第12話 皆、よろしくね!


「まぁいいわ――話が進まない」


 とサヤちゃん。


「改めて紹介するわ――この胸の大きさにコンプレックスを抱えている猫被りが『赤月あかつき璃夢りむ』よ」


「ひ、姫様――っ!」


 リムちゃんは少しショックを受けた顔をする。


(いまいち、猫は被れていない気もするけど……)


 よろしく――とわたしは手を振っておく。

 シキ君の手前、リムちゃんはスカートの裾を持ち、足を前に出して一礼する。


「それから――」


 サヤちゃんはそう言って、レン君を見た。


「抵抗出来ないのを良い事に――女性の身体を蹂躙じゅうりんする変態が『鋼月こうづきれん』よ」


(後ろからですが、裸も見られましたけどね……)


 レン君は――それ、酷くね?――と抗議する。

 だが、女性陣全員から冷たい視線を向けられ、それ以上、話すのをめた。


「それから、そこの双子――男の子の方が兄の『氷月ひづき読夜とうや』」


 フンッ――とトーヤ少年。

 わたしの裸を見て、顔を真っ赤にしていたクセに生意気な態度だ。


「女の子の方が妹の『氷月ひづき陽詩ひなた』よ」


 よろしくね、ウサギのお姉ちゃん!――とヒナタちゃん。

 彼女とは仲良くやっていけそうだ。


「じゃあ、貴女あなたの紹介ね」


 サヤちゃんに言われ、


「『夕月ゆづき優子ゆず』です! 皆、よろしくね!」


 ペコリと頭を下げるわたし――シキ君とヒナタちゃんだけが拍手してくれる。

 他の連中はダメだ。


「記憶が無いそうだから、気を遣ってあげて――」


 とサヤちゃん。言い終わるとほぼ同時に、


「姫様っ、あたしは納得していません!」


 とリムちゃんだ。

 サヤちゃんとしては、その反応は予想通りなのだろう。


「別に……私の【守人】にするという話ではないわ」


 と告げた。

 それから、リムちゃんの頭をでてなだめると、


「記憶が戻るまでの間、様子を見るだけよ」


 とさとす――その瞳は少し優しい。

 見た感じはリムちゃんの方がお姉さんなのだが、どうやら逆のようだ。


(サヤちゃんがお姉さんで、リムちゃんが妹みたい……)


「はい、分かりました……」


 リムちゃんは引き下がる。

 シキ君だけではなく、サヤちゃんの言う事にも従うらしい。


「なあ、姫さん……ソイツはどんな能力を――」


 レン君が口を開いた瞬間、サヤちゃんに吹っ飛ばされた。

 彼女は何かをしたようだったが、わたしには良く分からない。


「蓮が失礼をした」


 とサヤちゃん。ちらりとレン君を尻目に、


「あの通り……反省はしていないが、許してやって欲しい――何なら、罰を与える」


 既に女性陣からは冷たい視線を向けられ、サヤちゃんには吹っ飛ばされ――


(可哀想な気がする……)


「分かったわ、サヤちゃん――許してあげるから……その罰、わたしが考えてもいい?」


 わたしの発言に、サヤちゃんは少しおどろいたようだったが、


「好きにしなさい……」


 口元が少しほころんだ気がする。


(笑ったのかな?)


「えっ? オ、オレの意思は……」


 起き上がるもフラフラとした様子で、疑問符を浮かべるレン君に対し、


「何……変態? 私の判断に不服でも?」


「いえ、ありません!」


 レン君はサヤちゃんに言われ、ビシッと直立し――敬礼する。

 そして――よろしくな☆――とわたしにウインクをした。


「じゃあ、詳しい事は食事の時にまた話すわ――白騎しき、準備をよろしく」


かしこまりました」


 サヤちゃんの言葉に、シキ君は頭を下げる。

 どうらや、ここではシキ君が皆の身の回りの世話をしてくれているようだ。


「料理なら、わたしも手伝うよ」


 何だか、そういうのは得意な気がする。


(それにジャージだし……ここでは居候いそうろうの身だ)


「それは助かります」


 とシキ君は微笑む。

 そんなシキ君の学生服を、ヒナタちゃんが――クイクイ――と引っ張る。


「ねぇ、ヒナも手伝っていい?」


 首をかしげ、たずねるヒナタちゃん。


 ――可愛い。


勿論もちろんよ!」


 わたしは答える。

 何故なぜ、お前が答える!――とトーヤ少年はわたしをにらんだ。


 ――もうっ、シスコンね。


「えっ⁉ じゃあ、あたしもっ!」


 リムちゃんが乗り遅れまいと慌てて手を上げた。すると、


「お前はダメだろ……」「がしたのを忘れたの?」


 レン君とサヤちゃんに言われてしまった。

 しゅん――とするリムちゃん。


 ――少し可哀想ね。


「ありがとう! お願いね」


 そう言って、わたしは彼女の手を取った。

 突然の事に、キョトンとするリムちゃんだったが、


「フ、フンッ……そこまで言うのなら、仕方がないわね」


 手伝ってあげるわ――と顔を赤くして、そっぽを向く。

 そんな彼女の様子に、わたしとヒナタちゃんは顔を見合わせて苦笑した。


 レン君とトーヤ少年の二人は嫌そう顔をしていたので、


「でも、炎の能力は禁止よ!」


 とわたしは付け加える。

 こうして、ここでの暮らしが始まった。

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