第三章 女子高生の日常

第24話 そういうモノなの?


「これが【偽りの世界】……」


 わたしがサヤちゃん達の元に来て、約二週間が経った頃――彼女の任務に同行する事となった。


 そこには何ら変わらない、わたしの知っている世界が広がっていた。

 アスファルトの道路とビル群、行き交う人々――ただ、見上げると、


「空が青い――」


 わたしの言葉に、


「まだ、侵食しんしょくが進んでいないようね」


 そう言って、リムはたたずんでいるわたしのとなりに並んだ。


(でも、サヤちゃんの話だと――【怪異】の強い反応があったって……)


 ――まぁ、いっか。


 ここは大都会――とは言えないが、地方都市くらいのにぎわいはある。

 駅周辺だが、落ち着いた雰囲気と区画整理された街並みは好感が持てた。


「で……何で制服姿なの?」


 わたしもリムも学生の姿をしている。


「この世界がそう選んだのよ」


 ウサギじゃなくて良かったわね――とリムは嫌味を言った後、


「さ、ここに居ると邪魔じゃまだから、移動するわよ」


 そう言って、わたしの手を引っ張った。


 ――まったく、何で素直に出来ないんだろ?


(確かに、道の真ん中に突っ立っていたら邪魔じゃまだよね)


「えへへ♥」


 と笑うわたしに対し――何よ、気持ち悪い――とリム。


「だって、リムから手をつないでくれて――しかも、一緒の制服で歩くって……」


 ――それって、すごすっごーく……素敵な事だ!


 わたしの気持ちが伝わったのか、


「バ、バカじゃないの⁉」


 リムが急ぎ足になる。


 ――可愛い♥


「待ってよ、リム!」「うるさい!」


 幾人いくにんかは注目していたようだけど、直ぐに視線が外れる。

 ここでは学生同士がさわぐ事など、日常なのだろう。



 ▼▲▼  ▼▲▼



「で……何でこのお店なのよ?」


 とリム――可笑しな事をいうモノだ。


(最初に説明したはずだけど……仕方がないなぁ)


 ――もう一度、説明してあげるね。


「違う世界に来たのだから、この世界のオタク文化を堪能たんのうするべきでしょ!」


 ――やれやれ、これだから素人は困る。


「折角コラボ企画をやっているのだから、何処どこにでもあるハンバーガーショップよりも、こういったカフェに入るべきよ!」


 知っている有名作品とのコラボだが、【偽りの世界】というだけあって、わたしの知っている知識と違いがあるようだ。


 ――これは是非ぜひ、確認しなければならない!


「ユズ――貴女あなたって子は……」


 リムが――あきれた――とわんばかりの視線を向けてくる。


 ――だけど、わたしは気にしない!


ちなみに――今、コラボしている作品が『しメンアイドルのライブツアー中に事故にって乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど、ドルオタ知識使って自分好みアイドルグループを結成します!~ついでに私達ファンを影でキモ豚呼ばわりしていた元アイドル転生者の王子も国ごとざまぁしておきました~』よ」


「長い! それ、本当に人気あるの?」


 リムがうたがいの眼差まなざしを向けてくる。


「何も知らないのね……リムは――いいWEB小説で短いタイトルなんて、悲しい事にスルーされてしまうのよ! タイトルを読んだだけで、何の話か分かるようにしないといけないの……最低でも『乙女ゲーム』、『悪役令嬢』、『ざまぁ』の単語は必要よ」


「そういうモノなの?」


「そういうモノなの!」


「確かに、ユズが面白いって言っていたから少し調べてはみたけど、結構な作品数があったわね……あたしには違いが分からなかったのだけれど、どう違うの?」


「素人目には分からないでしょうけど、お約束が一緒で、中身は全然違うわ――ゴメンね、上手く説明出来ない」


(わたしとした事が、素人相手につい熱く語ってしまうとは――)


「ねぇ、あたしをだましてない?」


だましてないよ! ホント、説明がむずかしいの!」


(この辺の説明ってむずかしいよね。趣味が合わないとケンカになっちゃう)


 ――クールダウンしないと!


 セットのドリンクに口を付けると、程よい甘さが口の中に広がった。

 一方で、リムは特典の缶バッチを手に取り、いぶかしげに見詰める。


 そして、


「本当に人気あるの?」


 と口走る。


愚問ぐもんだよ――リム」


 わたしのオタク魂に火が点いてしまった。


「そのキャラはザマーサレル王国の筆頭騎士『氷結ひょうけつのイケテル』様よ。高貴な血筋のため、最初はヒロインの集めた男性キャラ達とはりが合わないのだけれど、互いに力を合わせ、困難を乗り越える中、男同士の熱い友情に目覚めて行くのよ。アニメ1クールの第十話『絶対零度?氷上のスケート対決!これがオレ達の極光オーロラジャンプだ‼』は必見なんだから! 序盤じょばん最大の敵でもある帝国の第三皇子『イズール』とヒロインを賭けて絶対零度の中、スケート対決をする事になったイケテル様。でも、それこそがイズールの罠だったのよ……最初は好調だったイケテル様だけれど、次第に寒さの中、身体の自由をうばわれていくの。一方、帝国はウォッカとマヨネーズを多量に摂取せっしゅする事で寒さ対策もバッチリ。イケテル様があきらめかけたその時、今までライバルとして互いにいがみ合っていた傭兵上がりの騎士『灼熱しゃくねつのモエルゼ』様の登場。パンイチパンツ一丁になり、バーニング腹筋、フレイム腕立て伏せ、ブレイズ背筋、ファイアスクワットで会場を温めるのよ! 更に役立たずと言われ続けていた王国の第七王子『ショタノ』君が王国の騎士団を引き連れて登場! 皆でパンイチパンツ一丁になって、モエルゼ様と一緒に会場を男の汗と熱気で包み、その熱によってイケテル様復活! 煌めく光飛び散る男の汗の中、七色の光をまとい、自らもパンイチパンツ一丁になって勝利を収めるの……最後は皆でパンツを放り投げ、全裸ジャンプ!」


 ――かはっ!


 話すと同時に、あの時の感動が再びよみがえり、肺の空気が抜ける。


(強烈なボディブローを受けた時のような衝撃ね)


 ――受けた事ないけど……。


「ううっ……思い出したら、感動で涙が出て来たわ」


 ハンカチで涙をぬぐいつつ、


「最終決戦に向けて、皆の心が一つになった瞬間ね!」


 ――ああ、男同士の友情ってとうといモノね……。

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