第8話ダンジョンへ
冒険者登録を終えた俺と灯里。現在の時刻は11時だ。
「登録も無事に終えたことだし、これからどうする?」
「勿論ダンジョンに行きましょう!折角来たんですから、行かなきゃ勿体ないです!」
「そうだな。でも行くのは午後からにしよう。少し施設を回って、昼ご飯を食べてから行こうか」
「了解です!」
予定を立てた俺達は、ギルドの施設を探索した。
武具屋、防具屋、服屋、魔法具店、ファンタジー世界ならではのお店に、俺と灯里は凄く興奮した。剣や盾、光り輝く鎧を目にすると、ここはやっぱりファンタジーの施設なんだと再確認する。物を買うか迷ったけど、一番安い奴でも五万以上するので今はやめておいた。それには理由があるのだが、兎に角一度ダンジョンに行ってから買った方がいい。
正午になると、俺達は施設にある飲食店で昼食を取る。
少し休憩を取ってから、ダンジョンに向かうことにしたのだった。
◇◆◇
エントランスに戻り、スタッフに声をかける。
「ダンジョンに行きたいんですけど、どこに行けばいいでしょうか」
「ダンジョンへ行く方は、ここから正面の通路へ向かってください。すると大きな部屋に出ますので、お近くのスタッフにお声掛けください」
「分かりました、ありがとうございます」
案内通りに正面の通路を歩くと、スタッフが言っていた通り大きな部屋に出た。
そしてそこには、俺達と同じ多くの冒険者が集まっていた。
大剣や盾に魔法の杖。煌びやかな鎧を身に包んでいたり、魔導士のローブを羽織っている人もいる。この空間だけ、現世と離れた別世界のようだった。
「なんか、凄いですね……」
「そうだね……」
見慣れない光景に圧倒されてしまう。
って、いつまでもぼーっと突っ立っている訳にもいかない。俺達もダンジョンに行こう。
そう思い、近くにいるスタッフに声をかけた。
「どうやってダンジョンに入れるんですか?」
「ギルドに預けている装備や道具はございますか?もしあれば、あちらの装備受け取り場所でご自身の装備を受け取ることが出来ます」
「いえ、装備はありません」
「でしたら、あちらの列にお並びください。順番が来たら、係員が誘導致します。もしお連れ様と来ていたら、離れず一緒になってお並びください」
「分かりました、ありがとうございます」
スタッフに言われた通りに列に並ぶ。
私服の俺達と違って、周りにいる人達はごっつい鎧や武器を持っていたり、魔導士や神官の服を纏っている。俺達の場違い感が半端じゃなかった。
なんだか緊張してきたぞ……。
「もしかしてお前等、
「あっはい」
後ろに並んでいた、デカいハンマーを背中に背負った戦士風の中年男性に声をかけられる。
俺達の素人丸出しの格好を見て、新人だと思ったのだろう。彼は「はっはっは」と楽しそうに笑うと、
「いいな。新人を見かけると、自分が初めてダンジョンに入った時のことを思いだすぜ」
「は、はぁ……」
「ダンジョンは最高だ。初めは兎に角楽しめ」
そう言ってサムズアップしてくる男性に、俺と灯里はぺこりと頭を下げる。
そうか……そうだよな。ここにいる皆、今の俺達のように初めは新人だったんだよな。いつか俺も、緊張している新人を見て気安く声をかけられるようになるのだろうか。
「お待たせ致しました。冒険者証の提示をお願い致します。この機械にカードを通してください」
やがて順番が回ってくると、スタッフにカードの提示を求められる。さっき作ったばかりの銅色の冒険者証を機械に通すと、「ありがとうございます」と告げられた。
「では、こちらへどうぞ」
俺達はスタッフに付き従い、狭い通路を歩く。
その先には、東京タワーの正面玄関の自動ドアがあり、ドアの周りには銃を装備した自衛隊が沢山いた。
ドアの前まで辿り着くと、ウイーンと自動ドアが開く。ドアの先は漆黒の空間が広がりっていて、怖気づいてしまった。
この中に、ダンジョンがあるんだよな……。
足が前に進まず立ち止まっていると、不意に右手が繋がれる。柔らかくて、温かくて、小さい手だった。それは灯里の左手で、彼女は恐怖に負けないためか、ぎゅっと握る力を強める。
「灯里……」
「行きましょう、士郎さん」
「……ああ」
俺と灯里は手を繋ぎながら、漆黒の門へと一緒に足を踏み出した。
◇◆◇
漆黒の門に入り、一瞬だけ意識が飛んだ後。
瞼を開けると、目の前には広大な草原が広がっていた。
「ここが、ダンジョンの中……」
どこまでも続く青い空。ぷかぷかと浮かぶ白い雲。燦々と降り注ぐ陽光。ところどころにポツンと木が立っていて。優しい風が雑草を揺らす。空気が澄んでいて、土と草の匂いが鼻をくすぐった。
東京タワーの中にいたとは思えない、広大な自然の世界。
「俺達……ダンジョンに来たんだな」
「そう……ですね」
美しい世界を目にして口から零れると、隣にいる灯里がぽつりと呟く。
ダンジョンに入る前と同じように、俺達は手を握っていた。
俺達はついに、ダンジョンの世界にやってきたのだった。
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