第11話 貴女はあたしの――敵ね!


「あら、お兄様♥」


 リムちゃんは慌てて身嗜みだしなみを整える。


(今更、遅いと思うけど……)


 ――それより、トイレよ。


「げっ! シキ……」


 レン君は――参ったな――とばかりに頭をく。

 戦闘態勢はすっかり解除されている。


 ――だから、トイレよ。


「シキさん――」


 トーヤ少年はシキ君が背後から現れたため、反応が一番遅かった。


 ――もう、早くトイレに連れてってよ!


「あっ、ウサギさん……」


 わたしは――ピョン――と飛び出し、ヒナタちゃんから離れる。

 そして、シキ君の前に立つ。


「まったく、キミ達はいつも……今日は桜夜さやが新しい仲間を――」


 ――ねぇ、シキ君お願いよ! わたしをトイレに連れてって!


 その時だ。わたしの身体が黄金に光り――輝き出す。


 ――へ? 何事?


「ちょっと、貴女あなた……いったい⁉」


「おいおい……」


 リムちゃんとレン君が声を上げる。

 トーヤ少年は顔を真っ赤にしているようだ。


「まったく……皆して何をそんなに――」


 ――おどろいているの?


 と言おうとしたのだけれど、今はわたしが一番 おどろいている。


(普通にしゃべれる! それに手も人間の手だ!)


 どうやら、人間の姿に戻る事が出来たようだ。

 一瞬、両手を上げて喜びそうになったが――ハッ!――とする。


「い、嫌あぁぁぁぁっ!」


 わたしは裸である事に気が付き、慌ててその場にしゃがみ込んだ。


(ううっ、恥ずかしい!)


 ――パサリッ。


 上から深紅の外套マントが降って来た。


「申し訳ありません……今はこれで我慢してください」


 シキ君が掛けてくれたようだ。一方、


「見てんじゃねぇーよ!」「ふがぁっ!」


 リムちゃんの声と同時に、後ろでにぶい音がした。

 恐らく、彼女がレン君に一撃を与えたのだろう。



 ▼▲▼  ▼▲▼



「――で、らしたという訳か……」


 シキ君から説明を受けたサヤちゃんは、そうつぶやく。


 わたしは今、着替えも済ませ、広間に通されていた。

 この広さなら、いつでもダンスパーティーが始められそうだ。


「いや、らしてませんから! そのあわれむような目で見るのをめて!」


 ドレスがボロボロだったリムちゃんは、和風コーデの衣装に着替えていた。


 当然のように赤を基調としたコーデで、浴衣のトップスにボリューム感がある浴衣素材のフレアスカートを身に着けている。簡易帯がアクセントだ。


 シルエットこそ洋風だが、縁日に出掛けても違和感がない。

 髪をまとめているかんざしや腕につけている飾り結びが可愛らしい。


 一方、わたしはジャージだ。


(何コレ? いじめかしら……)


 借りたシャツは小さかったので、伸びてしまっている。

 おヘソは出てしまうが、すそを縛ってブラ代わりだ。


 ジャージも小さく、胸元までチャックが上がらない。

 ぴっちりと密着し、身体のラインが出ている。


(なんだか、凄くエッチな感じがする)


 ――べ、別に太っている訳じゃないもん!


(ちょっと、肉付きがいいだけなんだから!)


 最初はリムちゃんが服を貸してくれたのだが――胸と腰回りがキツかったため、きちんと着る事が出来なかった。


 それが理由なのか、リムちゃんからにらまれている。まぁ、愛しの『お兄様』であるシキ君に――わたしが裸を見せた――のが原因だろう。


(別に好きで見せた訳じゃないので、文句を言われても困るのだけれど……)


 ――よし。


 わたしは決心する。


「あのっ! わたしとしては、リムちゃんみたいなスレンダーな身体に憧れているの……」


 やや前屈みで、上目遣いに言う。

 ブラをしていない所為せいで、必要以上に胸が揺れてしまった。


「それにね――大きくても、あまり良い事ないよ」


 胸が安定しないので、腕組みをする形で、わたしは胸を寄せて上げる。


「ほら、胸やお尻が大きいと男子が見てくるし――」


 更に可愛らしさをアピールするために――少しだけ、身体を左右にひねる。


「走ったりすると揺れて邪魔だし、こすれて痛かったり、肩がったり、可愛い下着とかも少なくて選ぶの大変なんだよ」


 ――ふぅー、これだけ説明すれば分かって貰えるだろう。


「何それ……自慢?」


 ――アレ? 可笑しい。


(怒りの視線が殺意の視線に変わった気がするんですけど……)


 ――何故だろう?


「ほ、ほら……そこまで大きくないでしょ? これくらい普通だよ」


 わたしは両手で胸を持ち上げ、せて見せた。

 何故なぜか、リムちゃんは絶望する。


「ちょっと、優子ゆず!――これ以上、璃夢りむいじめないでくれるかしら」


 泣きくずれるリムちゃんをサヤちゃんが抱き締める。


(アレ? わたしがいじめてる方なの⁉ ち、違うよね?)


 周囲を見回すが、レン君は口元を押さえて笑いをこらえているし、トーヤ少年は顔を真っ赤にして、そっぽを向いている。


 ヒナタちゃんは人見知りなのか、わたしが視線を向けると、慌ててトーヤ少年の後ろに隠れてしまった。


(うーん、何がいけなかったのかな?)


 腕を組んだまま、あごに指を当て考える。


 ――そうか、なるほど。


「ほら、太って見えるし!」


 わたしは再度、胸を寄せて上げる。


 ――これで理解してくれたはずだ。


「理解したわ……」


 とリムちゃん。


(分かってくれたようだ……うんうん)


 ――でも、ちょっと可笑しくない?


 何故なぜか鋭い目付きでわたしをにらむと、


貴女あなたはあたしの――敵ね!」


 指を差し、言い放った。どうやら、スレンダーな体型の彼女にとって、胸が小さいという事は相当なコンプレックスのようだ。

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