第21話 お姉ちゃん、凄い!


「【術】に関してはまだ、あたしも上手く制御出来ていないけど……」


 ――うん、知っている。


 リムの言葉にわたしとヒナタちゃんは黙って頷く。

 コホンッ――とリムはわざとらしくせきをした後、


「でも、基礎なら教えられるわ!」


 その表情は何処どこか得意気だ。


「姫様からも頼まれている事だし――上手くいけば、お兄様にめてもらえ……いいえ、邪念は禁物よね」


(まったくもって同意ね――リムの場合は暴走し兼ねないし……)


「今日はあたしが貴女あなた達の先生よ……そもそも、【術】というのは――」


 リムが何やら小難しい説明を始める。最初の内は目をキラキラと輝かせていたヒナタちゃんの瞳から、次第にその光がうしなわれてゆく。


 ――どうやら、リムは秀才タイプのようね。


 勉強をすればするだけ、身に付くと思っているようだ。わたしとしては、既に許容量を超えているで、右耳から入って来た情報が左耳から出て行ってしまっている。


 簡単に言うと、【魔法】を使用するには【マナ】と【オド】が必要である。

 【術】でいうなら【霊力】と【巫力】となる。


 事前にシキ君から聞いていた話だと、【マナ】や【霊力】は目に見ない力で、【オド】や【巫力】は人間の持つイメージの力らしい。


 つまり、イメージの力で不思議な現象を引き起こすのが【魔法】となる。


 ――【巫力】はゲームでいうところのMPだ。


(問題はその方法だよね)


 【術】の場合は、【巫力】を使い【術式】を介して、【霊力】を【術】に変換するというモノだ。


 【術者】は、その【術式】を既に確立している人達の事である。


 ――【術式】はゲームでいうところのスキルだ。


(なので――【術式】がなければ、【術】は使えない――という事ね)


 シキ君の場合は、このプロセスが必要ないので、区別する意味でも【魔法】と言っているのだろう。


 そもそも、シキ君は【人間】ではなく【吸血鬼】だ。


(存在自体が【魔法】みたいなモノだもんね)


 一方、サヤちゃんを始め、リムやレン君は【術者】を取りまとめる八家の一つ『月神家』から、【神子みこ】や【守人もりと】としての訓練を受けている。


(もしかしなくても、【術】を使うのに資質みたいなモノが必要なのかも……)


 だとすると、少し残念だ。


(折角――【魔法】が使えるかも!――という事でテンションも上がっていたのに……)


 更に今なら、ジャージ姿で気合も十分。


 リムの難しい説明にすっかり退屈になったので、わたしはヒナタちゃんの頬を指でつつき――見て見て――と反復横跳びを行う。


「どう? ヒナタちゃん――【分身の術】!」


「お姉ちゃん、凄い! 『おっぱい』が揺れてる!」


 ――え? そこなの⁉


(まぁ、いっか……)


 喜んでいるヒナタちゃんに、すっかり気を良くしてしまった。

 その所為せいか、無言で近づいて来たリムに気付くのが遅れる。


 ――パシンッ!


 と『おっぱい』を叩かれた。


いった~い! ちょっと、何するの⁉」


 ――パシンッ!


 更に反対方向からも、もう一発――二度も打った!


「叩きたくなるような『おっぱい』をしている貴女あなたが悪いのよ!」


ひどいっ!」


 取りえず、これ以上叩かれたくはないので両手でガードすると、


「もうっ、普通の『おっぱい』だもん!」


 わたしは涙目で反論する。だが、


「普通の『おっぱい』は――そんなに揺れない……」


 ――あ、ダメだ。


(リムの目が本気マジだ)


「す、すみません……」


 わたしは謝った。ヒナタちゃんもおびえている。


(もうっ、そんなんじゃ――リムお姉ちゃん――って呼んでもらえないぞ!)


 とフザケたい気持ちをわたしは我慢する。

 そこへ丁度――


「おーい、何やってるんだ?」


 と空気の読めないレン君がやって来た。

 ほぼ同時に、ハラハラといくつもの赤い花弁はなびらが中を舞う。


(いったい、何処どこから?)


「咲きなさい――<焔舞ほむらまい>」


 リムが呑気にやって来たレン君へ向けて腕を伸ばし、言葉をつむぐと――赤い花弁はなびらがレン君の周りで一斉にぜた。


 ――ボンッ! ボンッ! ボンッ!


(八つ当たりかしら?)


 ――レン君、ゴメンなさい。


(わたしの『おっぱい』のために……)


 貴方あなたの犠牲は無駄にはしない――そう思っていると、


「たくっ――いい加減にして欲しいぜ」


 爆炎の中から声がする。


(あら、大丈夫だったみたい)


 何故なぜ、オレばかり攻撃する?――とレン君。


(タイミングが悪いからだよ)


 とわたしは心の中でつぶやいた。やがて、煙の中からレン君が姿を現す。

 パラパラと砂のようなモノが舞って、レン君の肌からがれ落ちる。


 ――なるほど、どうやらレン君は【土】属性のようだ。


 (きっと、【土】の【術】で全身をおおってガードしたのね)


 一方で――フンッ――とそっぽを向くリム。仕方がないので、


「ゴメンね、レン君……わたしの所為せいなの」


 と二人の間に入って、謝っておく。レン君には先日――ウサギに変身したわたしの身体を撫で回した――という経緯がある。


 知らなかったとはいえ、女性の身体を触った事に対する罪の意識があるのだろう。

 素直に引いてくれた。その様子に、


「お姉ちゃん……凄い!」


 とヒナタちゃんが感心する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る