第4話 王立魔法学園へ
——王立魔法学園に通う。
これはヴァーミリオン王国の国民からすれば、エリートにあたるらしい。
日本で言えば、東○大学に入るようなものだろうか。
ただ、自分から入学の希望をした学園が魔法学園だったというのは誤算だった。
(魔法が使えないとお墨付きだから、鍛えたところで使える訳もないし……これからどうやって誤魔化そう)
悩んでいても仕方ないので、とりあえず昨日国王から渡された制服に着替えることにした。
制服は黒を基調にしたブレザーに似た雰囲気に、魔法学園っぽい装飾が加えられており、かなりの高品質な仕上がりだった。赤色のネクタイまで付いており、まさしくデザインは僕の理想だった。
「こんな冴えない僕でも、制服が格好いいと結構イケてるかもしれないな……」
なんて独り言を呟きながら、僕は王立魔法学園へと向かった。
***
——王立魔法学園 初級クラス。
学園に着いた僕は、先生に案内されそのクラスの教室へと一緒に向かっていた。
(よ、よかったぁぁ……。いきなり上級クラスとか言われたらどうなるかと……)
初級クラスなら、まだ誤魔化しが効くかもしれない。移動中はひたすら誤魔化し方について考え続けていた。
——ガラガラッ。
先生が教室の扉を開き、教壇に立つ。僕もそれに続いた。
僕の登場に少しざわつく教室を一通り見渡すと、クラスメイトの数はザッと30人くらいだろうか。
そこには昨日挨拶を交わした、エリシア王女の姿もあった。
「はい、皆さん静かに。今日からここ初級クラスに新しい仲間が加わりますよ。貴族でも平民でもなく国賓扱いとされていますが、皆さん仲良くしましょうね」
先生がクラスメイトたちに説明し、僕は挨拶をする。
「皆さん初めまして。僕はアルトと言います。今日からこのクラスで一緒に学んでいきたいと思いますので、よろしくお願いします」
うん。我ながら無難な挨拶をした。
クラスには、貴族と平民の両方がいるらしく、平民の子と思われる子たちと一応エリシア王女だけが拍手をしてくれていた。貴族の子たちからはあまり歓迎されていないようだった。
(まあ、いきなりエリート学園に特別待遇で転校してきたようなもんだしな。貴族のプライドが高いのは漫画やラノベあるあるだよな)
僕はそう思いながら、気に留めず空いている席に座った。
「はい。それでは今日は魔法学基礎の三十五ページを——」
「先生ッ!!」
先生がこれから始まる講義のページを説明しようとする中、一人のクラスメイトが突然手を挙げた。
「何ですか? ルベルト君……今は授業中ですよ」
先生は注意を促したが、どうやら聞く耳を持っていないらしい。
「先生。ボクは伯爵家の嫡男として、新人がどれ程の実力なのかを知っておきたいと思うんですよね」
伯爵家の嫡男だと自慢げに話すルベルトがそう発言すると、クラスの雰囲気が急変した。
貴族の子たちは口元がニヤつき、逆に平民の子たちは暗い影を落としたように俯いてしまった。
先生はこの空気の変化に気付いている様子はなかった。
(おそらくこのクラスは、貴族が平民をかなり虐げているんだろうな)
異世界に憧れを抱いていた身としては、こういう虐めのようなものは正直見たくなかった。
「今は授業中ですから、みんなも静かにしなさい」
先生は変わらずピシャリと言い放ったが、ルベルトは席を立ち上がると、教壇まで移動し始めた。
「ちょっとルベルト君?! いい加減に——」
「決闘を——伯爵家嫡男ルベルト・ライナーズの名において、新人アルト……君に決闘を申し込む」
ルベルトがニヤつきながら放ったこの発言に、教室内の貴族たちから、一気に拍手が沸き起こった。
(いや、おかしいでしょ! どうして僕が決闘なんか受けなきゃいけないんだ……)
ただ僕の心の内などお構いなしに、ルベルトは話を進めていく。
「そして勝利の暁には "孤高の姫" エリシア王女とペアになることを許していただきたい!」
ルベルトはそう言うと、エリシア王女の方に真っ直ぐ振り向いていた。
「……魔法での決闘でアルト君に勝利したら……ということかしら?」
エリシア王女は重たそうに口を開いた。
「ええ、そうです。どうですか? この申し出を受けてもらえますかね、エリシア王女?!」
クラス中の視線がエリシア王女に注がれる。
「……分かりましたわ。その申し出を認めましょう」
エリシア王女が力なくそう返事をすると、ルベルトはガッツポーズで喜びを露わにしていた。
(僕としては、決闘そのものを止めていただきたいんですけど……)
僕の願いは虚しく、授業は中断され初級クラス一同は決闘場へと移動することとなった。
***
学園に備え付けられている決闘場へと移動した初級クラス一同は、観戦席に着席を始めていた。
ルベルトはいち早く、決闘場内部に移動しており準備運動をしていた。
ここまでくればもはや辞退は難しそうなので、適当に奮闘しているフリをしてやられてしまおうと考え、僕も覚悟を決めることにした。
「あの……アルト君、ちょっとだけいいかしら……」
そんな時エリシア王女に呼び止められ、少し離れた人気のないところに連れてこられた。
「えっと、何でしょう?」
これからの決闘をどう切り抜けるかで頭がいっぱいなので、ただただ早く話を終えて欲しいと思いソワソワしていた。
「お願いがあるの。この決闘、必ず勝って欲しいの。私は……彼と……ルベルトとペアにはなりたくないの」
エリシア王女は俯きながらも、真剣な様子でそう話してきた。
「じゃあ何で僕を巻き込む形で、話しを受けたんですか?」
「それは——」
——エリシア王女によると、以前よりルベルトから執拗に求婚を受けたり、性的な関係を迫られたり等の嫌がらせを受けているとのことだった。
そして学園ではペア制が通例となっており、基本はペアで学園生活を送ることが義務付けられているのだという。
これまでは王女の特権でペアを組まず一人で過ごして来ていたらしいが、ペアがいないと上の中級クラスに上がることができないため、どうしても必要になってくるらしい。
ルベルトはその弱みを突いて、エリシア王女を困らせ私欲を満たそうとしているようだった。
「なるほどな。……だから "孤高の姫" って呼ばれていたのか」
もっと高飛車に振る舞っているから等の理由かと思っていたので、その事実には驚かされた。
「ルベルトは初級クラスの中でトップ3には入る強者なの。でも……あの〈 キングズリーベア 〉を倒せる実力があなたにあるなら、きっと私をこの悪夢から解き放ってくれるって思ったの……」
「いや……僕、本当は魔法なんて使えないんですよ。だから……今回の決闘はボロ負けすると思います。期待に応えられずごめんなさい」
ここは格好をつけて負けてしまうより、真実を伝えた上で負けた方がいいと思った。
「そんな……。あなたが負けてしまったら、私は……」
エリシア王女は嫌な想像をしてしまったらしく、瞳に涙を浮かべていた。
「わ、わわわわかりましたよ! 出来る限りの奮闘はしますから……」
王女様で、しかもこんな美少女を泣かせるわけにもいかない。
「信じています……アルト君のこと……」
エリシア王女は両手で僕の右手をギュッと握ると、そのまま行ってしまった。
(……あ。女の子の手ってこんなに柔らかいんだ)
僕は生まれて初めて女の子から手を握られた温もりを実感しながら、決闘場のステージへと向かった。
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