終章3:いざ決戦!言ったモン勝ちの大勝負

 zzz……もう食えないよお……ハッ?!

 えーと、今どうなってんの?

「地の文さん!!そういうベタなのはいいから!!とっとと情景描写して!!」

「とことん使えぬ奴である。余が現状を説明してやるゆえ、後に続くがよいわ!

【電光の如き姫の剣閃、だが魔王はことごとくそれを受けては弾き返す。泰然自若、余裕の笑みを浮かべて立ちはだかる魔王。姫の額に光る焦燥の冷たい汗】、ハイここで地の文キュー!」

 !ま、まままま、魔王の鉄壁の防御術に姫の手が止まるぅ!

「どうした?手も足も出ぬか姫よ?」

「ちょちょちよ、なんなの魔王、貴女のその技!」

「知らぬか?昭和の昔より全ビキニアーマー女戦士に受け継がれし奥義。敵のあらゆる攻撃を両乳で弾く、これそ人呼んで『ブレストガード』!!」

 ……え?

「だから地の文が登場キャラの発言にビックリしないで!」

「正確には、下段の攻撃に対しては尻で受けるから『ヒップガード』でもあるがな」

「細かすぎる解説ありがとう魔王!」

「そもそも余の【魔王のランジェリー上下セット】の防御力はだな、そうだな、一般的な鋼の鎧を防御力100として」

「100として?」

「およそ100,000,000,000!」

 えー!!

「だからびっくりするのはわたし!もうあなた引っ込んでて!

 ちょっと魔王!そんなのアリ??」

「この下着の圧倒的防御力と変幻自在の体術、そして前方に大きく張り出したこのやや上向きのロケットパイをもって、敵の攻撃を弾き無効化する!これぞ余の鉄壁の防御の極意。忘れたか?この世界は『言ったモン勝ち』であるぞ?」

「じゃあその……わたしのこの剣ももっとパワーアップできるとか?」

「残念ながらカンストである。だがよく考えよ。見ての通り、余は下着以外ほぼ裸体ではないか。乳と尻以外を攻撃すればよい、単純な話だぞ?」

「あ、それは一応ご自分でもわかってるんですね?あんまり自信満々だから気付いてないのかと」

「こらこら、あの地の文なら兎も角、余はそれほどの間抜けではない。

 言ったモン勝ち……つまらぬルールではないか。余が仮に『全身タイツの女王』だったらどうする?『宇宙服の女王』だったら?」

 あの魔王のダイナマイトバディで全タイならそれはそれなりにウケそうだが、流石に宇宙服はマニアック過ぎないだろうか?

「地の文……コイツ、本気で使えねぇ……そーいう話じゃねーわよ!!」

「簡単に無敵になれるであろうな。だがそんな力で得た勝利に、玉座に!何の誇るべき意味が、価値があろうぞ?

 強大な力と引き換えに、致命的弱点を宿命として背負い、尚且つ勝利し君臨する。

 これぞ余を魔の王たらしめる戦いの美学なり!」

(敵ながら、ちょっとカッコいいじゃない……)

 単純な姫は感心しているが、この魔王、昭和ノリのくせに中二病とは見事なこじらせぶりである。

「地の文で台無し!」

「姫よ聞け。この戦いに必要なもの、それはイマジネーション!」

(え?魔王ってば今のやりとり聞こえてなかったとか?これは確かに……こじらせさんかも……)

「言ったモン勝ち、すなわち、相手の想像を超えた大言壮語・妄言綺語を繰り出した方が勝つ!

 どうだ?余が先に繰り出した『ブレストガード』。これを姫、お主渾身の大嘘とハッタリで打ちのめしてみせい!

 ……言ったはずだ。必要なのは『必殺技』!それは自分で考えよ、とな!!」

「やっ、それは……」

 正直きつい。こんな妄想で凝り固まった中二魔王と、よりによって妄想力で戦えとは。だが他に活路はないらしい。姫は無い知恵を総動員し始めた。

「えと……スーパー速い横切り!」

「甘い!片手を高く挙げ体を膝から沈めて脇で受ける!」

「ミラクル流星袈裟懸け!」

「肩紐で際どく受ける!」

「超光速ツバメ返し逆袈裟懸け!」

「尻で余裕!」

「ホーリー全集中直突き!」

「乳で挟んで白刃どり、からの投げ飛ばし!」

「だつ……大上段ギャラクシー唐竹割!」

「素速いブリッジで股布ガードだっ!!」

 ついに。心折れた姫は床に両膝をついた。

(ダメ……勝てない……魔王は昭和ノリで中二病なのに、その上羞恥心もまるでないなんて……いくらなんでも濃過ぎる……)

 魔王はブリッジから跳ね起きると、むしろ心配そうな顔でしゃがみ込んだ姫を見下ろした。そして、

「タイム!審判、タイムだ!!」

 果たして、タイムとは誰に求めているのか?審判?聞いてないけどオレのことなのか?地の文は当惑を隠しきれない。

「……姫よ、どうしたのだ、くじけるなどお主らしくないではないか?その涙はなんだ?涙で地球が救えるのか?」

「うぇっ……うぇっ…… だって、だって!」

「美しい涙、可憐な泣き顔であるな。朝露の重さに頭を垂れた一輪のスミレと言ったところか……だが姫よ!草叢に名も知れず咲く花など、お主の定めではなかろう?

