第22話 よし、大体分かったわ!


「お姉ちゃん……凄い!」


 とヒナタちゃんが感心する。彼女の性格から察するに、いつも二人のケンカを見ていて、止められない自分がいやだったのだろう。


「そんな事ないわ」


 後でヒナタちゃんにもコツを教えて上げるね――と耳打ちすると、


「うん!」


 そう返事をして、わたしに抱き着いて来た。

 当然、わたしは彼女の頭をでる。


「ユズは――何でいつもそうなのよ……」


 リムは不満があるのか、そんな事をつぶやいた。


 ――はて、何がだろう?


 わたしは気にせず、


「じゃ、リム先生! 今度はフザケないのでお願いします!」「します!」


 ヒナタちゃんもわたしの真似まねをする。

 リムは――本当に?――と疑いの眼差まなざしを向けてきたので、話をらす意味でも、


「あ、レン君もよろしくね!」


 そう言って、わたしは彼の手を取った。

 レン君もジャージ姿である。ジャージ仲間だ。


「あ、ああ……」


 とレン君――わたしに嫌われている――とでも思っていたのだろうか?

 馴れ馴れしいわたしの態度に戸惑っているようだ。


 わたしとしては、過ぎてしまった事は仕方がないので、気にしないように努める他ない。


 推測するに――彼の性格から、リムの事が心配で様子を見に来たのだろう。


 ――そして、つい焦れったくなり、口を出してしまいケンカ。


 (というのがパターンなのかな?)


 リムはリムで、大好きな『お兄様』であるシキ君に認めて貰いたいと頑張がんばっている。


 ――それに対し、面倒見が良くて、頼りにされた兄貴肌のレン君。


 (といった構図ね)


「よし、大体分かったわ!」


 そんなわたしの台詞に、


『まだ何も教えて――』「ないわよ!」「ねーぞ!」


 二人の声がハモる。



 ▼▲▼  ▼▲▼



 大人しく体育座りをする、わたしとヒナタちゃん。

 何処どこから取り出したのか、伊達メガネを掛けたリムが、


「『五行思想』は分かるかしら?」


 といてくる。少しは反省したのだろうか?

 アプローチを変えて来た。


 ――結構、ノリノリのようね。


 わたしは手を上げて、リムの質問に答える。


「ハイ! リムの【火】やレン君の【土】――それに【木】、【金】、【水】の五種類の元素が互いに影響を与えるっていう考え方だよね」


 ――『占い』とかでよくあるヤツだ。


 リムはうなずくと、


「あたし達の使う【術】は、更に――【風】、【雷】、【月】――を加えた八種類の属性からなるの」


 ――つまり、『風華院家』を宗家として存在する八家と一緒だ。


 一方でレン君が、


「後、【術】は複合させる場合や【陰】と【陽】の考え方もあるが――今回は気にしなくていいぞ!」


 と補足した事に対し、リムが不満そうに彼をにらんだ。

 気不味くなる前に――


「ハイハイ!」


 とわたしは手を上げる。

 リムは少し面倒そうに『指し棒』をわたしに向けた。


 ――そんなモノまで……いつの間に用意したのだろう?


(本当に『リム先生』って呼んだ方がいいのかな?)


「はい、ユズ」


「えっと……リムは【火】の属性を使っているけど、他にも使えるの?」


「……」


 早速、彼女は言葉にまってしまったようだ。


(何か不味い事でも言ったのかな?)


 わたしは首をかしげる。


「――ないわよ」


 とリム。良く聞こえなかったので、


「え? 聞こえないよ!」


 わたしは声を大きくして返す。すると、


「……つ、使えないって言ったのよ!」


 リムが怒ったように言う。早速、失敗してしまった。


(でも、この様子だと……複数の属性を使える【術者】も居るようね)


 彼女の機嫌をそこねてしまったようなので、


「レン君は何が使えるの?」


 わたしはレン君に質問した。


「オレも【土】の属性一つだけだ……というか、普通は一つだ」


 リムも気にする必要はないぞ――と彼はわたしの質問に答えるのと同時に、リムのフォローもする。


(まぁ、リムの場合、【術】の制御の方が問題よね)


うるさいわね! でも、姫様やお兄様は――」


「あの二人と比べるなよ――二人は特別だ」


 そんなレン君の言葉に、


「それでも、あたしは――」


 リムは何かを言い掛けるが、続かないようだ。


 ――でも、わたしには分かる。


(二人の力になりたいんだね)


 だから、わたしが掛ける言葉は、


「わたしから見れば、二人ともすごいよ!」


 そう言って立ち上がる。そして、


「ヒナタちゃんもそう思うよね?」


 わたしの問いに、


「うん」


 ヒナタちゃんは素直にうなずく。


「じゃあ……そんなすごい二人に教えてもらえるのなら、わたし達もすごくなれるね!」


 わたしの言葉で、ヒナタちゃんが二人に尊敬そんけい眼差まなざしを向けた。


「ま、まぁね……」


 とリム。


「当たり前だろ」


 とレン君。


 ――二人ともチョロいな。


(まぁ、子供の純粋な眼差まなざしの前では、大抵の場合、こうなってしまうモノよね)


 わたしはうなずきつつも――何となく、二人のあつかい方が分かった気がした。

 同時に気になった事があったので、かがむと、ヒナタちゃんに耳打ちする。


「ところで、ヒナタちゃんは何が使えるの?」


「あのね――」


 ヒナタちゃんはコッソリと教えてくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る