第6話 全力で守らせてあげるわ!


 お、落ち着くのよ……わたし。

 心音が速いのは、小動物だからよ。


 そして、哺乳類の心臓は一生に打つ回数が決まっていて、心臓が鼓動する速さで寿命が決まっている――っていう説があったわね。


 ――落ち着ける根拠がねぇーよ!


「十分、冷静な方だと思いますよ」


 そう言って、シキ君はわたしの頭をでてくれた。


 ――ううっ……ありがとう。


 わたしが――どういう事よ!――と質問攻めにすると、サヤちゃんは説明するのが面倒になったようだ。


 そのの世話は白騎に任せるわ――と言って、わたし達は部屋から追い出されてしまった。


「まずは記憶を取り戻す事を考えた方が、いいかも知れませんね」


 とシキ君。


 ――確かにそうね。


 何故なぜか色々と忘れている事が多いみたい。

 余計な事は沢山覚えているのに……。


「まぁ、思い出さない方が良い事も……ありますけどね」


 確かに、もう会えない家族や友達の事を思い出すのはつらそう……。


「ただ……自分の姿を取り戻す必要はあると思います」


 ――姿?


 ハッ! そう言えば……何でわたし、ウサギの姿なんだろ⁉


「原因は、ユズっちの【異能の力】に関係があるのでしょう」


(【異能の力】――何それ、カッコイイ!)


 どうやら、わたしの【真の能力】を見せる時が来たようね――って、ウサギかよ!


 ――ふぅー、早く人間になりたい。


「まぁ、あせっても仕方ありません――まずはここの説明をしますね」


(お願いします!)


「まず……僕達が今、存在する世界を――【ぜろ】――とします」


 そう言ったシキ君の手から、黒いもやのような球体が現れた。

 それを――フッ――と吹くと、フワフワと前方に移動する。


 どうやら【吸血鬼】というのも、【魔法】というのも、本当らしい。


「この世界では通常――生き物は存在出来ません」


 だよね――宇宙空間みたなモノかしら?

 いえ、何も無いようだから……もっと過酷かこくかも⁉


「そこで【姫】――桜夜の能力の一つである【幻舞城】を召喚して、【結界】の中に住んでいるという訳です」


 シキ君は黒い球体の中に、白い光の粒を出現させた。


 ――つまり、ここは宇宙船みたいなモノなんだね。


「今はそう思ってくれていて構いません」


 言葉のニュアンスから察するに――重要なのは、このお城の事ではなく、このお城の外へは出ない方がいい――という事だろう。


「それともう一つ……気を付ける事があります」


 シキ君は新たに、赤い光の粒をいくつか出現させた。


「【怪異】――存在するはずのない存在……僕達とは決して相容あいいれない存在が、この世界には生息しています」


 ――つまり、敵だよね。


 この【異能の力】が唯一の対抗手段なんでしょ。

 むっふぅー、わたし知ってるんだから!


「話が早くて助かります――でも、ユズっちの能力はまだ不明ですので、戦わずに逃げる事を優先してください」


 はいはい、分かってますって。

 全力で守らせてあげるわ!


「ハハハ……責任重大ですね」


 こんな、わたしの話に合わせてくれるなんて――シキ君はさぞかし、モテるんでしょうね。


 そりゃ、素直じゃないお姫様のサヤちゃんも、好きになっちゃうよね。


「単に……僕が死なない存在だった――というのもありますけどね」


 それでも、『好き』は否定しないんだね。


「長くなるので、その話はまた今度――それで、この【怪異】の厄介やっかいなところは、世界を侵食しんしょくするという事なんです」


 ――侵食しんしょく


「はい、世界が腐り落ちる――とイメージしてください」


 そう言うと、シキ君が作り出した黒い球体はドロドロと紅い液体となり、溶けて消えてしまった。


 まるで血液のようにも見えたソレは『腐る』というよりも、甘美な死のように見て取れる。


「そうなんです――厄介やっかいな事に、人間の中にはコレを『美しい』と感じてしまい、積極的に【怪異】に手を貸す者も存在します」


 それは困ったわね。


(もしかして、その人間も殺すの?)


「桜夜自身は、出来る事なら『助ける』と決めているようです――ですが……」


(上手くは行かないのね?)


「はい……大抵の場合は【怪異】と同化し、【異能の力】を身につけ、その姿も異形の者へと変化しています」


 確かに、それでは手のほどこしようがない。


(仕方が無い事なのね?)


 シキ君はうなずく。だけど、わたしには彼が――人間を殺す事に抵抗がある――といった感じには見えなかった。


 きっと、彼が嫌なのは――サヤちゃんが人を殺す事――なんだね。

 そして、彼女が傷付く事。


 ――分かったわ。


(わたしも、サヤちゃんのために力を貸すね)


「ユズっちにはかないませんね……さて、まずは仲間を紹介したいのですが――構いませんか?」


 シキ君はそう言って、とある部屋の前で立ち止まった。

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