断片禄

ミネルヴァのお昼どき

「さて君は。ミネルヴァ。生まれも育ちもここ夢幻境との事だが、君の認識構造は僕たちとは到底遠い。気を悪くしないでほしいが、次元がいくつか足りていない。」

「まあいやですわ。気を悪くなんてしてませんわ。見えなくて良いものを見ずに済むのはいいことです。未来なんてこれっぽちも知りたくありませんもの。」

「そう、君は生まれついてのここの住民だ。こんな辺境で育ったためにか?それとも、その生来の性格がそうさせているのか?ええい、何故このように片側から片側に進む言語を使うのかね。とても、いや、こういうときは不便と言えば良かったか?」

「そうですわね、不便、と言えばひとことですみます。単語って便利でしょう?」

「冗談はよせ、せめて四方向の言語を使えばもっと便利で速いだろうに。」

「それではがありませんわ。言ったでしょう。知りたくない事は知りたくないんですの。」

明瞭に認識かくしんしたぞ、やはり君は学ぶ気がそもそもない様だ。」

「ええ、些細な変化を探して何時間も歩きたいのですわ」

「君が、ええと、乳の中に生まれていたらどうなっていただろうね?」

「ふふ、市中シチューでしょうかね?きっと同じ様に過ごそうとして、困った事になっていたでしょうね。想像もつきませんが。」

「つかないんじゃない、君はそうしないだけだ。ええい、なんだこの不利なゲームは。全くどうしてこんなに非効率なのだ。これでは象と遊ぶ犬だぞ」

「いいですわね。少しづつこの言語が理解できていますよ。それに、種族が違っても遊べますもの。今度お忍びであちらに行きます?明らかな異種が育む友情とは、中々美しいものでして。」

「遠慮させてもらうよ。第一君と私は同種じゃないか。どうしてそんなに頑ななんだね。」

「困ってませんもの。困りそうになったら、こうして貴方が助けてくれますもの。心配しないで、その気になったらだってすぐに理解できますわ。ところで食事は済ませたのかしら?丁度これからランチにするところだったのよ」

「遠慮しておく。今日の所は帰るとするよ。だが覚えておくことね、君のその考えは甘すぎる。ただでさえ出遅れている。あまつさえ呑気にし、不要な事に時間を費やしている。もう追い付けないぞ。」

「おしい!最後の最後で女性ことばが出ちゃったわね。でも今日は他はほぼ完ぺきだった。90点、Aクラスを差し上げましょう。」

「・・・」


あきれ顔をして、紳士風の影がどこかへ消えていった。

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断片禄 @mikuzume

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