第3話 ヴァーミリオン王国
僕はまず、王城の敷地内にある離れに通され、少しの間待つように言われた。
(……さすがは王城。離れでさえものすごい広さだな)
広さに関心はしたが、来客用には出来ていないようで、殺風景な様子だったため正直なところ居心地は少し悪かった。
——しばらくすると、槍を携えた二人の兵士がやってきた。
「アルト殿。国王陛下のご家族の恩人と聞いておりますので、国賓扱いで対応するようにと仰せつかっております。どうかこちらにお越しください」
僕は兵士たちに連れられ、王城の中へと案内された。
王城の中は、離れとは打って変わってまさしくファンタジー世界と実感できるような凄さだった。
巨大なガラスの窓は綺麗に装飾が施されており、ピカピカに磨かれているところは美しかった。
また、床に敷かれた紅と金の絨毯はきめ細やかに編まれており、僕の目からも高級品であることは一目瞭然だった。
一際大きな扉の前まで連れて来られると、兵士の一人が大声で叫び始めた。
(……いよいよ国王様とのご対面か。緊張するなあ)
「ヴァーミリオン王国 国賓アルト殿のご入場です」
「入場を許可する!」
国王と思われる人の声が中からすると、大きな扉が音を立てて開かれた。
通路と同じように紅と金の絨毯が敷かれ、その両端には綺麗に兵士たちが並んでいた。
僕が部屋の奥まで進むと、リンダス公爵が笑顔で手を振ってきた。
知り合って間もないが、王城の非現実な様子を目の当たりにすると、少しでも見知った相手がいてくれることで安心した気持ちになった。
リンダス公爵の隣に並んだ僕は、見様見真似で目の前の高級な椅子に座る国王に向けて跪いた。
「よい、
国王から許可が降り、僕とリンダス公爵は頭を上げた。
「貴殿がアルト君か。我が弟とその家族の命を救ってくれて本当に感謝する」
そう話した国王はわざわざ椅子から立ち上がり、僕に向けて一礼した。
これには兵士たちも驚いたようで、一瞬場がざわつきを見せた。
「い、いえ……僕は本当に何もしてないので。ただ時間を稼げたらいいなって思い行動してしただけで……」
自分の中でもあの時起こったことは、未だに理解出来ていなかったので、国王に説明することは難しかった。
「ふむ。君を金銭目的や王家・貴族に取り入ろうとする者かと少しだけ疑ってしまったのだが、善人な者でよかった。報酬をここへ!」
少しでも疑われていたのはショックだったが、それだけ高貴な身分の者は命を狙われたりするということなのだろう。
国王が用意してくれた報酬は三つだと言う。
「まずは、この白金貨を五枚渡そう。この国で最も価値のある貨幣だ」
「白金貨……えっとお金に詳しくなくて、出来れば価値とか教えてもらってもいいですか?」
——国王によれば、銅貨<銀貨<金貨<白金貨の順で価値が上がっていくらしい。
日本円で換算すると……
1銅貨=1,000円
1銀貨=10,000円
1金貨=1,000,000円
1白金貨=100,000,000円
という価値だった。
「——つまり、ご、ごおく!! 貰いすぎですって」
こんな規格外なお金を貰えるはずがなかった。
「いや、それは其方に渡しておこう。ヴァーミリオン王国との友好の証と思っておいて欲しい」
(……友好の証とか言われると断れなくなるじゃないか)
この先何があるかは分からないので、ありがたく頂戴することにした。
「次は、王家の紋章の入った特殊な素材で出来ているカードだ。これがあれば、国内のどの場所でも国賓扱いを受けることができる。無論支払いも不要だ」
(……なんかどんどんやばすぎるものになって行くんですけど)
「ふむ……次は——」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
この調子で行くと次は『貴族位を与える!』とか言われかねないと思った僕は、別の提案をしてみることにした。
「あの次の報酬は、無礼に当たらなければ僕からのお願いを聞いていただくっていうのはどうでしょう?」
「ふむ。何かな?」
国王に対して、意見するなど本来は許されないだろうが、快く聞き入れてくれた。
「実は、学校に通いたいんです……」
僕の前世は高校1年生で幕を閉じていたので、せっかくならここでも学校に通って、今度こそ青春をしてみたいと考えたのだ。
「学校か! それなら王都にいい学園があるからそこに通うといい。うちの娘もそこに通っているんだ」
「娘って……王女様ですか?」
「ああ。アルト君と同じクラスになるだろうな」
王女様と同じ学校と言うのは、少し気がかりだったが、普通の学園に通えるなら何でも良かった。
(よし、この人生では少しでも青春できるような学園生活を送ってみせるぞ)
「ちょうど娘にも礼を伝えるよう呼んでいるから、少し挨拶でも……」
国王がそう話すと同時に、扉が開かれた。
「失礼しますわ、お父様」
扉から堂々と歩み寄ってくる王女様は、綺麗な金髪のセミロングヘアに空のように澄んだ青い瞳をしていた。身体の方も、胸はしっかりと出て、かつウエストは引き締まってるのにお尻はキュッとしており、僕の中のド直球だった。
(……やばい。めちゃくちゃ可愛すぎる!!!)
「あなたが、叔父様たちの命の恩人ね。私はエリシア・ヴァーミリオン。ヴァーミリオン王国の王女よ」
エリシア王女はそう話すと、着ていたドレスのスカートの端を摘み、少し膝を曲げるようにしてお辞儀をした。
「え、えっと、僕はアルトです。よろしくお願いします」
ついついエリシア王女に見惚れてしまい、挨拶が
「ふーん。全然強そうには見えないけど、本当にあなたがあの〈 キングズリーベア 〉を倒したのかしら?」
エリシア王女の意見は最もだった。あの時僕は何もしていないのだから、あの熊が自滅したに違いなかった。
しかし、エリシア王女の言葉を否定するように、リンダス公爵が間に入ってきた。
「エリシア王女。あれは間違いなくアルト殿が見せた最上位魔法である
「な、
エリシア王女は気に食わない様子で、僕の方に振り向く。
「ええ、しかも『
「ふーん。そう……」
ここで僕はエリシア王女の微妙な反応が気にならないくらい、別のところに反応してしまった。
「え、ちょっと待ってください……王立魔法学園……ですか?!」
僕は慌てて国王の方に目をやった。
「そうだぞ。我がヴァーミリオン王国が誇る最大級の学園——それがアルト君が明日から通う王立魔法学園だよ」
最高級の魔法が学べると自慢げに話す国王だったが、僕にとっては地獄でしかなかった。
だって僕は……魔法が一切使えないのだから。
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