 否!気高く咲く薔薇こそお主の宿命の姿!」

 どうやら今度はヅカである。この魔王、芸の引き出しの底が知れない。歌い出したりしないかと、地の文は気が気では無かった。

「姫。お主はこの魔王から世界を救う英雄なのだ。英雄の心得とは?それすなわち!

 友情・努力・勝利!!

 忘れたか?お主には頼もしい仲間がいたはずではなかったか?お主の愛馬!

 余はお主の馬を見たことがない。このイマジネーションが支配する戦いにおいて、余の意表を突き度肝を抜くなら、余の知らぬお主の馬の力を借りるに限る!」

「そっか……思い出したよ……わたし、一人じゃなかった!!

 ありがとう魔王!わたしやってみる!!」

 謎展開に開いた口が塞がらない地の文。

「よぅし……おいで、【ノストラ】!!」

 姫がそう叫ぶやいなや、城内を包む霧の彼方から凄まじい地響きと共に「何か」が迫り来る。余裕綽々だった魔王の眉間に初めて浮かぶ動揺の色、

「この揺れ、これは……まさか馬ではないのか!」

 現れた巨大な獣が大きくいなないた。

「Pa☆オ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!」

「これは……!タイム、タイムタイム!!」

 またかよ。

「姫、これは象、しかもこの長い毛、これはまさか?」

「マンモスで〜す。はぐれマンモスのノストラちゃん。霧の中で迷っていたのを拾ったんです。どうやらこのコも思いつきで産まれたみたいで。占いが得意なんですよ!

 ……ノストラ、今日のわたしのラッキーカラーは?」

「パオ!」

「青だそうです!」

 本当に言葉が通じているのだろうか。

「ノストラ、マンモス、占い……なるほど、思いつきキャラであるな。それにしても大きな獣だ。この足といい牙といい鼻といい、実に逞しい。これなら群がるモンスターも簡単に蹴散らせよう。姫、お主に相応しい騎獣であるな!」

「でしょ?そして!魔王、あなたを倒すための必殺技、わたしとこのコのコンビ攻撃、思いつきましたよ!!

『聖剣ぺぺロンよ、汝に命ずる!今こそ我が従者の拳となりて魔を打ち砕け!

 豪獣彗星鉄槌・アンゴルモア☆ハンマー』!!」

「何と……マンモスが鼻で振るう大槌だと!!」

「あなたの下着が守ってないところを狙う、そんなちまちましたことしてても、体術ではあなたにはとても敵わない。弾かれるか、かわされるだけ。

 だつたらどうです、これなら!魔王、あなたの下着がどんなに頑丈だって!丸ごとペチャンコよ!!」

 魔王の顔に浮かぶのは、歓喜。

「ククク……フハハハハ!それだ!!

 姫よ、その大胆!その豪毅!それこそ余がお主に求めていたものだ!!

 ……面白い、しからば余も!!

 とくと見よ!『牛身大変化』!!」

 叫ぶやいなや。魔王の身体は黒い焔に包まれながら、大きく膨れ上がっていく。やがて焔の中から現れたのは、牛頭人身の怪魔。身の丈はゆうに人間の3倍はある。

「ミノタウロス……それが魔王、あなたの正体なの?」

「いや。あくまで変化の姿の一つである。似せてはいるが、無論あのような下等なモンスターとは強さは桁違いであるぞ。

 余は魔王とは言うが武闘派でな。魔法なら火炎・電撃・氷結といった基本はもちろん、呪縛や石化やそれこそ即死に至るまで一通り心得てはおるが……そんな手品を使うのは心が躍らぬのだ。

 やはり戦いは!剣と剣、あるいは拳と拳、組んず解れつ!力と力で敵と語り合うのが醍醐味というものよ。

 姫よ、真っ向勝負だ!お主と従者の槌が勝つか、余の拳が勝つか……

 この一撃にて雌雄を決せん!!」

「よおし!いくよノストラ!くらえ魔王!

 アンゴルモア☆ハンマー・ギガスゥイーーーーーーング!!」

「パオォォォォォォォォォォォォォン!!」

「ぬおォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 巨獣の大槌と、魔王の豪拳。ぶつかり合うその衝撃は魔王城全体を鳴動させ床が抜けたよオレも落ちるぅぅぅぅぅぅぅ〜……(続)

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