第14話 普通の女の子だよ


 ――ふぁ~、眠い。


「ありがと――」


 とリムちゃん。

 わたしに対して、背を向けているため、その表情は分からない。


「りょ、料理を教えてくれて……」


「うん、シキ君も食べてくれたね」


 【吸血鬼】を名乗った彼。


(本当は――食べる――という行為そのモノが必要ないのだろう)


 その事については、わたしよりもリムちゃんの方が詳しいはずだ。


「……貴女あなたは怖くないの?」


 リムちゃんの問いに、


「何が?」


 わたしは聞き返す。

 一人の寂しさも、部屋が暗い事も嫌だったから、わたしはここに居る。


「あたしが――よ! 燃やされるかも知れないのに……」


 多分、リムちゃんが能力を上手く使えないのは、心の未熟さなのだと――わたしは考える。


 料理を一緒に作っていて、分かった事だ。


 どうやら――不安とか寂しいとか――そういう気持ちが、彼女の意思とは関係なく、能力を暴走させている。


「大丈夫だよ――リムちゃんもわたしも、普通の女の子だよ」


 その後、リムちゃんが何と言ったのかは覚えていない。

 わたしは既に、眠りについていた。



 ▼▲▼  ▼▲▼



 翌日――


 本来なら、今日から【術】というモノを教えて貰う予定だったのだが、


「やったぁ! 買い物だぁ!」


 テンションが上がり、思わず飛び上がる。

 ここは城の地下にある怪しげな部屋だ。


 部屋の中央にある台座は、如何いかにも――何かの儀式を行いますよ――といった造りだ。


(RPGならイベント発生だね!)


「ちょっと、喜び過ぎよ」


 落ち着きなさい――とリムに注意される。

 今日の彼女は制服姿だ。恐らく、向こうの世界の制服だろう。


「そういうリムも、ワクワクしてるじゃん! イエーイ!」


 無理矢理、両手にタッチする。


「もうっ、ノリが悪いなぁ――そんなんじゃ、友達出来ないぞ」


 わたしはリムの前で、人差し指を立てて振る。


「でも安心して……わたしは友達だから」


 そう言って、彼女の肩に手を置いた。


 ――おや、何故なぜかしら?


 リムが面倒なモノを見るような目で、わたしを見詰めている。


(ここは感動して、涙を流すシーンでは?)


「二人とも、すっかり仲良くなったようで嬉しいです」


 とシキ君。


「お兄様っ、違います――良く見てください!」


「わたし達、仲良しです!」


 わたしはそう言ってリムに抱き着いた。

 リムは嫌そうに両手でわたしを押し退けようとする。


「ちょっと、離れなさいよ!」「いやー」


 わたし達がそんな風にフザケテいる間に、シキ君は黒いもやのような渦を展開させる。どうやら、これが【扉】らしい。


 ――台座はフェイクだったのね!


「では、向こうとつなぎましたので、楽しんで来てください」


 そんなシキ君の笑顔に、


「はい、お兄様♥」


 リムはすっかり見惚みとれてしまっている。


 ――ダメだ、こりゃ。


「えーっ、シキ君は来ないの?」


 わたしの台詞に、リムも残念そうな表情をする。

 すみません――とシキ君は謝った。


「僕も一緒に行きたいのですが、桜夜のそばから離れる訳には行きませんので――」


「じゃあ、サヤちゃんも一緒に……」


 名案を思い付いたように、わたしは発言するも、リムにひじで小突かれる。

 めなさい――という事だろう。


「姫様はあまり……向こうの世界が好きじゃないのよ」


「ふーん」


 何か嫌な事でもあったのだろうか?

 うつむいたリムの表情が暗い。


「向こうに着いたら、案内役の者が居ますので、一緒に行動してください」


「はーい!」「はい、お兄様♥」


 わたしは元気良く返事をする。

 予想はしていたが、シキ君の言葉にリムは一瞬で元気を取り戻す。


 ――やっぱり、わたしがしっかりしないとダメみたいね。


「気を付けてな」


 とはレン君。


「帰って来なくてもいいぞ」


 とはトーヤ少年だ。生意気なので抱き締めておこう。


「わっ、めろ! 放せ!」


 顔を真っ赤にして慌てる姿は、ちょっと面白い。


「ユズ、その辺にしなさい!」


 パシンッ――とリムに頭を叩かれる。


「ユズのそういう行動が、この城の秩序ちつじょを乱すのよ」


 ――おっと、そうでした。


 今はブラを着けていなかった。

 シキ君から男物の服を借りている状態だ。


 ――それで、サヤちゃんに買い物に行くよう言われたんだった。


(ダイレクトな感触は、子供には刺激が強過ぎましたかね)


「ゴメンね……トーヤっち」


 わたしは離れる。


(まぁ、まったく悪いとは思っていませんが……)


「……」


 トーヤ少年は頬をさすり、無言でわたしをにらみ付けてきた。


(どうやら、わたしの胸の感触が忘れられないようね)


「いや~ん、エッチ!」


 わたしは思い出したように、両手で胸を隠す。


「違う!」


 そう言って、トーヤ少年はそっぽを向く。


 ――ありゃりゃ、遣り過ぎたかしら……。


(でも、可愛いのでまたいじろう!)


 一方――


「お姉ちゃん……」


 とヒナタちゃん。


 ――こっちも可愛い!


(でも、連れて行く事は出来ないんだよね)


「お姉ちゃん!」「ヒナタちゃん!」


 ヒシッ――とわたし達は抱き合う。


「何でそんなに仲良くなってるのよ……」


 とリム。


 ――ふっふーん♪ 焼餅かね?


「その顔、本気マジでムカつくから止めて」


(もう、素直じゃないんだからっ!)


「ほら、行くわよ! ヒナタも離れなさい……バカがうつるわよ」


「じゃあね、ヒナタちゃん、皆!」


 わたしは手を振りつつ、リムに引きられるように【扉】をくぐった。

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