第7話冒険者登録

 



 翌日の日曜日。

 朝早く準備をして、俺達は東京都港区へと向かった。電車を乗り継ぎして、都営大江戸線の赤羽橋駅に降りる。そこから七分も歩けば、東京タワーに到着だ。


「見た目は三年前と変わらないんだよね」


「そうですね」


 聳え立つ真っ赤な塔。

 三年前にダンジョンへ変貌したが、外見だけはそのままだ。変わったのは、正面玄関の入り口だけだ。一度足を踏み入れば、そこはモンスターが蔓延る幻想世界に繋がる。信じられないかもしれないが、本当の話なんだ。日本人の中でも、そんなの嘘だろうと思っている人達は少なくない。

 見た目は全く変わっていないのだから、疑うのも無理はなかった。


 東京タワーは変わらなくても、周辺の風景はだいぶ様変わりした。

 まず目につくのは、東京タワーの手前にある巨大施設。政府のダンジョン省が建てた冒険者施設――通称“ギルド”だ。

 ここにはダンジョンに必要なことが全て揃っている。冒険者を登録するのも、装備や道具を買うのも、ダンジョンで手に入れたドロップ品を換金したりもできる。


 そして一番重要なのが、ギルドは東京タワーの入り口に繋がっていて、ギルドを通さなければダンジョンに入る事は出来ない。

 それはそうだ。野ざらしにしておけば、誰でも好き勝手出入りできるようになってしまうのだから。入り口を管理するのは、至極当然のことだった。


 その周りにも、タワーマンションや商業施設が増えた。

 日本中どころか外国人まで、ダンジョンに入るためにここへ人が集まってくる。その人達の住まいや生活を支えるために、急遽作られた。聞いた話ではかなり儲かっているらしく、イベントなどもしょっちゅう行なっているらしい。人の商売魂って凄いわ。


 だからか、結構人がごった返してる。日本人八割、外国人二割といったところか。

 因みに、武器や防具は装備しておらず、みんな私服だ。まあ街中でそんな物騒なのを装備していたら銃刀法違反で捕まるのだから当然といえば当然なんだけど。じゃあ装備はどうしているのかと聞けば、全てギルドに預けておくそうだ。ダンジョンに入る時にだけ装備し、出る際には装備を外さなければならない。

 もしそのまま出ようものなら、銃を持った恐い自衛隊が追っかけてくる。取り押さえられ、最悪発砲されてしまうだろう。


「行こうか」


「はい」


 周りの人達と同じように、俺達はギルドへ向かった。



 ◇◆◇



「広いな……」


「凄いですね」


 ギルドに入った俺と灯里は、施設の広さに驚愕した。

 どこまで繋がっているのか分からないほど、先が見えない。だからか、人が沢山いても窮屈には感じなかった。


「東京ダンジョンタワーにようこそ。今日はどんな御用でしょうか」


 呆然としていると、スタッフと思しき職服姿の女性が声をかけてくる。


「えっと、冒険者登録をしに来たんですけど……」


「冒険者登録は十番窓口で行なっています。ここから向こうに歩きますと、十番窓口がございますので、そちらに向かってください。何かお困りごとがございましたら、近くのスタッフにお声掛けください」


「分かりました、ありがとうございます」


 女性スタッフにジェスチャーで案内され、俺と灯里はそちらへ向かう。

 なんだか市役所や病院での手続きや、警察所での免許更新を思い出すな……。

 十番窓口に着いた俺達は、窓口にいる係員に声をかける。


「冒険者登録はここの窓口と聞いたのですが、大丈夫でしょうか?」


「はい、冒険者登録はこの十番窓口で行なっております。お手元にある液晶にタッチしていただくと番号札が出ますので、そちらをお持ちください。番号が呼ばれるまで、近くの椅子におかけしてお待ちください。アナウンス、または上にある画面でお呼び致します」


「分かりました」


 言われた通りに画面をタッチをして番号札を取ると、俺と灯里は近くの椅子に座る。


「なんだかおっきな病院みたいですね」


「そうだな」


 どうやら灯里も、俺と同じことを思っていたらしい。

 ギルドって聞くと、どうしてもアニメやラノベに出てくる施設を想像してしまう。古臭い建物に、室内は酒臭く野次が飛び交っていて、荒くれ者達が騒いでいるイメージだ。だけど蓋を開けてみたら、市役所や警察所といった公的施設となんら変わらない。


 まあ、ここはファンタジー世界ではなく2025年の日本なのだから、当たり前といえば当たり前なんだけども。ほんの少しワクワクしていただけに、肩透かし感が拭えなかった。


「432番、433番の番号札の方どうぞ」


「俺達だ、行こう」


「はい」


 十分ほど待って呼ばれた俺達は窓口で番号札を渡す。


「冒険者登録には履歴書と身分証明書が必要ですが、本日はお持ちでしょうか?」


「はい」


 俺はリュックから履歴書と運転免許証を取り出す。灯里は履歴書と学生証を取り出し、スタッフに渡した。これはあらかじめ知っていた情報で、俺達は昨日の時点で準備をしていた。履歴書を書くのは大学時の就活以来で、懐かしさを感じたもんだ。


「ご確認致しますので少々お待ちください」


 三分ほど待つと、スタッフはありがとうございましたと履歴書と身分証明書を返してくる。恐らくコピーを取っていたのだろう。


「これから三十分間ほど面接を致しますが、お時間はよろしいでしょうか?」


「「はい」」


「では、番号札を持ってあちらの面接室に向かってください。順番がきたらお呼び致します」


 番号札を返してもらい、俺達は面接室へ向かった。

 面接をする内容も大体把握している。

 なんで冒険者になろうと思ったのか。ギルドやダンジョン内でのルール確認。冒険者に登録するにあたっての契約書のサイン。ネットで得た情報はざっくりとこんな感じだろう。それほど難しく考える必要もなく、あっという間に終わってしまうらしい。


「432番の方どうぞ」


「はい」


 面接室には男性のスタッフが一人。軽く挨拶をして椅子に座ると、面接が始まった。

 冒険者になろうとした理由は、自分がダンジョン被害者で、妹を探すためだと正直に伝えた。するとスタッフはお悔やみ申し上げますみたいなことを言ってきて、凄く真摯な態度だった。

 その後はギルドやダンジョンでのルールを告げられ、もし破ってしまうと冒険者を剥奪、又は罰則や逮捕まであることを知り、くれぐれも気をつけてほしいと言われる。いくつかの書類に契約のサインを書くと、面接は終わった。


「では、よい冒険を」


「ありがとうございました」


 面接室を出ると、丁度灯里も終わったのか、他の場所から出てくる。


「どうだった?」


「緊張しましたけど、意外と早く終わりました」


「そうだよね」


 まあほとんどネットで得た情報と同じだったしな。

 俺達は十番窓口に行って面接が終わると、スタッフに銅色のカードを渡される。


「こちらが許斐様と星野様の冒険者証カードとなります。紛失したり破損すると再発行には手数料とお時間を頂きますので、気をつけてください」


「分かりました」


「これで冒険者登録は終了となります。では、よい冒険を」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る