第5話 えっ、それ酷くない?


 ――何でわたし、ウサギなの⁉


 ――何故なぜしゃべってもいないのに言葉が通じているの?


 ――貴女あなた達は誰なの?


 ――どうして、わたしはここに居るの?


 おどろいて――思わず、わたしは青年の腕から、ピョンと飛び降りてしまった。

 それで現状が良くなる訳でもないのに……わたしって、バカだよね。


(きゃあぁぁぁぁっ! 落ちるぅ~、誰か助けて!)


 床に――ぶつかる!――と思った瞬間、わたしは目をつぶる。

 だけど――


「まったく……世話が焼ける」


 銀髪ツインテールちゃんだ。

 どうやら、床にダイブして、わたしを受け止めてくれたらしい。


 ――ありがとう。


(何だ、良いじゃないの……ゴメンね、痛くなかった?)


 ――べ、別に仲良くしてあげない事もないんだからね。


「ふん、不細工め」


 と銀髪ツインテールちゃん。

 片手でわたしを抱きかかえ、衣服の汚れを払う。


 ――ひどっ!


(まったく、人の顔を――いえ、今はウサギなのかな?)


「知らない……」


 そう言って、そっぽを向いた。


(ちょっと、訂正してよね! プンプン!)


「すみません……彼女、素直じゃないんですよ」


 青年がフォローを入れる。そして、


「僕の名前は『月守つきもり白騎しき』――白騎と呼んでくれると嬉しいです」


 と会釈えしゃくをしてくれた。漆黒の髪に優しげな灰色の瞳。

 しかし、肌は青白く、あまり健康的ではなさそうだ。


(ハイハーイ! じゃあ、わたしも『ユズっち』でいいよ!)


「分かりました、ユズっちさん――因みに【吸血鬼】は僕の方ですよ」


 そう言って、シキ君は牙を見せてくれた。


(大丈夫よ――危険な香りのする男性……嫌いじゃないもの)


「おい、言っておくが……白騎は私のモノだ」


 と銀髪ツインテールちゃん。


(何ソレ? もしかして焼き餅? あら、可愛い♥)


 すると銀髪ツインテールちゃんは拳を握り締め――プルプル――と小刻みに震えた。


(あら、怒ってらっしゃる? ゴメンちゃい)


 シキ君はそんな、わたし達の遣り取りに苦笑すると、


「失礼っ」


 と頭を下げた。続けて、


「彼女の名前は――『朔乃宮さくのみや桜夜さや』」


 と紹介してくれる。


(あら、貴女あなた――サヤちゃんっていうの? わたし、ユズ……よろしくね)


「そして――僕やユズっちのあるじにして、この『幻舞城げんぶじょう』の【姫】です」


 どうやら、彼女はお姫様らしい。

 確かに、そう言われると彼女はドレスを身に着けている。


 部屋が薄暗く、ドレスの色も黒だったので気付かなかった。

 そして、わたしのご主人様だ。


(なるほど、分からん!)


 ――ちょっと、どういう事よ!


(説明してよね! プンスコプンプン!)


「ええいっ! うるさい!」


 そう言いつつも、彼女はわたしをそっとソファーの上に置いてくれた。

 やっぱり、良いでした。


 ――ゴメンね、うるさくしちゃって……大人しくするから、説明してちょ。


 シキ君は顔をらすと、のどの奥で押し殺すように笑った。

 【吸血鬼】って言っていたけど、この中では彼が一番人間っぽい。


(うーん……まぁ、悪い人達ではない――いいえ、人間ですらない?)


 ――良い人でなしのようね。


「……白騎――この、アホだわ」


(なっ、失礼な――でも、我慢がまんよ……話が進まないからね)


 わたしだって、学習能力くらいあるのだ。


 ――アホじゃないもん!


「白騎――貴方、さっきはわざとこのを助けなかったわね」


(えっ、それひどくない?)


「ええ、桜夜が助けると思っていましたからね」


(なるほど、サヤちゃんとわたしを仲良くさせるためね)


 ――って、落ちたら怪我するでしょ!


「大丈夫よ――その時は白騎が助けてくれるから」


(ホ、ホント?)


 わたしがシキ君に疑いの眼差しを向けると、


「本当ですよ――僕、【魔法】が使えるんです」


 そう言って微笑んだ。普通なら胡散うさん臭いと思うところだけど、どうにも、彼のいう事は信じられる。


「ありがとうございます」


 シキ君は微笑んだ。


 ――不思議ね?


 確かに、今のわたしの状況についても、【魔法】と言われれば、それで納得するしかない。


「それで申し訳ないのですが――簡単に説明しますね。ユズっち」


(何々? シキ君)


「残念ですが、ユズっちの居た世界は消えてなくなってしまいました……」


(そうなんだぁ――へ?)


「残酷な言い方になりますが、世界は既に滅びています――ユズっち……キミは最後の生き残りです」


(はいーっ⁉)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る