第26話 今からでも痩せるべきね


「無事だったみたいね……」


 とサヤちゃん。玄関の戸を開けると鉢合はちあわせした。

 わたし達と同じ制服を着ている。


(どう見ても中学生にしか見えないけど……)


 高校生というには、少し無理がある。

 でも、それに対し――誰も違和感を抱く事はないのだろう。


 ――そんな風に、この世界を【操作】したはずだ。


(きっと、わたし達以外は疑問すら持たないんだろうな……)


 それは少しさびしい気もする。


 ――いや、【怪異】とその関係者は別かな?


 サヤちゃんの様子から、帰りの遅いわたし達を心配してくれていた事が分かる。

 でも――


「もうっ、そこは『お帰りなさい』だよ!」


 わたしが指摘してきすると、サヤちゃんは一瞬顔をしかめた。

 だが、直ぐにあきらめたように溜息ためいきくと、


「お帰りなさい」


 素直にわたしの言う事を聞いてくれる。


「ただいま戻りました」


 ペコリとお辞儀じぎするリムとは違い、


「ただいまー」


 と元気に返すわたし。サヤちゃんは苦笑すると、


「その様子だと、何も無かったようね――安心した」


 いや、ユズはもう少し歩いて来た方がいいのか――そんな意地悪を言う。


(反論したいところだけど……)


 ――でも、背に腹は代えられないよね。


「ダイエットに協力してください」


 わたしは頭を下げた。


「そういう素直なところ、私は好きよ」


 とサヤちゃん。どうやら、協力してくれるようだ。


 ――ありがとう。


(こういうのは、家族の協力が必要だからね!)


「でも、せる時って胸からせるからなぁ」


 急には変わらないんだよね――そんなわたしの言葉に、


是非ぜひ、今からでもせるべきね――璃夢!」


「はい、姫様!――ユズ、早速運動よ!」


 サヤちゃんとリムの目付きが急に変わる。


「ひ~っ! 何で二人とも、わたしよりヤル気なの?」



 ▼▲▼  ▼▲▼



 取りえず――今日は結構歩いたからいいよね――という事で許してもらった。

 それよりも、食事のメニューである。


 シキ君に考えてもらうのも悪いので、夕飯については、今日からわたしが作る事にした。冷蔵庫の中身を確認して、献立こんだてを考える。


(朝とお昼の分の食材は確保するとして――)


 わたしは買い物に行く事にした。


(でも、人数が多いから量が必要だよね……)


 ――よし、荷物持ちに誰かついて来てもらおう。


せるにしても、まずは筋肉をつけなくちゃね!)


 お風呂の前に軽く筋トレをするとして、走るのは明日の朝からだ。

 シキ君に相談すると――一人で出歩くのは危険です――と言われた。


 サヤちゃんにお願いすると、しばらくはレン君がわたしのボディガードになってくれるそうだ。


 理由としては――レン君とリムは、直ぐにケンカをするから――かも知れない。


(お目付け役として、押し付けられた気もするけど……)


 ――まぁ、いいか。


「よろしくね、レン君!」


「おう!」


 という訳で、早速着替えて買い物だ。


「お待たせ、レン君!」


 わたしは玄関で待っていてくれたレン君と合流した。

 玄関から屋敷の門まで、地味に距離がある。


 更に壁伝かべづたいに歩く必要もあるため、広い家も考え物だ。


(自転車でも用意してもらおうかな……)


 歩きながらの雑談でレン君から――サヤちゃんが屋敷の周りに結界を張ってくれている――という事を教えてもらった。


 そのおかげで【怪異】は近づけないらしい。


手慣てなれているのね……仕事が早い!)


「ねぇ、レン君……何か食べたい物はある?」


「そうだな――久し振りに鍋がいいかな」


 確かに、シキ君は作らない。

 そもそも――西洋風のあのお城で鍋を囲む――というのも可笑しな話だ。


(サヤちゃんは食事に関しては、あまりこだわらないしなぁ……)


 ――ユズの食い意地が張っているだけよ!


(リムだったら、そう言うのかな?)


「うん、分かった!」


 どんな鍋にするかは、食材を見てから決めるね!――と返事をする。

 皆の好き嫌いも大体把握はあくした。


(それにしても、何だかなつかしい感じがする)


 いつも、誰かがわたしのとなりに居て、一緒に歩いてくれていたような――そんな感じだ。


 ――ううっ……思い出せそうで、思い出せない。


(もしかして、彼氏とか?)


 ――いやいや、ないない。


 わたしは即座に否定する。同時にむなしくなる。


(それにしても、レン君は背が高いな)


 わたしは前を歩く、彼の後ろ姿を見詰めた。

 そんなわたしの視線に気が付いたのか、


「ん、どうした?」


 とレン君――そう言えば、以前サヤちゃんから聞いた。

 わたしには、お兄ちゃんが居たそうだ。


(だとすれば、レン君に似ていたのかな?)


 ――いや、それは無いよね。


(わたしの性格を考えるに、兄もオタクのはずだ)


 レン君は明らかに、体育会系りである。


「うんん、何でもない」


 わたしはそう言って、彼の横に並ぶと、


「ねぇ、レンにいって呼んでもいい?」


 無邪気にいてみた。

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