第51話 一方の想いだけじゃ


 無人の街はいつもと勝手が違う。

 同時に、今のわたしの姿を誰にも見られないのは助かった。


(あっち……かな?)


 わたしは周囲を見回す。あまり遠くではないはずだ。

 人の気配がない――という事は、なにかしらの【術】が発動しているのだろう。


 そう考えるべきだ。


(【結界】のようなモノかな?)


 ――だったら、範囲が限られているよね。


 多分、駅を中心に【結界】が張られている可能性が高い。

 そして、知能が高い相手であれば――【結界】を破壊しよう――と考えるはずだ。


 特にレージという【怪異】はわたし達の嫌がる事をして、困惑するさまを見るのが好きそうだった。


(あまり、友達にはなりたくないタイプだよね)


 しかし幸運な事に、既に興味はショーコからわたしに移っていた。【怪異】達の様子からも、彼らにとって、ショーコは必要のない存在なのだろう。


 彼女が狙われない事に、一先ひとま安堵あんどする。


 ――きっと、リムの事だ。


(【結界】の外に逃がすか、安全な場所に連れて行ってくれているよね)


 だとすると、わたしが探さなければいけいのはサヤちゃんだ。

 彼女の事だ。きっと、一人で戦っているに決まっている。


 ――いや、シキ君も一緒のはずだ!


 ヒナタちゃんの【月】の【術】を見る限り、あの外套マントにシキ君が憑依ひょういしていたのだろう。


 状況証拠から――駅での襲撃しゅうげきは、あの巨大な毛むくじゃらの【怪異】が上から降ってきたモノだと考えられる。


(それをシキ君が助けてくれたんだよね)


 ただ、あの時のレージ自身も実力を隠しているふしがあった。

 それでも、あの二人が一緒なら負ける事はないはずだ。


 ――でも、今はそれが不味まずい。


 レージが――ではない。

 あの帽子の少女が――だ。


 彼女は紅間達を食べる事で、能力を取り込んでいる。


(わたし達をおそわなかった理由……)


 ――それはきっと、レージを食べる事……それを優先したからだよね?


 【怪異】達の関係は――お互いを利用している――といったところだろう。

 【怪異】を食べる【怪異】の事だ。


 先にわたし達をおそった場合、弱ったところを――今度はレージにおそわれて、自分が殺される――と考えたのかも知れない。


 ――だから、レージを食べる事を優先した。


 また、あの帽子の少女にとっても、時間を止める能力は厄介やっかいなのだろう。

 最初から食べる順番を決めていて、実行に移したのだ。


(そんな事を考えて、一緒に行動していたのかな?)


 ――ううっ、なんだか寒気がするよ!


 色々な事を考えている内に、広い通りへと出る。

 ここを真っぐに進めば、駅に辿たどり着くはずだ。


 でも――


(ここからは慎重に行こう……)


 帽子の少女からしてみれば、わたしもえさでしかない。

 弱すぎて、相手にされていないだけだ。


 <ラビットジャンプ>で手近なビルの屋上へと跳躍ちょうやくする事も考えた。

 でも、彼女に見付かると厄介やっかいな事になりそうだ。


 帽子の少女の【怪異】はレージを狙っている。

 隠れて機会をうかがっている――と考えよう。


 きっと、今のわたし同様――高いところから様子を確認しよう――と考えるはずだ。


(やっぱり、ビルの屋上は危険だよね!)


 わたしは周囲を警戒けいかいして、上から見付からないように建物の影に入る。


(なるべく、死角になっている場所を通って移動しないと……)


 上にばかり、気を配っていたのがいけなかったのだろう。

 ポンッ――と肩をたたかれる。


「ひゃうっ!」


 思わず声を上げ、逃げるように距離を取る。

 振り返ったわたしが見たモノは、


なによ、変な声を出して……」


 リムだった。相変わらず、綺麗だけど目付きがキツイ。

 良かった――とわたしは息をく。


「もうっ、おどろかせないでよ」


 笑顔で手をヒラヒラとさせるわたしに対して、


「いや、おどろいたのはこっちだから……」


 でも、良かった――リムは溜息をいた。そして、


「大丈夫そうだけど……その恰好――なに?」


 そんな質問をする。


(そりゃそうか……)


「アハハッ……服をおとりに使ったから、ボロボロになっちゃった」


 身体のラインは出るし、胸は揺れるし、下はスースーするしで、大変だよ――わたしは笑って誤魔化ごまかす。


「チッ」


(ん? 今、舌打ちしなかった?)


「気の所為せいよ……それより、ユズが無事って事は――」


「うん、皆、大丈夫だよ」


 わたしは後ろに手を回し、少し前屈みで微笑む。


「ちょっと、なんで胸を強調するポーズを取るの?」


 リムの台詞セリフに、わたしは身体を左右に振ってから、


なんの事? 良く分からないよ」


 ととぼけて見せた。


わざとやっているでしょ」


 アハハッ――バレてしまった。


「まぁ、こんな状況だから許してあげるけど……後で覚えてなさい」


(それは……許してくれてないのでは?)


「それと、貴女あなたの友達は無事よ」


「ショーコの事だね。良かった! やっぱり、リムは優しいね!」


 大好き♥――そう言って、わたしが見詰めると、リムはあからさまに視線をらした。そして、


「【結界】の外にユズの友達が居て……声を掛けられたわ――あたしは彼女達にあのを頼んだだけよ」


 そして――人と人とのつながり――リムはそんな事をつぶやいた後、


「それがユズの能力なのね」


 と納得する。しかし、


「違うよ、リム」


 わたしは直ぐに否定した。そして、彼女の手を取ると、


「誰もが、持っている能力なんだよ」


 リムにだって、サヤちゃんにだってある能力だ。

 そうじゃなければ――


「一方の想いだけじゃ、人はつながれないんだよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る