第9話 可愛いウサギさん♥
「いや、もう燃やしてるじゃねーか!」
――うんうん、そうよ!
さっきまで、わたし達が居た床や壁、
「そのウサギを捕まえるためよ――炎で逃げ道を
「だったら、まずは声を掛けてくれよ……」
「別にいいでしょ――ちょっとくらい燃えたって……レンなんだから」
「いやいや、オレだから燃やしていいとか――意味分かんねぇからな!」
(ほうほう、キミはレン君というのかね)
――セクハラ超人君。
どうやら、二人はあまり仲が良くないようだ。
レン君はリムちゃんに文句を言うと同時に、右手を伸ばしていた。
そして、力を入れて拳を握った――いや、
イメージ的には――不可視の力で、何もない空間を握り潰した――という印象だ。
(どうやら、これが彼の【異能の力】のようね……)
原理はよく分からないけど、人間離れした身体能力といい、
レン君はわたしをそっと床に置くと――逃げな――と一言。
彼は動物を愛する青年らしい。
――おう、
わたしはサヨナラする。
「ちょっと、何で逃がすのよ!」
リムちゃんは怒るが、
「当たり前だろ! 悪いが、ここは通さねぇぜ」
二人は
▼▲▼ ▼▲▼
――ふぅー、ここまで逃げればいいでしょ。
わたしは適当な通路の曲がり角に身を
正直に言うと、お城の内装には特徴がなく、
(もしかしたら、そういう【魔法】でも掛かっているのかしら?)
十分にあり得る――【魔法】に対抗する
(まぁ、理由が分かったところで、状況は一向に好転しないけどね)
恐らく、大人しく待っていれば、シキ君が見付けてくれるだろう。
何とも他力本願だが、他に手が思い付かない。
(ここで待つべきよ)
――ハッ! この感じは……。
どうやら、更に最悪の状況になってしまったようだ。
――トイレ……どうしよう⁉
『今はウサギよ……誰も見ていなし、別にそこでしちゃえば?』
と黒い翼のわたし――でびるユズっち!
『ダメよ! 女の子なんだから、はしたないわ!』
と白い翼のわたし――えんじぇるユズっち!
『いやいや、女の子以前に人としてダメだろう』
と眼鏡を掛けたインテリぶったわたし――誰?
『まぁまぁ、皆さん落ち着いて……ここは多数決で決めましょう』
と頭がお花畑なわたし――いや、誰よ!
『フッ、多数決が必ずしも正解とは限りませんよ』
と少し斜に構えたわたし――ちょっと、恥ずかしいんですけど!
――って、何人出て来るの⁉
(普通は天使と悪魔でしょうが!)
トイレを我慢するため、疑似人格を創り出すという
「わぁ♥」
背後から女の子の声がする。
どうやら、接近に気付けなかったようだ。
――しまった、油断した!
(い、いつの間に……)
後ろから両手で
(こらっ、離しなさいよ!
「止めなよ、ヒナタ――そんな汚いタヌキを
今度は男の子の声だ。いや、それよりも――
――おいっ、誰がタヌキだ! それに汚くないわよ!
わたしは暴れるも、一向に
(アレ? 何、この
白くて、今にも折れそうなくらい細い腕。
それなのに、まるで
全然、逃げられる気がしない――力が強いとか、技術を持っているとか、そういうのとは別の感じがする。
(ひょっとして、わたし……今)
――危険な状態なのかしら?
「そんな事ないよ」
――ホント?
「よく見て、トーヤ――タヌキじゃなくて、可愛いウサギさんだよ」
やっぱり、意思の
(まぁ、可愛いって言ってくれたから、許して……)
少女のわたしを抱き締める腕に力が入る。
――おいっ! ギブ、ギブ!
(出ちゃう――出ちゃいけないモノが出ちゃうから!)
わたしが苦しんでいる様子に気が付いたのか――ハァ――と少年は溜息を
「その『可愛いウサギさん』とやらが……苦しそうだぞ」
と忠告してくれる。
「あっ! ゴメンなさい――ウサギさん……」
少女は少年の忠告に、慌てて腕の力を
――ホント、大変な事になるところだったわ。
(坊主、ありがとよ!)
――って、通じないんだった。
「えへへ、可愛いウサギさん♥」
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