第7話 いいえっ、お兄様!


「さて、まずは仲間を紹介したいのですが――構いませんか?」


 シキ君はそう言って、とある部屋の前で立ち止まった。

 ドアのネームプレートは赤い花で縁取られ、『RIMU』と表記されている。


 ――女の子の部屋?


 正直、怖い気もするけど……いいわよ。

 どうせ、一緒に暮らすのだから、避けては通れない道だよね。


 シキ君は――コンコン――とドアをノックをする。


「はーい、誰? ヒナタ?」


 と女の子の声がする。


「僕です――白騎です。今、大丈夫でしょうか?」


「ええっ⁉ お、お兄様! あら、やだ……少しお待ちを――痛っ!」


 何やら――ドタバタ――と音がするけれど、大丈夫かしら?

 シキ君の様子に変わったとろこは見られないから、いつもの事のようね。


 やがて――


「お待たせして申し訳ありません……お兄様♥」


 明らかにあちこち、ぶつかったような音がしていたのだけれど――そこには、何事もなかったように深紅のドレスをまとった綺麗な女の子が微笑んでいた。


 年齢はわたしと同じくらいだろうか?

 肩の辺りまで伸ばしたサラサラの髪に、整った顔立ち。


 ちょっと目付きがキツイ感じがするけれど、美人と言ってしまえば、それで納得が出来てしまう。


「すみません、リム……急に訪ねて――」「いいえっ、お兄様!」


 リムと呼ばれた少女は――ズズイ――と距離を詰めて来る。


(多分、この……わたしの事、見えていないわね)


「お兄様であれば、いつでも大歓迎です!」


 ウットリとした表情でシキ君を見詰める。

 恋する乙女のオーラが全開のようね。


(ただ、シキ君には伝わっていないようだけれど……)


「時間があるのなら良かったです――実は、リムに頼みたい事がありまして……」


「はい♥ 何なりとお申し付けください――お兄様の頼みなら、この身を差し出す事もいといません」


 何だか、残念な感じのね。

 シキ君はそんな彼女の前に、わたしを差し出す。


「このなんですけどね……」


「あら、タヌキですか?」


 ――ウサギだよ。


「新しい仲間です――ユズっち、彼女の名前は『赤月あかつき璃夢りむ』といいます。仲良くしてあげてください」


 わたしは引き渡される。


「あら、では姫様が――また?」


 とはリム――彼女は首をかしげる。少し困っている様子だ。


(よくある事なのかな?)


 ――いや、そんな事よりも……。


(うーん、安定しないなぁ……)


 ――もうちょっと、しっかり持ってよね!


 そんな、わたしの頭をシキ君は優しくでながら、


「そうなんです……また、拾ってきてしまいました」


 と告げる。


(はい、拾われました)


 ――って、ええっ⁉ そうなの?


(野良ウサギじゃん、わたし!)


「でも、とっても良いです。仲良くしてあげてください」


「分かりました……しかし、姫様にも困ったモノですね」


 リムはそう言って、溜息をいた。

 そんな彼女に対し、


「まぁ、そう言わないであげてください」


 とシキ君。するとリムは慌てた様子で、


「も、申し訳ありません!」


 と頭を下げる。今にも泣き出しそうな顔だ。


 きっと、このにとっては、シキ君に嫌われる事が――物凄く怖い事――なんだね。


 ――でも、大丈夫だよ。


「決して……決して、姫様に不満がある訳ではありません――お優しいのも、ほどほどにしませんと……」


(ね、シキ君……最初から、怒ってないよね?)


「分かっていますよ――リムが居てくれて、いつも助かっています」


 そう言って、シキ君はリムの頭をでた。

 すると、彼女の表情が変わる。


(うわぁ、顔を真っ赤にして、凄く嬉しそう)


「このの名前は『夕月ゆづき優子ゆず』さん――『ユズっち』――と呼んであげてください」


「そうなんですね。よろしくね、ユズっち」


 ――そうなんです。


(よろしくね、リムちゃん) 


「では、皆が集まる夕食の時間まで、面倒を見てあげて欲しいのと……城内の案内を頼んでもいいですか?」


 ――お願いするぞい!


「はい、分かりました――お兄様♥」


 頼りにされて、リムちゃんは凄く嬉しそうだ。

 でも、さっきから『お兄様』って呼んでるけど……絶対、兄妹じゃないよね。


「僕は……桜夜のところに戻らないといけません――部屋から追い出されてしまいましたが、寂しがり屋ですからね」


 シキ君は苦笑すると、


「じゃあ、ユズっち――また後でね」


 そう言って手を振った。


 ――おうよ、達者たっしゃでな!


「あぁ、お兄様……行ってしまわれた――」


 リムちゃんはそう言って、盛大に溜息をく。


 ――ハッハッハッ、振られたな。


(まぁ、人生そういう事もあるさ)


 ――って、あれ? 腕の力……強くなってない?


「お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様……」


 ――ちょ、ちょっと!


(何? 何なの⁉ この……)


 ――怖いっ!

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