第30話 友達になれて良かった♥


「ふぅー、危なくデザートが食べられないところだったよ」


 空になった重箱を洗いながら、わたしはつぶやいた。


(豪華に見えたけど、量はそうでもなかったな)


 どうやら、シキ君は女子のお弁当という事で、種類を豊富にしてくれたようだ。

 当然、その方が見た目も華やかになる。


 仕切りを作り、複数の色鮮いろあざやかな器に別々の料理が盛り付けられていた。


(作るの大変だったろうな……)


 やはり、思い付きで言うモノではない――これでは洗うのも一苦労だ。

 わたしは反省の意も込めて、学校で洗い物を済ませる事にした。


(丁度、お湯も出るしね)


 スポンジは熱湯をかけて消毒する。

 先生の趣味なのか、可愛らしい形のモノがそろっていた。


 サヤちゃんとリムには、お茶を飲んで休んでいてもらう。

 ショーコちゃんは――自分のお弁当箱も洗う――という事で手伝ってくれている。


「ありがとう」


 わたしの言葉に、


「だ、大丈夫……」


 とだけ、彼女は答える。

 れないようにお互い腕捲うでまくりをしたが、それにしても細い腕だ。


(全身も――ガリガリ――といった印象)


 ――ちゃんと食べているのかな?


 わたしは余計な心配をする。


「そうだ! 今度の休みは映画にでも行かない?」


「ふぇっ⁉」


 ショーコちゃんは変な声を上げる。

 まぁ、奇声きせいを上げるなんてオタクには良くある事だ。


(気にしちゃダメだよね☆)


 この【偽りの世界】におけるトレンドを把握はあくしておく必要もある。

 今期のアニメは何が流行はやっているのだろうか?


 探偵? スケート? 水泳?――お約束のアイドルかな?

 安定の少年漫画も押さえておかなければ……。


「いやぁ、ショーコちゃんと友達になれて良かった♥」


 同人誌を作成する上で……正直、リムでは戦力にならない。

 ヒナタちゃんはまだ幼い。


 サヤちゃんはリアル厨二病だから、ひょっとすると仲間になってくれそうだ。

 しかし――


(物理的に攻撃してくるからなぁ……)


「とも……だち?」


 ショーコちゃんはつぶやく。

 そだよ――とわたし。


「趣味が同じで、一緒にお昼を食べて、一緒に出掛けるのは友達だよ」


「ワ、ワタシで……いいの?」


 とショーコちゃん。


(可笑しな事を言うモノだ?)


「ショーコちゃんだから、いいんだよ!」


 わたしは笑った。


「お兄ちゃんも言ってたよ――友達なんて、どうせ『迷惑』を押し付け合うような関係だ――って……」


 それでも、一緒に居ると楽しいらしい。

 同人ゲームの納期前はピリピリして、仲間内でよくケンカをしているようだった。


「迷惑?」


 ショーコちゃんが不思議そうに首をかしげる。


「そっ――今、洗い物……押し付けてるでしょ」


「……」


 わたしの言葉に彼女は沈黙する――でも、


「アハハッ」「フフフッ」


 わたし達はどちらからともなく笑った。

 そして、


「お兄さんが居るの?」


 ショーコちゃんにそう聞かれて、わたしは初めて理解した。


(そうか、覚えてないんだった)


 それなのに、今は断片的な記憶が残っている。今までは夢と同じで――それが誰だったのか――直ぐに分からなくなっていたのに……。


(もしかして、【黒魔術】を使ったからかな?)


「そ、今は遠くに居るの――でも、他にも家族が居るから大丈夫☆」


 わたしは明るく答える。


「夕月さんは強いね」


 とショーコちゃん――彼女なりに、何かを感じ取ったのだろうか?

 わたしは、


「だーかーらー、『ユズっち』って呼んで!」


 演技で少し怒ったように言う。すると、


「うん、分かったよ――ユズっち」


 彼女が呼んでくれた。

 それでつい、わたしは嬉しくなって抱き着いたのだけれど、


「ちょっ、ユズっち……れてる! 手、れてるから!」


 早速『迷惑』をかけてしまったようだ。


「ゴ、ゴメンね!」


 わたしは素早く手を離し、慌てて謝る。

 まったく、もう――とショーコちゃん。


 しかし同時に、彼女は今までで一番自然な感じで笑った。

 その笑顔に、


(もしかして、美人さん?)


 わたしは気付いてしまう。

 今は肌も荒れていて、髪も長過ぎる――オマケにガリガリだ。


 ――でも、綺麗になるかも知れない。


 この分なら、もう一押しすれば、一緒に映画に行ってくれるだろう。

 その際は、お洒落しゃれをレクチャーしよう。


(今度の休日が楽しみね☆)


「ショーコちゃん――うんん、ショーコは兄弟が居るの?」


 わたしの問いに、彼女は首を横にった。

 その代わり、


「兄……みたいな人が居るの」


 と教えてくれる――『時任ときとう零士れいじ』――というらしい。


「へぇー……あっ! もしかして、今、グラウンドに居るの?」


 わたしはガラス越しに、それらしい男子生徒を探してみる。

 しかし――


「生徒会だから……多分、居ないよ」


 ショーコは答える。


 ――なるほど。


(つまり、オタク少女であるショーコにも優しくて、生徒会に居るという事は人気もあり、勉強も出来る……更に昼休みにグラウンドに居ても可笑しくない人物……という事は、運動も苦手ではない!)


 ――そんなスペックの高い人間、本当に居るの⁉


(いいえ、家にもシキ君が居る! 【吸血鬼】だけど……)


 ――まだ、負けた訳じゃないんだから!


(いやいや、わたしは何と張り合っているんだろ?)


 きっと、顔はシキ君の方がカッコイイに決まっている。

 料理だって出来るし、【魔法】だって使える。


「今度、ユズっちにも紹介するね」


 そう言って無邪気に笑うショーコに、わたしは罪悪感を覚えた。

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