第二章 世界は既に滅びている

第13話 自分の目で見て


「はぁ~、疲れたよねぇ」


 そう言って、わたしはベッドの上に横になる。

 下ろし立ての水色のパジャマは、シキ君から貰った。


 少し大きいが問題はない。袖や裾が長いのでまくっている。

 サヤちゃんやリムちゃんのパジャマだと、わたしには小さいようだ。


(どうも、わたしの方が一回り大きいみたい)


 無理に着ようした場合、胸元を開けるか、おヘソを出すかの二択になってしまう。

 そうなると、パジャマを着ているだけなのに、何かエッチな雰囲気が漂う。


(サヤちゃんといい、リムちゃんといい――美人で細くて)


 ――ホント、うらやましい。


「それは貴女あなただけでしょ――って、何であたしのベッドで寝ているのよ!」


 とリムちゃん。予想通りの反応だ。

 今――わたしは枕を持参で――リムちゃんの部屋に遊びに来ていた。


 ――いや、本当の目的は別にある。


「だってぇ、わたしの部屋……何も無いし」


 わたしは泳ぐように、リムちゃんのベッドの上でうつ伏せになる。


 ――チラッ。


 リムちゃんも、既に寝る準備をしていた。

 鏡の前で髪をかしている。サラサラの綺麗な髪だ。


「あんなところに一人で寝るなんて――怖くない?」


 知らない場所で、真っ暗な部屋に一人――不安で心細い。


 ――チラッ。


 知らないわよ――とリムちゃん。

 その手をめると立ち上がって、こちらを向いた。


「リムちゃんと一緒がいいなぁ」


 わたしはそう言って、枕を抱き締めると、上目遣いでリムちゃんを見詰める。

 記憶は定かではないが、わたしはこういう事が得意なのだ。


 ――まぁ、さっきは失敗したけどね。


 その証拠に、リムちゃんは頬を微かに赤く染めている。 

 表情も何処どこが嬉しそうに見える。


 ――やっぱり、ツンデレ?


(もう一押しだね……)


「フンッ――嫌よ……だって貴女あなた、漏らすじゃない」


 リムちゃんは――プイッ――とそっぽを向き、そう言った。


(意趣返しかな?)


 ――ホント、変なところで素直じゃないな。


「ちょっと、漏らしてないから!」


 わたしは――ガバッ――と上半身だけ起こし、反論する。


(そのキャラを定着させるのは止めて欲しい……)


「リムちゃんだって、燃やすじゃん!」


「『燃やす』と『漏らす』を一緒にしないでくれる!」


 とリムちゃんが腰に手を当て、わたしを指差した。

 その態度に、少しカチンと来たので、


「一緒じゃん! どっちにしても、人として問題でしょうが!」


 売り言葉に買い言葉だ。

 わたし達はしばらくの間、にらみ合った後――どちらともなく笑うのだった。



 ▼▲▼  ▼▲▼



 暗く、しんと静まり返った部屋で、


「ねぇ、リムちゃん……」


 わたしが名前を呼ぶと、


「何よ――」


 と彼女は答えてくれた。

 仰向あおむけで寝るわたしに対し、彼女は背を向けて寝ている。


「シキ君の言っていた事は本当なんだよね?」


 彼が嘘をいていない事は、何となくだが分かる。

 でも、夕食の際に聞かされた話は、突拍子とっぴょうしのない内容だった。


「世界が――既に一度、滅びているなんて……」


 世界は一度バラバラになり、サヤちゃん達はその世界の欠片を集めている。


「それは自分の目で見て、確かめなさい」


 とリムちゃん――本当の事よ――とは言ってくれない。


(彼女なりの優しさなのかな?)


 自分で考えなさい――という事だろう。


 ――不器用なリムちゃん。


 わたしは考える――シキ君の話を。

 

『世界は一度滅びていて、ゆっくりとですが修復されています』


 わたしが元居た世界ばしょは、その滅びた世界の欠片でしかないそうだ。

 その欠片をサヤちゃんとシキ君が元の世界に戻したらしい。


 世界が修復される際、わたしは要らないモノとして拒否された。

 その影響で、記憶が一時的に失われている。


「わたしって――世界から見たら、『異物』なんだよね」


「大丈夫よ……姫様もお兄様も居てくれるから――」


 ――なるほど。


(リムちゃんもわたしと似たような境遇きょうぐうなのか……)


 だから、シキ君はリムちゃんにわたしを預けたのだろう。

 わたしの居た世界ばしょの基となった世界――


 ――『本当の地球』が存在する世界。


 そこには、外敵である【怪異】から、世界を守っている組織がある。

 宗家である風華院家を中心とした術師による八つの家系。


 サヤちゃんはその内の一つ、月神家に連なる。

 血統でいえば、その月神家の当主にもなれるらしい。


 だが、彼女は訳あって、月神家の裏の顔ともいえる『朔乃宮さくのみや』を継ぐ事にしたようだ。


 リムちゃんがサヤちゃんの事を姫様と呼ぶのも、彼女がその朔乃宮家の当主だからだろう。


 ――じゃあ、シキ君はお姫様を守る騎士という訳か。


「シキ君は優しいよね」


「当たり前でしょ! あたしのお兄様なんだから――」


「サヤちゃんもさびしくないね」


「当たり前でしょ! あたし達だって居るだから――」


「リムちゃんも優しいね」


「……」


 ――おや、黙ってしまった。


(まぁ、あまり話し込んで、炎を出されても困るか……)


 ――今日はこの辺で黙るとしよう。

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