しずかコレクション

K

”しずかコレクション”

閑静な住宅地にいつもの朝がやってくる

太陽は既に熱く、電線にとまる鳥たちが歌う

長閑で清々しい朝の空気に家々からかすかに漂う朝食の匂いとあわただしい喧騒の音が混じる


おはよう


”しずか”は眠たそうに眼をこすりながら階段を下りてきた

彼女はようやく最近一人で寝れるようになった

来年から小学生だ


おはよう、ちゃんと起きれたね!

顔洗っておいで、朝ごはん、すぐ出来るよ


”しずか”は台所から振り返ると、洗面所に向かう”しずか”の後姿を見守った


お母さん、おはよう


”しずか”が階段から降りてくる

年季の入ったランドセルは入学の時のプレゼントだ


おはよう、今日ピアノ教室だからね、忘れないでね


おはよー・・・・


スマホを弄りながら

”しずか”が降りてくる


あー私、今日朝ごはんいいや・・・


そういってダイニングの指定席に座る


みんな揃った?

じゃあ朝ごはんにしよう


お母さん、”しずか”がいないよ・・


ん?いち・・に・・さん・・・

あら、ほんとうだ

いやだわ、あの子ったらいつもそうなんだから・・


”しずか”は階段を駆け上がり、部屋のドアをノックする


”しずか”、起きてるの?

遅刻するわよ


うるさいなー起きてるよー

起きてるから


この家には5人の”しずか”がいる

表札にも”しずか”とだけ書いてある



日本は超高齢化社会と少子化の波にのまれた

政府はこれといった打開策も打てず

その影響は国内の様々な分野にもれなく深刻な打撃を与えた

経済活動の鈍化は日本を発展ではなく、退化へ導いた

貧しくなった日本にわざわざ働きにくる外国人などいるはずもなく

活動世代を移民で補うという極めて楽観的な政府の思惑は頓挫した

今は既にそんな時代の政治家たちも黒歴史と次世代への壮大なツケだけを残し世を去って久しい


日本は世界諸国の猛反発を受けながらも、この事態を打開すべく一つの大きな革新の手を打つほかなかったのだ

それは、神の領域として長年人類の歴史の中で否定され続けてきた技術だ

国中から優秀な科学者、技術者が集まり、まさに国の力を結集して、それは作られた



ここに5人の”しずか”がいる

それぞれの年代は異なり、毎日をそれぞれの”しずか”は生きている


近所のD杉家には6人のD杉さんが住んでいる

20代から50代までの世代で、皆職場は違うが、それぞれとても優秀だという


G家には4人、すべて警察官だ


H家の7人は全員IT大手のエンジニア


N家は・・・ここでは伏せておく



ここには5人の”しずか”がいる

5歳、10歳、14歳、18歳、22歳


もうおわかりだろう



人はこの家のことを”しずかコレクション”と呼ぶ






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しずかコレクション K @mk-2K21

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