第13話 魔剣の授業
——女神様の目的を知ったあの日より、1週間後。
僕とエリィは王立魔法学園〈 中級クラス 〉に昇格したため、新たなクラスで共に勉学に励んでいた。
これまでの〈 初級クラス 〉では、魔法の発動を安定させるための[ 魔法杖 ]と、詠唱するための呪文が掲載された[ 魔導書 ]を使用するのが基本だった。
しかし〈 中級クラス 〉になると一転し、新たに[ 魔剣 ]を使用する授業が中心に変わっていた。
そして今日は魔剣を使った、実技の授業に初めて参加する日だった。
もちろん場所は、みんな大好き決闘場である。
***
「——で、実際のところ魔剣って、どうやって扱うんですか?」
他の生徒たちが各自で練習に取り組んでいく中、僕とエリィだけは、最初に先生から個別指導をしてもらうことになり、決闘場の端の方で質問をしてみた。
「アルト……昨日の授業聞いてなかったの?!」
僕は先生に質問したつもりだったが、すかさず隣にいるエリィからツッコまれてしまった。
(……あれ、昨日授業で習ったんだっけ?!)
おっと……これは、驚く事に全く記憶がない。
どうやら昨日の授業中は……ぐっすりと夢の世界でお散歩していたらしい。
「仕方ないですね。アルト君、もう一度先生が簡単に教えてあげますから、よく聞いてくださいね」
先生はそう話すと、
———————————————————————
——魔剣。
……それはラノベや漫画では魔族の剣や魔王の剣の略称で使われる事が多いが、この世界においては普通に "魔法剣" のことを表しているらしい。
本来の、魔法杖を使用した魔法詠唱には、大きな隙が生じてしまう。
だが、魔剣なら
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「——と、まぁこんな感じなので、とりあえず実際にエリシア王女にやって見せてもらいましょうか」
「えぇ……、私ですか?!」
嫌がっているような台詞なのに、どことなくやりたがっているように聞こえたのは、気のせいだろうか……。
「とりあえず、この授業用の魔剣を使用してみてください」
エリィは先生から渡された授業用の魔剣にチラッと目をやると、手慣れた手つきで握りすばやく構えた。
(あれ……? エリィは魔剣を使い慣れているのかな?)
妙に魔剣が馴染んでいるようにも見えたため、何となくそう感じた。
「登録されている魔法は『
先生からそう聞かされたエリィは、静かに息を整えると、天に振り上げた魔剣に魔力を流し込みハッキリと魔法名を唱えた。
「凍てつけ——『
魔剣にほんのりと輝きが宿り、魔法陣のようなものが出現したかと思うと、即座に握り拳程度の氷の塊が5個生成された。
氷の塊は魔剣の周囲を浮遊しており、エリィが空を切って魔剣を振り下ろすと同時に、5個全ての氷塊が前方に放たれた。
「おぉ! 詠唱短いし、こっちの方が格段に実戦向きだ……」
短い詠唱での魔法に加え、剣を用いた近接戦にも期待できる。
……これはどう考えても、魔法杖を使用した棒立ち状態の戦闘スタイルより強いと感じた。
そして、エリィは魔剣の使い方を披露し終えると、近くまで寄ってきて何やら目を輝かせて見つめてきた。
「ねぇ、どうだった? すごかった?!」
詰め寄ってくる勢いだったので、エリィの顔が目の前にある。
僕はつい気恥ずかしくて照れてしまい、それを誤魔化すように適当に答えた。
「うん、すごかったよ! ……魔剣はかなり実用的で使い勝手も良さそうだね」
「うーん……そういう事じゃないのに。むぅ……」
適当とは言え思った通りのことを伝えたのだが、どうやらエリィが欲しかった言葉とは違っていたらしい。
「アルト君……。今のは魔剣ではなくて、エリシア王女のことを褒めるべきでしたよ……」
先生にまで、やれやれみたいに言われてしまった。
(仕方ないじゃん……。エリィがあんなに近くに居たら緊張でドキドキしてしまうって!)
心の中で必死に言い訳をするも、もう少し勇気を出せば良かったかな……と後悔した。
「ねぇねぇ! アルトも魔剣試してみたら?」
早くも機嫌を直したかのように見えるエリィにそう言われ、結果は予測できるが僕も魔剣を握ってみることにした。
「こんな感じでいいのかな……?」
「うんうん、いい感じ! 後は剣に魔力を込めて、魔法名を叫びながら振り下ろすだけよ」
エリィからの指示を受けながら、先程見せてもらったお手本を見様見真似で体現する。
深く息を吸い、ゆっくりと吐き出すと同時にハッキリと魔法名を唱え、魔剣を振り下ろした。
「凍てつけ——『
——ブウゥゥゥン……。
魔法は発動せず、魔剣だけが虚しく空を切る音が響いた。
「あれ……? アルト、魔力ちゃんと流してるよね?」
(……流せる魔力がないんですよぅぅぅ。こうなるって分かってたよ、チクショウ!)
