第25話 いいコンビなのに。


 わたしが涙を流す中、


「分かったわ……ユズ」


「分かってくれたんだね……リム」


 静かに答えてくれた彼女に対し、理解者を得た嬉しさで、わたしは立ち上がる。

 しかし――


「あたしをバカにしているでしょ!」


 リムは言い放った。


 ――とんでもない!


「違うよ!」


(こんな時、どうすれば……)


 ――そうだ!


「じゃあ、一話からアニメを観よう!」


 わたしの提案に、


「嫌よ……そんなアニメ、観たくないわ!」


 リムは即答する。


 ――ぐぬぬっ!


一信者いちしんじゃとして布教したい反面、いちオタクとして無理強いはしたくない……)


「いったい、どうすれば!」


 苦悩するわたしに、


「いいから、任務に集中しなさい……もしかしたら、向こうから接触して来るかも知れないでしょ」


 最もな事を言うリム。サヤちゃんからも、【怪異】の方から接触して来る可能性がある事を示唆しさされていた。


 正論ではある。しかし――


「もうっ、わたしと仕事……どっちが大切なの?」


「お兄様よ」


 ――ですよね~。


 わたしは――お花をみに――とその場を離れた。

 お手洗いもコラボ仕様になっている可能性がある。


(見ておこう……)


「待ちなさい」


「何?」


 リムに呼ばれて振り返ると、缶バッチを投げて渡される。


「あげるわ――あたしには不要なモノだから……」


 どうやら、完全に脈がないようだ。


(リムをオタク女子にするのは無理そう……違った)


 ――仕方ないよね。


(この世界を【怪異】から解放したら、この缶バッチも消えてなくなる訳だし――)


「それにしても――」


(わたしって、変なところで引きが強いみたい……)


 モエルゼ様の缶バッチを取り出す。


 ――いいコンビなのに。


 そんな事を考えて歩いていたからだろうか?


「きゃっ!」「いたっ」


 一人の少女とぶつかってしまった。



 ▼▲▼  ▼▲▼



「それは災難だったわね」


 とリム――拠点となる家の用意が終わった――と連絡があったそうだ。

 そこへ二人で向かう途中、わたしはお店でぶつかった女の子の事を話していた。


(キチンと説明しておかないと――トイレの長い奴だ――と思われてしまう)


 彼女の名前は『灰原はいばら硝子しょうこ』ちゃん。

 同い年で、つやのある黒くて長い髪が印象的なだ。


 綺麗きれいだったけれど……その所為せいか、暗い印象を受ける。

 悪い子ではない――と思ったが、オドオドした自信のない態度だった。


(きっと、相手によっては不快に受け取られてしまうかも知れない……)


 わたしは謝ると、お詫びに缶バッチを渡した。


(同じ学校の制服だったし、きっとまた会えるよね?)


「大丈夫、怪我けがは無かったし……友達になったよ」


 そんなわたしの報告に――ユズは直ぐに誰とでも仲良く――とつぶやいた後、


「違うわよ……ユズ、太ったでしょ――ぶつかった相手が災難だった――って意味よ」


 ――ひどい!


弁解べんかいしなくては……)


「リム、聞いて……わたしは悪くないの!」


 シキ君の料理が美味しいからなんだよ!――とうったえる。すると、


「お兄様の料理が美味しい事に関しては同意するけど……」


(やはり、シキ君の名前は効果があるようね)


 しかし――


「ユズの場合、デザートをお代わりするからでしょ!」


 とリムに困った子を見るような目を向けられてしまった。

 思い起こせば、確かに――


(シキ君はいつも、わたしのためにデザートを多めに用意してくれていた)


「しまった……罠か!」


「自業自得っていうのよ!」


 驚愕きょうがくするわたしに対し、リムの突っ込みが入る。


「くっ、何で止めてくれなかったの!」


 わたしは――キッ――とリムをにらんだ。

 八つ当たりである。それに対し、彼女は、


「ちゃんと止めたでしょ……それなのにユズ、貴女あなたは――栄養は全部、胸に行くから大丈夫だよ――って言ったのよ」


 うふふ――と笑顔で返す。


 ――あっ、目が笑っていない。


「す、すいませんでした!」


 わたしは即座そくざに謝る。


(折角、気が合いそうなオタク友達を見付けたと思ったのに……)


 ――ダイエットが必要になるとは……。


(ダメだ……話題を変えよう)


「ところで、何処どこに向かっているの?」


 何も考えずに、リムの後をついて来たのだが、駅から離れ、住宅街の方に来てしまっていた。


「お兄様から連絡があって、和風家屋がこの辺にあるそうよ」


 アレかしら?――とリム。

 わたしにはどれも同じような造りの家に見える。


(一応、【怪異】と接触するかも知れないから、色々と散策さんさくしていたはずだけど……)


 ――もう、いいのかな?


流石さすがに、この恰好で歩いていたら補導されるでしょ?」


 ――なるほど!


 女子高生がいつまでも、駅前や繁華街をウロチョロする訳にはいかない。


「姫様の方でも――この世界で活動しやすいように――と色々と介入してくれたみたいよ」


 感謝なさい――とリム。続けて、


「普段は、お兄様と二人で済ませてしまうのだから……」


 拠点を用意して、学校に通う手続きまでするなんて――と教えてくれる。


(どうやら、珍しい事のようだ……しかし――)


 ――そんな事まで出来るとは……。


流石さすがはサヤちゃんだ――後でハグしてあげよう!)


「さ、着いたわ」


 そう言って、リムは立派な門の前で立ち止まる。


「へ?」


 思わず、間抜けな声を上げてしまうわたし。


(ずっと、壁伝いに歩いていると思ったら――)


 門の奥には、この周辺でも一際ひときわ大きな日本家屋が存在していた。


「今日からしばらくの間、ここがあたし達の家よ」


 ――これって……家じゃなくて、旅館なんじゃないの⁉


 わたしは――ポカン――と開いた口がふさがらなかった。

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