第31話 わたしは小さいんだよ!


 放課後――


「レン兄っ!」


 校門の前で待っていてくれた彼に、わたしは抱き着く。


 ――ガバッ!


「おうっ⁉ いきなりどうした?」


 おどろきながらも、難なくわたしを受け止めてくれる。

 きたえている人――といった感じだ。


 服の上からでも分かる。筋肉質でがっしりした体躯たいく

 当然のように、わたしの頭をでてくれた。


「わたしは小さいんだよ!」


 しがみついたまま、彼を見上げてなげくわたしに、


「いや、十分大きい――じゃなかった……当たってる」


 そう言って、レン兄は何故なぜか顔を赤くし、ずかしそうな表情を浮かべた。

 両手をわたしの肩に置くと、身体をゆっくりと引き離す。


 ――距離を空けられた。


(馴れ馴れしくし過ぎたかな?)


 それでも――あのね、あのね!――とわたし。


「サヤちゃんとリムは、何故なぜにらんでくるの!」


 必死にうったえる。そんなわたしに対し、


「まぁ、そうだろうな……」


 レン兄は言葉をにごした。

 どうやら、彼には原因が分かっているらしい。


(それなら、はっきりと教えて欲しいんだけど?)


 ――いや、それよりも……。


「えっとね、二人には怒られたから、聞いてもらえなかったんだけど……」


 レン兄なら聞いてくれるよね?――わたしは瞳を見開いてうったえる。


「分かった、分かったよ……聞くから」


 取りえず、落ち着け――となだめられる。

 わたしは一度、深呼吸をしてから、レン兄を手招てまねきすると、


「あのね……友達の彼氏に対して――わたしの方が勝ってる――と思ってしまったの……」


 彼の耳元でそうささやいた。

 それから顔を離し、


「わたしは人間として、小さな存在だよ!」


 となげいた――そっちかよ!――とレン兄。


(はて? 他にどんな意味があるのだろう?)

 

 彼は――好みなんて人それぞれだろ――とつぶやき、続けて、


「だったら、実際にオレの方がソイツより、カッコ良くなればいいだけの話だしな!」


 と胸を張った。


(よく分からないけど、頼もしい!)


「そうだね!」


 わたしは同調して、親指を立てる。

 そして――


「でも、レン兄は元々カッコイイよ?」


 首をかしげた。


「そ、そうか?」


 照れるレン兄。


 ――何だか、話がみ合っていない気がするけど。


(一旦、話を戻そう)


「それよりも、その彼は優しくて、頭も良くて、人気者で運動も出来るみたい!」


「なかなか手強いな……」


 ――そうなの!


「でも、シキ君だって負けてないよね!」


 わたしは鼻息を荒くしつつ、レン兄に確認した。

 シキ君と仲の良い彼なら、わたしの気持ちを分かってくれるはずだ。


「ああ……そういう話か」


 何故なぜかレン兄は――ガクリ――と項垂うなだれてしまった。


 ――どうしたのだろう?


「だ、大丈夫?」


 わたしはレン兄の顔をのぞき込む。


「何でもない……」


 そんなわたしの質問に、彼は素っ気なく答えた。

 理由は分からないが、元気がない。


 そこへ――


「ご苦労様――蓮」


 とはサヤちゃん。すっ飛んできたわたしとは違い、ゆっくりと歩いてきたようだ。

 その後ろには、お弁当の包みを持ったリムが一定の距離でついてきている。


「いえ、お嬢の方こそ――残念ながら、こちらは発見出来ませんでした」


 気を取り直したのか、レン兄が真面目に答える。


「――でしょうね」


 とサヤちゃん。彼がどう答えるのか、既に分かっていたようだ。

 いつもの澄まし顔で、


「こちらは……優子が当たりを引いてくれたわ」


 と答える。


(当たり? わたしはクジなど引いていないけど……)


 意味が分からず、首をかしげるわたしを余所よそに、


「なら、後は片割れを探すだけだな……」


 と二人で会話を進める。

 しかし、彼はリムの持つお弁当の包みに気が付いたようだ。


「何だ……リム――持ってやろうか?」


 そう言って、レン兄はお弁当の包みに手を伸ばす。

 しかし、その瞬間――キッ――とリムは彼をにらみ、


「結構よ!」


 と返す。

 まるで、えさを食べている最中の猫に手を近づけて、威嚇いかくされているようだ。


(笑ってはいけない)


 理由が分からず――何だよ――と不服そうな顔をするレン兄に、


「シキ君に自分で渡すんだって……」


 と一言える。それだけで――ああ――と彼は納得してくれた。

 どうやら、リムには『お兄様』成分が足りないようだ。


 たとえ事務的で些細ささいな会話であっても、シキ君と話す切欠きっかけが欲しいらしい。


「別に、普通に話せば良くねぇか?」


 わたしにささやくように質問するレン兄。その言葉に、


「それを難しくしているのが、乙女心なのよ」


 と教えて上げた。彼は――分からん――と首をかしげる。

 実際のところ、わたしもよく分からない。


 そこへ――


「すまない」


 わたし達にそう声を掛けてきた生徒が居た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る