第42話 笑顔になって欲しいです……
「待って! サヤちゃん!」
わたしはその光景を見て、
そこには――刀を抜いた彼女が立っていた。
その場で
(良かった……まだ生きている!)
はて……どうして、そう思ったのだろうか?
同時に、わたしの記憶がフラッシュバックする。
(やっぱり、【黒魔術】を使った
紅い空――
割れた窓ガラスの破片が散乱している。
だが、それよりも
手に持ったその刃で、兄の身体を
刃の先へと血が伝わり――ヒタヒタ――と床へ落ちて行く。
わたしは理解出来ずに口を押えると、その場を
しかし、
そのまま、
恐らく、気絶させられたのだろう。
(全部……思い出したよ)
わたしはショーコを
もう、あの時とは違う――今は恐怖よりも、怒りが
沸々と湧いてくるのだ。どうしようもない程に……。
「へぇ、そういう顔も出来るのね」
とサヤちゃん。彼女の表情は相変わらず、変化に
(サヤちゃんは、それじゃ
「わ、わたしが相手よ!」
そう言って彼女を
「ふふっ、私に
甘いわね――刃の先をわたしの顔へと向ける。
「
冷たい言葉だ。
「そんな事、言っちゃダメだよ!」
憎いけど、許せないけど――悲しくなる。
わたしはサヤちゃんの事が好きなのだ。
「価値があるとか、ないとか――違うんだよ!」
わたしの兄が殺された理由――それはわたしが【怪異】だからだ。
人間じゃないからだ。
幼少期からの数年間……その事に気付かず、人間として暮らしてきた。
「助けたい、仲良くしたい、抱き締めたい――それじゃダメなの?」
わたしは
サヤちゃん達の見解では――自我のない低級な【怪異】――というモノだった。
仮説として、一匹のウサギが居たとする。
たまたま少女が飼っていたウサギが死んだ。
低級の【怪異】だったわたしは、それに取り
その時はまだ自我は無い。少女が願った事が引き金になる。
【怪異】は人の願いを
どんな人間だろうと、生きている以上はその世界の一部なのだ。
まだ世界を知らない小さな少女の願いが、その【怪異】に
少女の気が変われば終わる。大人が捨てろと言えば終わる。
それでも、世界は少しだけ
「わたしはサヤちゃんを許さない! 絶対に許さない!」
それは、わたしが【怪異】だからじゃない。
(お兄ちゃんの事が、大好きだったからだよ!)
勝手に人のプリンは食べるし、わたしの事を天使だと言って友達に自慢する。
朝は
正直、
「でもね、今は皆が家族だよ……お願い、サヤちゃん。わたしの家族になってよ!」
絶対に、ショーコは傷付けさせない。
友達も家族も、今のわたしには両方必要だから――
「ユズ……私には、
だから、
死んだウサギは生き返った。でもそれは【怪異】が取り
しかし、少女には関係がなかったのだろう。
一緒に居てくれたのは、そのウサギだけだった。
やがて年月が経ち、兄が迎えに来る。
でも、遅かった。少女は死に、冷たくなっていた。
周りは事故だと言っていた。
だが、誰かが少女を気に掛けてくれていれば、防げた事故だ。
絶望する兄――その兄である青年に【怪異】であるウサギは提案する。
「家族に……なってよ」
わたしの言葉は、サヤちゃんには届かない。
だから――
「リム! お願い、サヤちゃんを助けて!」
サヤちゃんの
彼女に助けを求める。
「リムの言葉なら……きっと、サヤちゃんに届くから!」
――サヤちゃんは大嘘つきだ。
(シキ君だけが居ればいい?)
――そんな
「これ以上、サヤちゃんに――わたしの家族に、人を殺させないで!」
(そんな人間をリムやレン兄、トーヤやヒナタちゃんが好きになる
今思えば、シキ君は知っていたのだろう。
わたしの【怪異】としての本質を――
「姫様!」
とリム。いつの間にか、ヒナタちゃんもわたしにしがみ付いていた。
それでも微動だにしないサヤちゃんに彼女は言う。
「ユズはバカです――」
(酷い!)
「言う事は聞かないし、余計な事ばかりするし、食い意地も張ってます」
(リム……それ、今必要?)
「良いところなんて、一つもありません!」
「ちょっと、リム! 言い過ぎだよ!」
(一つくらいはある
わたしが抗議すると――黙ってなさい!――と
そして、リムは続ける。
「でも、皆が笑顔になるんです――アタシは姫様にも笑顔になって欲しいです……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます