第41話 オレには筋肉がある


「そっか、リムのために……」


 つぶやいたわたしの言葉に、


「そんなんじゃねぇよ」


 とレン兄。でも、リムは気にしていた。

 【火】の属性――その一つしか持っていない事を。


 レン兄が複数の属性を使えると知ったらどうなるのだろうか?

 落ち込んでしまうかも知れない。


(うんん、リムの事だから……強がるのよね!)


 【神子みこ】は契約した【守人もりと】の能力を使用する事が出来る。

 通常は複数の属性を持つ【守人】と契約するモノだ。


(普通の【神子】だったら、一人の【守人】としか契約出来ないんだろうけど――)


 サヤちゃんは【神子】としての能力が高い。

 そのため、複数の【守人】との契約が可能だ。


(リムは内心――自分は相応ふさわしくない――と思っているのかも知れない)


「おい、いつまでそこに居るつもりだ?」


 とレン兄――しっしっ――と追い払うように手を振る。

 確かに、ここに居ては戦いの邪魔だ。


 しかし、彼は不利な【土】の属性だけで戦うと言っていた。


「でも、レン兄……」


 つい心配してしまうわたしに、


「オレには筋肉がある」


 と力瘤ちからこぶを作って見せてくれた。

 冗談なのか、本気で言っているのかは分からない。


 でも、信じる事にした。今のわたしには、それしか出来ない。


「頑張ってね……レン兄!」


 わたしはそう言うと、


「行こっ!」


 とヒナタちゃんの手を取って走り出す。

 トーヤ少年は――レンに手を貸すべきか――と逡巡しゅんじゅんしたようだが、


「まったく、どいつもこいつも……」


 言う事を聞きやしない――とぼやく声が聞こえる。

 どうやら、わたし達の後を追う事にしたようだ。



 ▼▲▼  ▼▲▼



 待ち合わせは駅前――正確には駅前の広場の噴水だ。

 だが、もう少しというところで、


「あら、夕月ゆづきさん――久しぶりね」


 と声を掛けられた。女の子の声だ。

 何処どこか聞き覚えのある耳障みみざわりな声――当然、わたしは無視する。


「ちょっ、ちょっと……何処どこへ行くのよ!」


 無視しないで!――と怒鳴られたので、わたしは渋々立ち止まる。


(こんな事、している場合じゃないんだけどな……)


「えっと、急いでるんだけど……誰?」


 そこには、美人だが性格の悪そうな女の子が一人立っていた。

 いや、そのかたわらに青年も控えている。


何故なぜに執事服?)


 ――大好物じゃないか!


(いえ、違うわね……)


 青年は線が細くて、女の子みたいに綺麗な顔をしている。

 結構、好みのタイプだった。


(二人とも、年齢はわたしと同じくらいよね……)


 だが、記憶にない――学校で会って居たのなら、流石さすがに覚えている。


「あら、忘れたの? 紅間あかまよ――『紅間あかま林檎りんご』」


(知らないなぁ?)


「知り合いか?」


 とは追い着いたトーヤ少年。少し息が上がっている。

 少女と青年を警戒しつつ、わたし達の前に立つ。


「うんん、知らない人」


 首を左右に振り、わたしが答えると、


「ちょっと、アレだけ嫌がらせをしたのに――」


 もしかして、ホントに覚えてないの?――紅間という少女は間抜けな顔をする。

 そんな中――クイクイ――とヒナタちゃんがわたしの袖を引っ張ったので屈むと、


「お姉ちゃん、記憶喪失だから……」


 耳打ちでこっそり教えてくれる。


(なるほど、記憶喪失になる前に会っていたから忘れているだけか……)


 ――って、つまり!


貴女あなた、前の世界に居たの⁉」


「その様子じゃあ、本当に記憶を失っているようね」


 クックックッ――と彼女が微笑む。

 典型的な悪役の笑い方だ。


「まぁ、それならそれでいいわ――さぁ、ルカきゅん!」


 夕月さんを始末して――その言葉と同時に、隣に居た青年は動く。

 右腕を振り上げ、チョップを繰り出す。


 ストン――


「ふぎゃっ!」


 と紅間。予想外の一撃に――いったぁ~い――と頭を押さえる。


「アタシじゃなくて、夕月のバカを――」


 ベシッ、ベシッ、ベシッ――青年のチョップが何度も命中する。


「あ、ちょ、止めて! 痛い、痛い~」


(何がしたいのかしら?)


 わたしはトーヤ少年と目を合わせたのだが、彼にも分からないようだ。

 さぁ――と肩をすくめた。


 ――ハッ、そうだった!


「こんな事に時間を使っている場合じゃない」


(嫌な予感がする)


 ――早く、ショーコのところに行かないと!


「ゴメン! トーヤ、後は任せた!」


 わたしはヒナタちゃんと回れ右をする。


「待て! そっちには行くな!」


 とトーヤ少年。やはり、何か知っているようだ。

 サヤちゃんが――優子ゆずを近づけさせないで――とでも命令したのだろう。


「ちょ、待ちなさいよ~!」


 間抜けな少女の声がする。

 だが同時に――ピキピキッ――と氷の張る音が響く。


 わたしは一度だけ、振り返って確認した。


何故なぜ、ボクがこんな間抜けな奴の相手をしなくていけないのか」


 とトーヤ少年。それに対し、


「誰が間抜けよ! 痛い! ちょ、止めて、ルカきゅん」


 紅間という少女は仲間と思しき青年に、まだ攻撃されている。

 どうやら、余程嫌われているようだ。


(うん、大丈夫そうね)


 どういう訳か、青年の事はすごく気になる。

 だが、わたしは先を急ぐ事にした。


(何だろう? この気持ち……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る