第10話 またですか……


「えへへ、可愛いウサギさん♥」


 少女が嬉しそうに頬擦ほおずりしてくる。


(ちょ、ちょっと馴れ馴れしいわよ……)


 ――スリスリしないでよね!


 そんなわたしに対する少女の様子を見て、


「おい、角があるぞ! 気を付けてくれ……」


 と少年。少女の顔に傷が付く事を心配しているようだ。


 ――そうよ……わたし、危険な女なんだからね!


「うん、大丈夫だよ……あ、それより、足を怪我けがしているみたい」


 ――あら、ホント?


 どうやら、逃げるのに夢中で気が付かなかったみたいだ。


「そんなの、放って置け……」


「ダメだよ……可哀想だよ」


 ――そうよ、可哀想よ!


(でも、今はトイレの方が有難いかな……)


「トーヤ……ちょっと、持っていて――」


 そう言って、少女は少年にわたしをあずける。少年は文句を言いたそうに少女を見詰めるも――結局は、素直にわたしを受け取った。


 どうやら、この少年は少女の言う事にはさからえないようだ。

 小学校の高学年といったところだろう。二人の容姿は似ている。


 ――双子かしら?


(このシスコンめ!)


 でも――


(何だろう……この感じ)


 わたしにも、お兄ちゃんがいたような気がする。


 少女は――わたしが怪我けがをしている箇所に手をかざす。

 すると、淡い黄金の光が放たれ、同時にわたしの傷がいやされていく。


 ――あら、すごい……ありがとう。


「良かったね、ウサギさん」


 少女はそう言って微笑ほほえむと、わたしの頭を優しくでた。


「もういいだろ……ヒナタ――シキさんのところに連れて行こう」


(あら、シキ君のところに連れて行ってくれるの?)


 ――助かるわ。


(それと貴女あなた、ヒナタちゃんっていうのね。よろしく!)


「ねぇ、トーヤ……もうちょっと遊んでからじゃ――」


「ダメだ――危険なモノかも知れない」


 ――そうね。


(早くトイレに行かないと、危険な状況ね)


「ぶー」


 ヒナタちゃんは頬をふくらませた。


 ――あら、可愛い。


(でも、残念ね――わたしは誰のモノでもないの……)


 トーヤと呼ばれた少年の方は、肩を落とすと溜息をく。


「飼えるように頼んでみるよ……」


「ホント⁉」


 ヒナタちゃんは、その言葉に目をかがやかせる。

 やはり、トーヤ少年は彼女に甘いらしい。


 また、少年にとって、わたしの身体は少し大きいようだ。

 そのまま肩に乗せられ、かつがれるような形で運ばれる。


 ――あまり振動は与えないでね。


(大変な事になるから……)


「名前は何がいいかなぁ? えーとね……ウーマロ?」


 無邪気な顔で楽しそうに後をついてくるヒナタちゃん。


(せめて、モグでお願いします)



 ▼▲▼  ▼▲▼



 ゴオォォォッ!


 ――えっ⁉ 何?


(何だか、お尻の辺りがすごくチリチリするんだけど……)


「あの二人は――まったく」


 とトーヤ少年。わたしをヒナタちゃんにあずける。

 同時に、わたしは状況を理解した。


貴方あなたねぇ――あたしが手加減してあげているからって、調子に乗って……」


「手加減? それはこっちの台詞せりふだ――まったく、辺り構わず、燃やしやがって!」


 リムちゃんとレン君が戦っている。


(困ったモノね……)


 ウサギのわたしには、どうする事も出来ない。


(見た感じはリムちゃんの方が優勢ね)


 互いに服はボロボロだけれど、彼女のダメージは少ないようだ。

 一方、レン君はほぼ裸状態だ。すすでところどころ真っ黒になっている。


 でも、一番被害を受けているのは――


(このお城ね……)


 いたる所で火種がくすぶり、壁や窓ガラスにひびが入っている。


 トーヤ少年はヒナタちゃんに――離れているように――合図をすると、


「二人とも、いい加減にしなよ」


 そう言って文字通り――辺りを氷付かせた。

 一瞬の出来事だ。冷気と共に火が消える。


「ちょっと、いきなり何をするのよ……冷たいじゃない!」(へぷちっ)


「さっぶ……こっちは服を燃やされているんだ――めてくれ!」(ぶえっくしょんっ)


 そんな二人の様子に、トーヤ少年は肩をすくめる。


「二人して、バカな事をやっているからだろう……」


「何よ!」「何だと⁉」


 ――ちょっとちょっと、少年!


(火は消えたけど――あまりあおらない方がいいんじゃない?)


 ――その二人、危険よ!


「折角、めてやったのに――礼もなしか……」


 ――やれやれ。


(この様子では――めに行ったのか、あおりに行ったのか――分からない)


 ――ほら、ヒナタちゃんも困っているわよ!


 そこに――


「またですか……」


 オロオロとするヒナタちゃんの肩に手を置き、シキ君が立っていた。

 ホッ――と安心するヒナタちゃん。


(すまんが――トイレが先だ!)

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