、もし職業が魔法使いだった場合、剣はまったく使い物にならなくなる。使えないことはないんだけど、職業効果がないから初心者レベルしか扱えない。

 逆に職業が剣士の場合、剣を使えば、初心者でも上手く扱えるそうだ。これは実際にやってみなければわからない感覚なのだろうけど、ネットの情報だとまるで自分が熟練の剣士になったみたいな感覚になるらしい。


 そして次にやる事はスキルを取得することだ。

 はっきり言えば、ダンジョンに来たばかりの初心者はただの凡人。モンスターと戦えば、一瞬で殺されてしまうだろう。

 だけどスキルを取得すれば、初心者でも十分にモンスターと戦うことが出来る。


 ウインドウのSPをタッチすると、画面が切り替わり、取得できるスキルが表示される。



 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 使用可能なSP 50


 取得可能スキル 消費SP

【筋力増加1】 10

【体力増加1】 10

【物理耐性1】 10

【炎魔術1】  10

【剣技1】   10

【気配探知1】 10

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 俺が今取得可能なスキルは大体こんな感じだった。

【筋力増加1】~【炎魔術1】は必ずあるそうだ。それ以外は、自分の職業に合ったスキルや元々ある才能によって出現する。レベルが上がったり職業がランクアップしたり、レアモンスターやボスモンスターを倒すと、スキルも増えたりするようだ。

 消費SPは、そのスキルと取得するために使うポイントだ。


(よし、スキル取得するか)


 早速スキルを取得することにした。

 取得したスキルは【体力増加1】【物理耐性1】【炎魔術1】。使用したSPは30ポイントで、残りは20ポイント。なんでこの三つにしたのかというと、初心者が最初に取るべきおすすめスキルだとネットに書いてあるからだ。


【体力増加1】はモンスターと戦った時や逃げる時、疲れにくくなる。

【物理耐性1】は、これを取っておかないとモンスターに初めて攻撃された時後悔するらしい。

【炎魔術1】は、最初の階層では有用だし、後々でも便利で持っていて損はないからだ。というか、このスキルは取得必須とネットに書いてあった。


「スキル取ったか?」


「はい、【体力増加1】【物理耐性1】【炎魔術1】の三つを無難に取りました」


「だよね、俺もそうだし。じゃあスキルも取ったことだし、バトルでもしますか、灯里さん?」


「やりましょう、士郎さん」


 俺達は互いにニヤリと笑う。

 スキルを取った後なにをするかといえば、モンスターとの初戦闘だった。

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