僕は泣く泣く魔剣を先生に返した。
——やはりこれからも、この【剣と魔法の異世界】で、魔法も剣も扱えないモブとして過ごすことになりそうだ……。
そんな風に残念がっていると、先生は僕から受け取った魔剣を色んな角度から確認し始める。
「うーん……。アルト君この魔剣は、きっと壊れてますね。【魔帝】様が魔剣を使えないなんてあり得ないですもん」
(ぐはっ……! や、やめてくれぇぇぇ……)
「魔剣壊れてたんだ。 でもそもそもアルトには魔剣なんて必要ないもんね!
(ぐはっ……! それも違うんだけどぉぉぉ……)
先生とエリィによる精神的な攻撃により、僕は心の傷というダメージを負うこととなった。
——冗談はここまでにしておこうか。いや、本当はちょっとだけショックだったけど……。
「さて、せっかくですし〈 中級クラス 〉の他の生徒たちの魔剣の腕前を模擬戦で見たくないですか? 来週、魔剣の国際交流大会に出場する、ハイレベルな子もいるんですよ!」
先生は嬉しそうにそう話すと、僕たちは移動して、クラスメイトたちと合流した。
***
先生の口から魔剣を使用した "模擬戦" を行うことが、話されると突然1人が高々と挙手し始めた。
「ええっと……エイジ・オルガ君? どうしました?」
エイジ・オルガと名乗る青年は、普段から鍛えているのか、制服を着ていてもハッキリと分かるほど、筋肉が隆起しており年齢も明らかに僕より上に見えた。
「ぜひ、その模擬戦はボクに参加させてもらえませんか? そして出来れば
急な提案に周囲のクラスメイトたちもザワザワとし始める。
(エリィを指名だと? この男、どういうつもりなんだ……)
「はい、皆さん静かに! どうしますか? エリシア王女……」
全員の視線が一斉にエリィの方に向けられる。
「エイジ君。貴方は……来週行われる『三国合同魔剣士交流大会』の王国代表剣士だったわね?」
魔剣士交流大会……まさか、先生がさっき言ってたハイレベルな生徒っていうのは、このエイジのことか。
「ええ。ただ参加する前に、貴方の実力を直接この目で見ておきたかったんですよ。『バーサ———」
「やめ、やめてぇぇぇぇ!!!」
エリィが急に取り乱し、顔を真っ赤にしながらも "キッ" とした鋭い目付きでこちらを見つめてくる。
さながら……『今の聞いてないわよね?!』と言われているかのようだった。
当然、エリィのこの反応には僕も含めた他の生徒全員が驚いていた。
「えっと……こ、コホン……ごめんなさい。取り乱してしまって。やりましょう……模擬戦を」
エリィはそう言うと、エイジと一緒に決闘場の真ん中へと移動してしまった。
「ちょっ、先生! 止めなくてよかったんですか? エリィは最近〈 中級クラス 〉になったばかりですよ?!」
正直なところ、僕の中ではエリィは模擬戦を断ると思っていた。
ただでさえ、体格差がある相手なのに、それが国際魔剣士交流大会の代表剣士ともなれば、大怪我をしかねない。
僕が不安そうなしているのを悟ったのか、先生は落ち着きながら話しかけてきた。
「アルト君……あなたはエリシア王女の二つ名を知らないのですか?」
「二つ名と言えば……『孤高の姫』ですか?」
「いや……それは初級クラス内で勝手に呼ばれていただけでしょ……」
先生は『あんな
「彼女は『バーサク剣姫 エリシア・ヴァーミリオン王女殿下』——5歳の頃からその剣才を発揮し、そう呼び名が付いた紛う事なき魔剣使いの神童なんですよ!」
(——まさか、エリィが魔剣士の神童?!)
「まぁ、ゆっくり見てなさい。あなたの
先生はそう話すと、決闘場の真ん中で向き合うエリィとエイジに向けて試合開始の合図を送った。
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次回、ついに明かされるエリィの真の実力。
第14話 『精霊魔剣シルフィード』に続きます!
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